37これはかなりまずい状況では?
リンネさんが退屈してるんじゃないかな?
まあ、聞くに堪えないよね。
「オデロ殿下。あなたの一方的なお話はわかりました。ですがセリ。セリーヌから聞いた話は今あなたがおっしゃったような話ではありませんでしたよ。あなたは別の女性にうつつを抜かしセリーヌに婚約破棄を突きつけたと伺っています。その他にもいろいろと‥」
オデロ殿下の顔色がさっと変わる。でも、すぐに気を取り直したらしく。
「それはセリーヌがこちらで厄介になるための嘘です。実は彼女は良くうそをつく癖があるんです。きっと皆さんも彼女の嘘に惑わされているんでしょう」
つらつらとそう言った。
私は我慢できなくなって思わず声を荒げる。
「うそです!オデロ殿下よくそんな事が言えますね。あなたこそ、ご自分の都合のいいように事実を捻じ曲げるのは止めてもらえませんか!」
リンネさんたちの横から回り込んで前に出てしまう。
オデロ殿下と目が合う。
「セリーヌ。これ以上皆さんに迷惑をかけるんじゃない。大人しくシェルビ国に帰ろう。怒ったりしない。安心しろ。婚約はそのままにしてある。セリーヌさえ大人しく帰ってくれればすぐにでも結婚するつもりだ。なっ、これ以上私を困らせるんじゃない!」
「はっ?」
文句を言おうとした時だった。
腕を取られカイヤートに止められた。
「さっきから聞いていればずいぶん勝手な事を言われているようだが‥実はセリーヌは我が国の聖女だと言うことが分かった。この国ではもうすぐ月喰いの日という厄日が訪れる。その日その呪いを浄化できるのが聖女だ。我々にとってセリーヌは神が使わされた救いの女神。オデロ殿下の勝手な言い分を聞いてシェルビ国に返すつもりはない。申し訳ないが諦めて帰ってくれ!ませんか?」
カイヤートはその間に私を渡すつもりはないとばかりに、私の背の後ろに隠す。
あっ、一応礼儀正しくしようとしている事はわかる。
「はっ?あなた分かってるんですか?私とセリーヌは<真実の愛>の相手なんですよ。聖女がどうとかそんな話知るもんか!自国の事は自国で何とかして下さいよ。セリーヌはシェルビ国の国民なんです。それともこの国では役に立つ他国の人間を拉致するんですか?」
ああ言えばこう言う。口だけは一人前。
せっかくカイヤートの後ろに隠されたがもう我慢できずずいっと前に一歩出る。
真っ直ぐにオデロ殿下を見下ろす。
「オデロ殿下。遠い所おこし頂きご苦労様でした。はっきり言わせて頂きます。私はシェルビ国に帰るつもりはありません。これまであなたの婚約者として辛い事にもずっと耐えてまいりました。が、あの日はっきり婚約破棄を告げられ私は目が覚めたのです。もうあなたの元に帰る気などさらさらありませんので。これより私はプロシスタン国の聖女となります。では、ごきげんよう」
私はリンネさんやカイヤート達にこの場を去るからと目くばせする。
さっと壇上から下りようとするとすっとカイヤートが跪きの手が伸ばす。
「聖女様どうぞ」
いえ、そんなつもりは‥と思ったがカイヤートの指がこっちだと言わんばかりに動く。
ああ、そうか。やっと彼の意図している意味に気づいてさっと彼の手の上に手を重ねた。
「ありがとう」
彼にガシッと手を握られ、それはそれで同様したがオデロ殿下を欺くためだと思い直す。
壇上と静々と下りてオデロ殿下の横を通り過ぎようとした。
「いや、セリーヌ。そんな勝手は許さないからな。どうやってもシェルビ国に連れて帰る!」
オデロ殿下が私の身体を真横からかっさらうように抱き込むが、がっちり握られたカイヤートの手が離れるはずもなく今度はカイヤートがオデロ殿下に蹴りを繰り出す。
「ぐぅっ!」
いきなり腹を蹴られてオデロ殿下はふら付いた。
その隙にカイヤートが私を抱きかかえて突っ走る。
「させるか!!」
カイヤートは扉に向かって走る。
後ろからオデロ殿下が魔力を練っている気配がする。
これってちょ~まずいよね。獣人は魔法が使えない。そんな獣人に向かって魔法を繰り出すつもり?
オデロ殿下卑怯よ。
「カイヤート下ろして」
「だめだ!セリ逃げるぞ」
「だめ!オデロが魔法を使う気よ。いいから早く下ろして」
私は手のひらで魔力を練り始める。
「行かすか~!!これを食らえ~!」
オデロ殿下が手のひらから火球を繰り出した。
「危ない!!」
私は身体をよじってその火球めがけて浄化魔法を繰り出す。
瞬時に光の粒子が火球を取り囲みその勢いを殺し火を消す。
「じゅぼっ!」
「クッソ!シーデン何をしている。セリーナを取り戻せ!」
オデロ殿下は一緒に来た部下に指示を飛ばす。
「で、ですがここは聖堂ですよ。こんな所で魔法など」
さすが騎士隊長。状況をわかっている。
「では外に出ろ。いいからセリーナを取り返すんだ!」
「ははっ」
騎士隊長はそう返事をすると「セリーナ様どうか一緒にシェルビ国に帰って頂きたい」と言った。
「騎士隊長それは出来ません」私ははっきり断る。
「では、仕方がありません。おい、皆外に出ろ!セリーナ様を取り戻す」
「「「ははっ」」」騎士たちはもちろん隊長に従った。
えっ?
私は焦る。だって、獣人に魔法を使えばきっと太刀打ちできない。
怪我をするかも知れないし‥もう、どうすれば?
「心配するな。俺が守る。セリお前は俺の番。命に変えてもお前を守ると誓う」
いやいや、それはかなり無理なんじゃ?




