43言い伝えか~
翌日私はいつものように朝食の席でリンネさんと顔を合わせた。
昨日は疲れてゆっくり話も出来ていなかった。
「おはようセリ。昨日は疲れたでしょう?よく眠れた?」
リンネさんも昨日の事で疲れているようだ。
「おはようございます。はい、何とか。それよりリンネさん昨日はすみませんでした」
「とんでもないわ。こちらこそあなたを危険な目に合わせるような事になって申し訳なかったわ。私たちではオデロ殿下を止めれなくてごめんなさいね」
リンネさんは頭を上げて来る。
「そんな事。悪いのはオデロ殿下ですから、それにシェルビ国の中にもちゃんと正しい事をしてくれる人がいてくれてうれしかったです。それにカイヤート様も」
「ええ、驚いたわ。雷を受けた時は心臓が止まるかと思った。でも、カイヤートはそれさえ平気で受け止めて‥もしかしたらセリとカイヤートは伝説の救いの神なのかもしれないわ」
リンネさんがしみじみとそう言った。
伝説の神?なんだろう。それってシェルビ国の<真実の愛>のような?
「リンネさん。その救いの神って?」
「ええ、言い伝えの中にある話なんだけど‥イヒム様が子供を産んで月の光の加護を与えて獣人が暮らせるようになって、アード神が怒って月喰いの日をつくったでしょう?でも、祖先もその呪いを何とかしようと色々な事を試したみたいなの。生贄を捧げたり戦士を天に向けてみたり。でも、結局無駄だった。ところが一度だけ、男女二人が魔力を持っていて月喰いの日に二人で互いの力を合わせて月に向かって魔力を放ったらしいの。すると月が全部喰われず半分ほどでおさまったって言う話なの。おまけに呪気もあまり出なかった。信じられないでしょう?当時は神の啓示だって大騒ぎになったらしいわ。だからその後も同じような事を何度もやったけど奇跡は一度だけだったみたい。まあ、今となってはそれが本当かどうかもはっきりしないわ。結局また聖女に浄化魔法をかけてもらうやりかたに戻ったから、でも、もしかしたらあなたたちが奇跡のカップルかも‥」
リンネさんがすっと真顔で私を見た。
「そんなはずありません!私とカイヤート様は違います!そんなのでたらめですよ」
そもそも、私達は愛し合ってなどいない。
「ええ、セリ。私ったら、ごめんなさい。つい期待してしまって悪かったわ。でも、きっとアード神はイヒム神を愛してたんだと思うわ。だから‥」
「もしそうなら勝手すぎます!私達は神の駒じゃないのに‥」
「ええ、もちろんよ。でも望みは捨てたくないの」
それはシェルビ国の人たちだって同じ気持ち。ぶどう病を何とかしたいってずっと頑張っている人もいる。
思わずユーゴ殿下の事を思い出した。
一生懸命ぶどう病の治療薬を調べてた。バショーの葉が効果があったって言ってたなって。
そこからは二人とも黙って食事をとった。
珍しく朝食の場にカイヤート達は現れなかった。
「あの、カイヤート様達は?」
「ああ、カイヤートは魔力を授かってすごく張り切ってるみたいよ。今朝も早くからライノスとクラオンを連れて辺境伯の所に行ったわ」
「張り切ってるんですね‥はぁぁぁ~」
脳内でカイヤートが魔力を暴走させる姿が浮かぶ。
「ええ、あなたを守れるようにならなきゃって!」
リンネさんは頗るご機嫌な様子だが。
それを言うなら私が彼の暴走を止めれるようにならなきゃでしょ。すかさず脳内で横やりが入った。
「そうなんですね。ほほほ」何とか引き攣った微笑みを返す。
「そうだセリ。忘れるところだった。この後、聖堂に来てくれる?」
彼女がポンと手を叩く。
「はい、いいですが子供たちが待ってますので手短にお願いできますか?」
「ええ、時間はかからないわ。あなたを聖女として認める叙任式をするから」
「あの、王都ではなくこちらの教会で出来るんですか?」
シェルビ国では王都の大神殿で儀式があった。
「教会ならどこでも出来るわ。それに実は元はここスヴェーレが国の発祥の場所なのよ。ここでイヒムは赤ん坊を産んでこの地でその子供が国を開いたの。だからここはいわば聖地になるの。だから聖女の認定儀式をするには持ってこいの場所なの」
リンネさんがクスクス笑って嬉しそうに話す。
知らなかった。スヴェーレがそんな重要な場所だったなんて。




