35楽しい時間から一変
子供たちの所に戻って一緒にランチの準備に取り掛かろうとしていた。
すでにおやつのフレンチトーストはきれいになくなっていた。
「みんな、今日のお昼は外で食べましょう。先生が朝、畑で取って来たお芋で蒸しパンを作ろうと思うの」
「むしぱん?それってあのもじゃもじゃのむし?」
コニハは大の虫嫌いだ。
「違うわ。その虫じゃなくて鍋で蒸らして作るパンよ」
「しょれ、おいちぃの?」アーポが不思議そうな顔で尋ねる。
「ほわほわのパンかな?」
みんなの目が輝く。
「先生、早く作ろうよ」
「ポンツお前焦ってまた粉をぶちまくんじゃないぞ!」
先日ポンツは走って小麦粉をばらまいてしまった。ペッカーはその事を言ってるらしい。
「あんなの‥気を付けるよ」反論しようとしたけど思いとどまったらしい。
みんなに腰エプロンをつけていると「ぽんちゅいい子」アーポがポンツの頭をすりすりしている。
ああ、何だ。この可愛らしい生き物たちは。もう、今日も癒される~
キッチンに行くとみんなに腰エプロンを付けて行く。
みんなで蒸しパンの仕度をしているとバタバタとカイヤートが走って来た。
「セリ!聞いた。聖女になってくれるのか?」
ああ、やっぱり。
みんながポカンとした顔でカイヤートを見る。
「カイヤート様。子供たちが呆れていますよ。あなたは皇族なんですよね?もう少し落ち着いたらいかがです?」
ほんとに落ち着きのない人だ。
「あっ、すまん。大叔母から話を聞いてうれしくってつい!みんな驚かせたならわりぃ、おっ、今日は何作るんだ?」
話題反らすのもうまいですよね。ほんと。
「むしぱんでしゅ!」アーポちゃんと言えたね。
「むしぱん?虫だって?なんだそれ?食えるのか虫なのか?」
また、頭痛いのが増えたな。
「パンを蒸して作るパンの事です。虫なんか食べさせませんから」
「あはっ、だよな。セリが子供たちにそんなもん食わすはずがない。俺って、すまん。じゃあ、セリ後で詳しい話をするから」
「ああ、わかりました。夕方以降でもいいですか?」
「ああ、それでいい」
きっと王都にも行くことになるんだろうな。しばらくこの子たちともお別れになるって事なんだね。
決めたのはいいけど急に不安になる。
「にゃ~ん (セリ心配するな)」いつの間にかイルがそばにいた。
「イル『うん、ありがとうお兄様』」
『俺が付いてるからな』
そうだった。私にはお兄様がいてくれるんだから。
「さあ、みんな混ぜ終わったらお芋をいれて軽くかき混ぜるわよ」
みんなは粉まみれで小麦粉と牛乳を溶いたものを一生懸命混ぜている。そこに小さく刻んだお芋を混ぜ込んでカップに流し込む。
お芋だけだとと思いハムやチーズを混ぜ込んだ蒸しパンも作る事に。
鍋に湯を張ってオーブンで使う網をのせてカップを乗せて行く。
それを蒸してはい出来上がり。
その間にお芋や朝の残りのパンを油で揚げる。そこに砂糖をまぶしてドーナツみたいなものを作った。
子供の頃サンドイッチを作るとパンの耳が残ってそれを母が良くこうやって油で揚げて砂糖をまぶしていた記憶が。その日のおやつにそのパンの耳がどっさり出て来た。ああ、懐かしいなぁ。
そしてもう一品、キャベツとコーンの塩バタースープ。
蒸しパンばかりだとのどに詰まるからね。汁物も準備しよう。
そろそろ、おいしそうな蒸しパンの出来上がりだ。
熱いので荒熱を取ってカップのままで食べる事にする。
以外と豪華なランチになった。
キッチンからすぐ裏手の庭にある作り置きしてあるテーブルに赤いタータンチェックのクロスを掛けて見栄えをよくしてそこにみんなで出来上がった蒸しパンやドーナツ。スープなんか小さい鍋ごとで持って行く。
「先生、お花摘んで来た」コニハが小さな花を持ってきてくれた。
「うわぁ、なんだかすごく豪華なランチになったね。コニハ。花を生けてくれる?」
コニハは喜んで小さなカップに花をいれる。
ピンクや黄色の小さな花がいい仕事をしてくれる。
籠に蒸しパンを盛りつけ、ドーナツもどきをきれいなお皿に並べる。
「しぇんしぇ、ぱーちーみちゃい」アーポ、すごいパーティーを知ってるの?
「そうね。誰かのお誕生日みたいだね」
みんなの顔が笑顔でいっぱいになる。
「さあ、食べようか。いただきます」
「「「「いただきま~す!」」」」
そこに「俺も入れてくれ」そう叫びながら走って来るのは‥‥カイヤート。
やっぱり来ると思った。
でも、今日はあの二人は一緒じゃないの?
「何だこれ?うまっそう。じゃ、俺もいただきま~す!」
いやいや、誰も入れると入ってないのだが‥こういうところ皇族の図々しさなんだろうな。
「セリ、もう天才。蒸しパン最高!お前らもうまいだろ?」
「「「「はい、おいしいです。しいでしゅ!」」」」
みんなの美味しそうな顔に満足する。
彼がここにいなかったらもう理想的なランチだったのに!
私、絶対にこの人のそばには近づかないようにしよう。そんな事を考えながらランチを食べた。
片づけをしているとリンネさんが慌ててやって来た。
「セリ!大変なの。オデロ殿下が来たわ」
「えっ?まさか。ここにオデロ殿下が来たんです?」
うそ。どうしよう。
さっきまでの幸せな時間が嘘のように一変した。
帰らないと固い決意はしているもののまさか直に会う事になるなんて思ってもいなかった。




