45約束
私は子供たちの所に行くと明日王都に出発する事になった事を話した。
「やだ。しぇんしぇい。いっちゃいやだぁ~」
予想通りアーポが泣き始めた。
コニハもすでに涙目に。
「良く聞いて。みんなも月喰いの日が恐いって知ってるでしょ?先生はそれを少しでもみんなに被害が出ないようにするために行くのよ。わかるでしょ?呪気を受ければ魔物になってしまうんだから」
アーポもコニハもポンツもペッカーもこくんと頷く。
「だから‥‥さあ、今から外でいっぱい遊ぶわよ」
沈んだ顔がパッと明るさを取り戻す。
「何して遊ぶの?」コニハ。
「ええ、泥団子を作ったり、だるまさんが転んだって言う遊びもするわよ。それにかかしけんけんぱって言う遊びも」
「どょろだゃんぎょ?」
アーポ斬新な言葉!新しい魚か?
「だるまさんって何?」ポンツが尋ねる。
あっ、そうか。この世界にだるまってないな。
「そうね。そうだ!鬼になった人の名前にしようか」
まあ、みんな知るはずがない。これは前世の遊びだもの。
「鬼って何?」今度はペッカーが聞いて来る。
ああ、もう説明難しい。
鬼は‥悪魔?魔物はちょっとリアル過ぎるから
「魔女?かな」
「ああ、そうか」
何とか意味を理解してもらってルールを説明する。
鬼ごっこはアーポがいるから難しいと思ったけどこれ説明むずい。
子供たちはルールをあっという間に理解した。
「先生、早く行こう!」
私と子供たちは中庭に出る。
すでにかいヤート達がバケツや小石を準備して待っていた。
「今からじゃんけんで魔女を決めるわよ。じゃんけんポイ」
「あ~、私が負けちゃった」
「じゃあ、コニハはあの大きな木の所に行って」そう言いながら私は棒でみんなの立ち位置の線を引く。
「他のみんなはここに並んでね」
みんなが一列に並ぶ。
「コニハは木に向いて目をつぶって、ゆっくりコニハが転んだって言ってね。そして言い終わったら振り返るの。その時みんなは動いたら負け。負けたらコニハと手を繋いでね。最後まで残った人がコニハにタッチしたらコニハの負け。コニハがみんなを負かしたらコニハが勝ちよ。やり方分かった?」
本当は鬼にタッチして逃げるけどそこまでやるのは難しそうだしこれでいいか、と思う。
「「「は~い!」」」
子供たちはすっかりやる気だ。カイヤート達はうん?みたいな顔をしながらも何とかルールはわかったみたい。良かった。
「コニハ。いいわよ」
「コ~ニ~ハ~がころんだ!」みんなはその間にコニハに近づく。
言い終わったコニハが来るっと顔をこちらに向ける。
アーポが片足のままでぐらりと揺れた。
「アーポ!」
アーポは照れ臭かったのか髪の毛をぐしゃぐしゃ掻きまわしながらすごすごコニハと手をつないだ。
アーポ可愛すぎ。
「コ~ニ~ハ~がこ~ろん~だ!」
コニハ、言い方考えてるじゃない。すごい。
「あっ、それ、ちょ、ずるぃ」
前のめりになって動いたのはカイヤートだった。
「カイヤート!」
「くっそー。コニハやるじゃないか!」
悔しがるカイヤート。
子ども相手にマジになってる。うける~。
そんな様子を私は心から楽しんだ。
そうやってだるまさんが転んだ遊びは楽しく過ぎて行った。
さあ、次はかかしけんけんば。
地面にかかしの絵を描いていく。子供達は興味津々。
さあ、手前のマスから小石を投げて入れたら片足でこうやって。
私は実演して教える。
子供達は直ぐに覚えて小石を投げて跳んでいく。
アーポには少し難しいが、それでも必死でみんなについて行く。
みんなもアーポを補うように応援している。
ああ、何だかとっても気分が良い。
一通り終わると今度は泥団子を作る事に。
興奮冷めやらぬ子どもたちに早速、泥団子作りを伝授する。
「さあ~この泥団子に魔法の粉を振りかけて‥」
粘土質の土で泥団子を作り、砂を一度粉篩のような網でふるいサラサラにしておく。それを泥団子にかけていく。何度も砂をかけて出来上がり。
カイヤート達まで真剣な顔つきで泥団子を作っているのがおかしいけど。
まさか、こんなふうに泥団子を伝授するとは思ってもいなかった。
そしてみんなの素晴らしい泥団子を乾かす。
その間におやつを食べる。
今日はリンネさんが用意してくれたクッキーを頂く事に。
そしていよいよ泥団子の仕上げに取り掛かる。
乾き始めた泥団子はすでに光沢が出ている。
子供たちはそれを宝物のように手のひらに包み込んだ。
「俺のが一番大きいぞ」
「僕のだって」
「私のだってほら!」
「ぼくのだゃって」
「これをサラサラの砂で」
目の前でつるつるになって行く泥団子に子供たちの視線が注がれる。
みんな必死で磨いていく。
もちろんカイヤートたちも必死だ。
何だかこのままここにいたい気持ちが強くなってしまってそう思うと喉の奥がこくんとなった。
「セリ?どこか痛いのか?」
カイヤートがそっとそばに来て耳元で尋ねた。
この人鋭い。なんてちょっと突っ込むが。
「うん、ちょっとこの子たちと別れるのが辛くなってきて‥」
「ああ、セリはいい先生だもんな。なに、月喰いの浄化が終わればすぐにここに連れ帰るから心配するな」
「うん」
何だか素直にうなずいてしまう。
彼が泥だらけの指の腹でそっと目元を拭ってくれる仕草が今はくすぐったくてうれしい。
「先生?どうして泣いてるの?」コニハに見つかった。
「ああ、先生目にゴミが入ったんだ。すぐに治る。心配すんな!」
「うん、良かった。ねぇ先生私の泥団子見て!」
「うわぁすごいきれい。コニハ頑張ったね。明日もう一度サラサラ砂をかけたらいいよ」
「僕のも見て」ポンツの泥団子もすごく立派だ。
「俺のも」ペッカーのは大きくて輝いている。
「さすがペッカーだネ。ペッカーもポンツも明日また砂をかけて磨くといいよ」
「しぇんしぇ~ぼくにょもみてぇ~」
「アーポ,すごいね。こんなピカピカになってる」
四人がそれぞれの泥団子を私に見せてくれた。
「宝物みたいだね。みんなピカピカだよ」
みんなの笑顔が眩しい。
「みんなは先生の宝物だよ。ずっとずっと‥」
しまったと思った。こんなつもりではなかった。楽しい時間を作ろうと思った。なのに。別れが辛くて離れたくなくて‥
アーポが「しぇんしぇ、いっちゃやだゃ~」
コニハが「やだやだ」
ポンツが「僕もお別れしたくないよ」
ペッカーが「俺も」
みんなが私に抱きつく。
「先生もだよ。みんなとお別れしたくない。だから戻って来る。ここにちゃんと戻って来るから」
アーポが涙目で見上げる。「やきゅしょく?」
「うん、約束!」
私は小指を出す。
「ほら、こうやって小指と小指を繋いでぎゅってして指切りげんまん、うそついたらはりせんぼん、の~ます。指切った!って言うのよ。これで約束したよって事なんだよ」
次々に小指が差し出される。
アーポと。コニハと。ポンツと。ペッカーと。そしてカイヤートが小指を出して来た。
「俺も必ずセリをここに連れて帰るって約束するから」
うれしかった。
「さあ、もう約束したからね。先生はお仕事に行って来るの、とっても大切なお仕事に。いいわね?」
「「「「うん!約束だよね!」」」」
私もみんなも顔は涙と笑顔でぐしゃぐしゃだった。




