31聖女になってほしい?
気持ちを切り替えて子供たちの世話をしようとしたが。
「セリ、さっきのは‥」
そう言ってリンネさんに私は手を掴まれる。
「リンネさん。すみません。魔法を使わないようにって言われてるのに」
「そんなのいいのよ。あなたがいなかったらと思うと‥ありがとうカイヤートと救ってくれて、ところで少し話がしたいんだけど」
「ええ、でも子供たちが」
すでに子供たちが目の前に揃っていた。
子供たちの顔は不安そうですぐにでも抱きしめてやりたかった。
「子供たちは代わりのシスターが面倒を見るわ。さあ、ペッカーみんなを連れて部屋に戻りなさい」
ペッカーはリンネさんにそう言われて頷く。
「はい、でも、先生は大丈夫?」
それでも心配だと言わんばかりに私を見た。
「ええ、ほら怪我もしてないわ。みんな恐かったよね。でも、もう魔物は消えたから‥」
アーポが拙い足取りで駆け寄る。
「しぇんしぇ、さっきのじゅごかった」ぐっと顔を見上げて誇らしげに私を見つめる。
急に羞恥が襲って顔が火照ってしまう。
「そう?先生ね、みんなに黙ってたけど魔力を持っているの。だから「先生、聖女なの?」せいじょ?」
割って入ったのはコニハ。
犬獣人のコニハは耳をぴくぴくさせて可愛い顔で見つめて来る。
それにしても聖女って?
「さあさあ、みんなセリ先生は疲れてるの。わかるでしょ?少し休ませてあげましょうね。みんなは部屋に戻ってシスターマリーとおやつを食べるの。さあ」
「やった~おやつだ」ポンツがすぐにおやつに釣られる。
「そうだみんな。さっきの笛また吹いて遊んだらいいわ」
「ああ、俺のすげぇいい音が出たんだぞ」またポンツが自慢する。
「ぼくもぉ」
「私の方がきれいな音だったよ」
「なにを?俺のが一番だ」
「はい、みんな喧嘩はだめよ。仲良くシスターマリーの言うことを聞いてね。先生もすぐに行くから」
「「「「は~い!」」」」
みんなはシスターマリーについて行った。
げんきんだな。まあそこが可愛いんだけど。
みんながいなくなるとリンネさんが客間に案内してくれた。
客間と言っても教会の客間は豪華な部屋ではない。
取りあえず暖炉がありソファーがあり壁には風景画がかかっていてちょっとした花瓶には庭で咲いた花がいけてあると言う部屋だ。
リンネさんは皇族だと言うのにこんな辺鄙なところで質素な教会で司祭をしているのには驚くが獣人の国はそう言う国なのかもと思っている。
もちろん来ている服も実用的なくるぶしまであるワンピーススタイルだ。
「まあ、座ってちょうだい」
リンネさんは備え付けてあるティーセットからお茶の用意をしている。
アールグレイの紅茶の香りが漂い脳がシェルビ国にいた頃の貴族令嬢だった記憶を呼び覚ます。
こうやって紅茶を飲んでいたわね~などと。
「いい香り」思わず声が出た。
「わかる?紅茶だけは我慢できなくて皇族特権で取り寄せてるの。さあ、召し上がって」
「はい、いただきます」
カップを持ち上げ手慣れた手つきで紅茶を飲む。
「セリはやっぱり貴族ね。一つ一つの所作に品があるわ」
「いえ、私はそんなつもりは」
褒められて慌ててカップを下ろす。
「あら、嫌みじゃないわよ。あなたなら出来るんじゃないかって思って」
リンネさんがじっと私を見つめた。
「ああ、ごめんなさい。さあ、ゆっくり召し上がって、話はそれからよ」
そう言われるとどんな話なんだろうと身構えそうになるが、思えば私はここに来てすごく生きがいを見つけたと思っていてシェルビ国に帰るつもりもなくなっている・
話がここでこのまま暮らさないかって言うなら願ってもない事だ。
ゆっくり紅茶を味わいカップを静かに置いた。
リンネさんもほぼ同じくして紅茶を飲み終えたようだ。
「セリさん。この国には百年に一度月喰いの日という厄日があるの」
「月喰い?」何だろうそれは。
リンネさんは月喰いの日の事を詳しく説明してくれた。
プロシスタン国にはそんな呪いがあったなんて知らなかった。シェルビ国にも魔粒毒という大変な試練があるけどこの国も大変なんだと思った。
「それでね。この国では月喰いの日が訪れる前に呪いを浄化する聖女が現れる事になっているの」
「せいじょ!」ああ、コニハが言ったのはこの事なんだ。
「私はさっきの力。あれは間違いなく聖女のものだと思うわ」
「そんな、シェルビ国ではあれは珍しい事ではないんです。だから‥私が聖女なんて違うと思います」
「ええ、セリがそう思うのはわかるけど、あなたのその銀色の髪も翠緑色の瞳も言い伝え通りなの。お願い。もうあまり時間がないの。カイヤート達も国中、聖女を探していたの。あなたならきっと月喰いの呪いを浄化出来るわ」
「そんなの無理です!!」
私に聖女が出来るはずがない!




