41ユーゴ殿下の魔力が?2
「お前ら、いい加減にしろよ!!」
オデロ殿下だった。彼は手の平で魔力を練っている。
炎が一気に渦巻いて行く。
「だめ!カイヤート様逃げて!」
今度こそだめかも‥
私は大急ぎで魔力を練る。
ああ、間に合わない。
オデロ殿下が火の鞭を私とカイヤートに向けて放った。
長い鞭は踊るようにうねってカイヤートに向かってくる。
「させるかよ!」
カイヤートが私の前に飛び出て爆発的な叫び声を上げたその瞬間!
彼の身体中から稲光が沸き起こった。
カイヤートは無意識に身体を前に押し出す。稲光が指先に集まってそこから輝く稲妻が。
光の渦はオデロ殿下が放った火の鞭を捕らえると蛇のように絡まって空中に舞い上がる。
そのまま火柱が上がりそのまま消滅した。
「カイヤート様‥あなた魔力が‥」
「なんで?今のは何だ?俺は‥どうしたんだ?」
「きっと、さっきの稲妻を浴びたせいです。あの光は亡くなったユーゴ殿下の魔力だったみたいなんです。彼はきっと私たちを助けようとして魔力を授けたんだと‥」
「で、でも、ユーゴ殿下はセリが好きだったんだろう?それなのに俺に魔力をくれたって言うのか?うそだろ‥」
私はここで間違いを犯していると気づく。ユーゴ殿下はカイヤートに魔力を渡したかったわけではなかったはず。でも、たまたま、偶然、彼に魔力が宿ったわけで。
まあ、それだけの器が彼にはあったって事だと思うけど。
言えないなぁ~。
カイヤートもまだ戸惑っているらしく。
「あの‥セリは?まだユーゴが忘れられないのか?」
「ええ、忘れません。ユーゴ殿下は命の恩人です。でも、私の恋人ではありませんでした。もしユーゴ殿下が生きていれば好きになったかもしれませんが‥」
「そっか!‥あの、俺が彼の魔力を貰って良かったのか?」
「魔力が貴方に宿ったのは‥あれはたまたま、偶然だと思います」
「でも、俺は彼に認められたって事だろう?セリを守る権利を貰ったって事だよな?」
あの、どうしてそんな話になるんです?はっきりと突っ込みたいが妙に嬉しそうな彼を見ているとはっきり言うのもためらわれた。
が。
「やっぱ、セリが俺の番だって知って‥なっ!」
ぽんぽんと私の肩を叩いて引き寄せるカイヤート。
馴れ馴れしくない?
「まあ、多分たまたまそうなっただけじゃないんですかね。あの状況ではユーゴ殿下がそこまで考えていたとは思えませんから」
私はそっと彼を押し返す。
カイヤートはすご~く嬉しそうだったが私がシレッとそう言って離れるとガクンと首を垂れた。
「はぁ~、こりゃ、俺の番が俺を見てくれるのはまだまだとお~い道のりだな」
私達がそんな話をしているうちにオデロ殿下は氷漬けになっていた。
どうりで何か殺気めいたものが目の端に見えた気がしたわ。
「セリーヌ様。オデロ殿下は国へ連れて帰ります」
そう言ったのはもちろんキアード様。
「でも、キアード様にご迷惑がかかるのでは?」
「いえ、きっとシェルビ国の人も俺と同じ気持ちのはずですから大丈夫でしょう」
「あの、騎士隊長。キアード様の事お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、取りあえず埒があきませんので一旦引き上げます。キアードの事はオデロ殿下の暴走を止めるしかなかったと報告しますのでご安心ください。では、どうか皆さまご気分を害されませんようお願いいたします」
騎士隊長は騎士の礼をして頭を下げた。
もちろん副神官様も同じく頭を下げた。
オデロ殿下?殿下は凍ったまま板の上に寝かされている。
キアード様達騎士はその板を持ったまま礼をした。
リンネさんやアンティ辺境伯も揃っている所で挨拶をした。
「わかりました。先ほどからの失礼な態度。騎士隊長の敏速な対応ですべてなかった事にします。ご安心ください。では、皆さんお気をつけて」
「ははっ、失礼いたします」
みんなでシェルビ国の人たちを見送る。
私は最後にキアード様に挨拶をする。
「キアード様本当にありがとうございました。マリーズによろしくとお伝えください」
「セリーヌ様、どうかお幸せに。マリーズにもあなたの勇ましいお姿を伝えます」
彼は眩しいほどの笑みを向けてくれた。
私も笑って彼らを見送った。
「にゃぁぁぁぁ~ (元気でな~)」イルも一緒に。
取りあえずこの人騒がせな一団は転移でシェルビ国に帰って行った。
でも、このままでは済まない気もするが‥
「なぁセリ。そう言えばイルの奴魔法使ったよな?」
家の中に入ろうとしたらいきなりカイヤートが尋ねた。
ああ~気づかれたか‥まあ、あれだけ大っぴらにやれば。
「ああ‥あれは、イルは‥その‥」
「にゃにゃにゃん (カイヤートに話してもいいぞ)」
「おい、今、猫がしゃべっただろ?」
カイヤート魔力を持ったせいで会話が聞こえるの?
だったら‥
『カイヤート聞こえる?』
「ああ、セリ何やってるんだ?そんなことしなくても普通に話せ!」
『ええ、でもこれが聞こえるのは魔力があるって事で』
彼はやっと意味を理解したらしい。
『って事は離れていても話が出来るって事か?』
『まあ、そんな遠くは無理だけど』
『すげぇな。ああ、それよりイルの事だけど』
『俺はセリの兄の魂が入ってるんだ。猫だからって甘く見るとただじゃ置かないからな!魔力はお前の何倍も強いんだ!』
『えっ?セリのお兄さん?イルお前が?』
カイヤートはイルのひげをグイグイ引っ張ったり耳を掴んだりしている。
『いいかげぇんにしゅろ!!』
イルはカイヤートの手の甲に爪を立てると走って高い扉の上に駆け上る「ふしゃ~!! (お前殺すぞ!)」
「いてっ!」
そう言いながらもカイヤートは楽しそうに笑っている。
『こわぁッ!お兄様これから仲良くして下さい。あっ、今度旨いハムの燻製でもお持ちしますので』
「にゃぁぁぁん (楽しみ~)」
「もう、イルったら!」
「殿下、いい加減にして下さい!」
カイヤートが頭がおかしくなったとでも思われたのかライノス酸に叱られた。
「ライノス!俺、魔力持ちになったぞ」
「マジです?」
「さっきの見ただろ!」
「ああ~殿下。雷に打たれたせいで脳に損傷でもあるのでは?少しお休みになった方が良いのでは?」
「クラオンおまえまで?」
三人がふざけている間に私はイルを連れて退散した。
はぁぁぁ~これから思いやられそうな気がする。
「にゃにゃにゃん!(セリおかしなことをされたら言えよ!)」
イルが頬をぺろりと舐めた。




