59意外なカイヤート
無事にカイヤートに屋敷に転移した。
「ここが俺の屋敷だ。遠慮はいらない。さあ、入ってくれ」
夜の闇の中でもその屋敷がかなりの大きさだとわかる。立派な石造りの屋敷には夜更けだと言うのに灯りが煌々と灯されている。
驚きを隠せないまま入り口を入る。
「お帰りなさい」
突然現れた女の獣人。狼獣人だろう。髪は茶色、瞳は赤いかな?
私は途端に身体をこわばせる。
「あなたやっぱり、屋敷に女を?」
きっと彼を睨みつけた。
「セリ?おい、待て。誤解だって、ミーナ説明してくれ!」
その獣人はくすくすと笑いながら言った。
「安心してくださいセリ様。あなたが殿下の番だって伺っています」
「わ、私は受け入れたわけじゃ」
「私は、いえ、先にご説明をしましょう。私は皇王に関係を強要されて子を宿して赤ん坊を産みました。でも生まれた子供は皇妃やその子供たちに酷い扱いを受けていたんです。それを見かねた殿下がここで雇って下さって子供も一緒に住まわせてもらっているんです。私たちだけじゃありません。行き場を失ったアルビ君の世話もされているし他にも狼獣人の純潔種ではない子供たちの面倒も見られているんですよ。本当に殿下は優しい方なんです」
「ママ?」
「あらあら、目が覚めたの?チャーレご挨拶しなさい。こちらはセリ様よ。今日から殿下の所で一緒に暮らすのよ」
その女の子は茶色い髪で瞳は赤い。母親譲りなのだろうよく似ている。
「こんばんは、起こしちゃった?ごめんね。私はセリ。どうぞよろしく。でも、今夜はもう遅いから、また明日ね」
「うん、お姉ちゃん。おやすみ。ママ早く行こうよ」
「でも、セリ様のお世話が」
「私のことはいいから、おやすみチャーレ」
「セリがそう言ってる。ミーナ。さあ、いいからチャーレともう休め」
「ありがとうございます。では、おやすみなさい」
ミーナさんとチャーレが去っていく。
「殿下、ご説明をお願いします!」
「‥だから、父が身持ちが悪いと言っただろう?そのせいで子供が産まれて、いや、まずイエンスとエミル、ホーコンって言うのが皇妃の子供なんだけど、そいつらは事あるごとにヨースっていう弟やチャーレやアルビを虐めるんだ。ヨースは既に騎士になって自立したからいいんだけど、あとの二人は城には置いておけないと思ってうちに引き取った。アルビの母親はアルビを産むときに亡くなってミーナが母親代わりをしてくれていた。いや、ミーナには働かなくていいって言うんだけど、彼女はもともと平民で仕事をしてたからここでメイドとして働くと言って聞かなくて、他にも王都で父が見境なく関係を持って出来た子どももいて家で面倒を見るって言ったらどんどん増えてしまったんだ」
物凄く気まずそうに話をするカイヤート。
大体の流れはわかった。
「それで、この屋敷にどれくらいの子供がいるんです?」
「今は全部で六人。上は十一歳から下は三歳までいる」
「そんなに?」
ふーん。意外と優しいんだ。
カイヤートは気まずそうにしながらも私を気遣ってくれた。
「とにかくセリ。今夜はもう遅いから休んでくれ」
「ええ、あなたのおかげで助かったわ。一応お礼を言うわ」
「いいんだ。迎えが遅くなってごめんな。あんな誤解されてセリにどんな顔で会えば良いのかって思ってたらなかなか迎えに行けなくて」
「イルはどこ?」
「ああ、セリの部屋で待たせている」
私の部屋って。まあ、あまりカリカリしないでおこう。一応彼には助けられたんだし、いや、それより明日まで待っていられないわ。
「部屋に行ったらすぐに話があるの」
「へっ?話って。俺のこと許してくれるのか?」
「そう言う話じゃないのよ!」
まずは部屋に案内されてイルの無事を確かめる。
「イル、会いたかった」
「にゃにゃん(セリ無事か?)」
「ええ、何とか。あのイエンスの奴、私を牢に入れるなんて許せない。タダじゃ置かないんだから!」
『セリ落ち着け!とにかくお前が無事でよかった』
「そうだ。お兄様もイヒム様の話聞いてたよね?」
『あの月食いの日の呪いは迷信だって言ってた話か?とても信じられんがな』
「あの話は絶対本当よ。そうだ、殿下とにかく聞いて下さい」
私は猛烈な勢いでイヒム様に聞いた事を話した。




