3頼もしいお兄様
ユーゴ殿下はオデロ殿下とは腹違いで同じ年。
彼は金赤色の瞳をしていて髪は漆黒の黒だ。背は高く細身で眼鏡をかけている。
オデロ殿下のお母様は伯爵家のご令嬢でテリット側妃。
ユーゴ殿下のお母様はテリット様の侍女をされていた平民の女性、名前は確かユミル様だったと思う。
オデロ殿下も王妃の子であるギルオン王太子には頭が上がらないがユーゴ殿下は見下して毛嫌いしていてすごく仲が悪い。
なので学園でも接触はなかった。
ユーゴ殿下は魔力領が多いが人と関わるのが嫌いで神殿の神粋の儀式さえも受けなかったのも生徒の不評を買っていた。
性格はぶっきらぼうで素っ気なく口数も少ないので学園中の嫌われ者のような存在になっていた。
それに学園では魔道部に籍を置いて、いつも本を読むかぶつぶつ独り言を言っているイメージしかなかった。
でも兄が魔道局に入るとちらほらユーゴ殿下が話題に登った。
ユーゴ殿下のお母様は魔粒毒に犯されていて兄と同じ病を患っていると聞いた。
それであんなに必死で勉強してたのだろうか?
この国の魔道局は、魔道具の開発や武器の開発。それに新しい薬の開発もすると聞いた。
それで兄も王都に来てすぐに魔道局に入ったのだ。
「お兄様。実は‥オデロ殿下から婚約破棄を言い渡されましたので、婚約はなかった事になりました。手続きよろしくお願いいたします」
「はっ?」
お兄様の目が点になった。
「どういう事だ?」
「オデロ殿下がおっしゃるには私は<真実の愛>の相手ではないと」
お兄様の眉には深いしわが入る。
「じゃあ、誰が?」
私はもうすっかり立ち直っていてはきはきと答えて行く。
「はい、アーネ・ロゼリア男爵令嬢が<真実の愛>のお相手だそうです」
「男爵令嬢?辺境伯を差し置いてか?あのバカどこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ?」
そう来たか。
もうすべてを話してもいいのでは、私もずっと我慢して来たんだからと思ったら言葉が滑り落ちて行った。
「はい、実はお兄様。これまで私は殿下には煮え湯を飲まされてまいりました兄様の具合が悪かったのでこんな事を言うべきではないとずっと我慢をして来ましたが、もう、限界です。オデロ殿下には一度だって大切にされた記憶がないのです。どうか、婚約はなかった事にして下さい!」
お兄様の魔力が私達の周りに渦巻いて行く。
兄は水属性で氷魔法も使える。
久しぶりに見たわお兄様の魔力の波動。
こんな魔力が見れると言うことはさっきの浄化が聞いてるのね。
あっ、いけない。だからってお兄様を感情的にさせて体力を奪っては元も子もないじゃない。
「あのくそが!許さん!」
その途端つららが天井から落ちて来た。
「お、お兄様。危険ですので落ち着いて下さい」
「すまん!」
兄ははっとして魔力を弱めた。
「私は婚約がなかったことになるだけでいいんです。それにオデロ殿下の方から婚約破棄するとはっきりおっしゃいましたから。すぐに手続きすればいいだけです」
魔力が治まりお兄様の怖い顔がすっと凪いだ。
「セリーヌはそれでいいのか?酷いことをされてきたんだぞ!」
「これ以上関わりたくないのです」
「そうか。慰謝料はたっぷりふんだくってやるからな!」
「ええ、お兄様。でも、無理はなさらないで下さいよ」
「ああ、もちろんだ。セリーヌはしばらくゆっくりするといい。なっ!」
お兄様は私の肩をポンポンと叩くと部屋を出て行った。
とても病を患っている人には見えない。それくらい回復しているといいんだけど。
私にはもうお兄様しかいない。
絶対にお兄様には治ってもらわなければそして幸せになって欲しいと思う。




