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2心配症のお兄様

 

 と思っていると今度は脳内に前世の記憶が流れ込んできた。

 えっ?私って30歳でバリバリ働いていた。

 仕事は離島の学校の先生。

 元々は都会で就職していたが恋人に裏切られ故郷の島に帰って来た。

 大学は教育大学で教員の資格を取ったのだけど、就職氷河期で思っていた仕事に付けなかった。

 仕方なく塾の講師の仕事に着いた。そこで先輩の男性と付き合うようになった。

 結婚をするつもりだった。でも、三年後、彼は新たに入って来た後輩の女性と結婚すると決めた。

 私は裏切られたのだ。

 そして募集していた離島の教師の仕事に飛びつくように都会を離れた。

 最初は嫌な思い出を忘れるためだった。

 でも、離島の子供たちの触れ合ううちに凄くやりがいを感じるようになっていて、島の人は困っている人がいればみんなで助け合う。

 そんな暮らしがすごく気に入ってすでに三年がたっていた。

 ある日、やって来た観光客にかつての恋人がいた。

 小さな島で民宿が一つほどあって私はその民宿の持ち主に住まいを借りていて、それが民宿の隣でばったりかつての恋人と再会した。

 彼はあの女性を連れていてそばには小さな男の子がいた。

 向こうが気づいたかどうかなんて気にする余裕すらなかった。

 私は踵を返してその場から走り去った。

 あまりに急いでいて道路から飛び出した。

 小さな島で車なんてほとんど走っていないのに、ちょうど走って来た車に轢かれて死んだらしい。

 なんて人生なんだろう。

 前世でも男運だけはなかったんだ。

 そして今も恋する。いいえ、していたオデロ殿下に嫌われて婚約破棄されて。

 でも、それならそれでいいかも。

 だってあんな男、すっかり恋も冷めたわ。

 このタイミングで前世を思い出して良かったのかもしれない。

 私はもうすでにオデロ殿下に未練はなかった。

 私は何だか思った以上にスッキリしていた。



 侍女のアンの話ですでに翌日になっていると知った。

 そしてお兄様がすごく心配していると聞いてお兄様を呼んでもらった。


 「セリーヌ気が付いたのか!」

 バタバタと廊下の音が響いて扉が開くとお兄様が飛び込んで来た。

 「お兄様。はい、ご心配おかけしました」

 「それよりどこか痛くないか?」

 五歳年上のお兄様は私と同じ翠緑色の瞳で銀色の髪色をしている。名前はリート・スコットと言う。

 一年ほど前、魔粒毒に犯されていることがわかった。肺に病が見つかったのだ。

 兄はいつも森に入るときにも魔物退治でも防毒マスクをつけていたがやっぱり魔粒毒に晒される機会が多かったせいなのだろう。

 時々皮膚にぶつぶつがあったが、その度に私や他の治癒師が浄化を行って来たけどやはり知らない間に身体に取り込んだ魔粒毒をすべて浄化することは出来ていなかったらしい。

 同じように母や父も魔粒毒で亡くなった。母は私が幼いころに元々体が弱かったらしいから仕方がないのかもしれない。

 父は3年ほど前に病に倒れ辺境伯領は兄が引き継いだ。

 そしてその父もその後すぐに亡くなった。

 私は学園で王都にいたので死に目には会えなかったのですごく辛かった。



 魔粒毒に犯されても少しの量であれば浄化で良くなる。もっとも浄化を受けるにはかなり高額な金額がかかるので平民だと薬草を用いることが多い。

 しかし長い年月身体に蓄積されて行くと内蔵が侵され病になる事が分かっている。

 もちろん一度にたくさんの魔粒毒を浴びれば命に関わるだろう。

 そんな訳で兄は魔粒光が度々発生する辺境で暮らすのは問題があるとここ王都のダーネで暮らしている。

 辺境伯領は今は父の弟であり西の神殿の神官をしている叔父のパウロが代理で行っている。

 執事のジョージも優秀なので助かっている。

 病気になるまでの兄はすごく元気で辺境騎士団でいつも先頭に立って魔物を退治していたものだが‥

 それでも決してあきらめず今は病と向き合いながら王都にある魔道局で働きながら魔粒毒の研究をしている。

 この国は確かにオロール光と言われる魔粒光のおかげで恩恵を受けている。でも、その反面魔粒毒で病気になり命を落とす人が後を絶たない。

 特に辺境地帯に多く発生する場所は病の発症数も多い。


 魔粒毒を一気に帯びるとすぐに皮膚に緑色のぶつぶつが現れる。

 初期の段階で対処すればかなりの確率で治る。

 だが、放置すればそのぶつぶつが緑色が黒ずみ紫色に変色して行きそれが身体中を覆うように広がり最後には内臓を犯され高熱を出して死んで行く。

 または、何度も魔粒毒に晒されても同じように病気を発症するようだ。

 人は魔粒毒の病をぶどう病と呼ぶ。

 まさに皮膚に緑色のぶどう状のブツブツが現れそれは赤紫色に変わって行く。

 ぶどうはすごく美味しい果物で、それを加工すればワインが出来るとっても魅力的な食べ物のはずなのに。


 「いえ、大丈夫です。ほんとにお兄様は心配症なんですから、それよりお兄様の調子はいかがです?」

 「セリーヌ。今はお間の心配をしてるんだぞ。俺に事は心配ない。ユーゴ殿下が優秀でな。バショーの葉が解毒作用があり毒素を身体から出すそうだ。おまけに根や茎で作った薬を魔粒毒の患者の皮膚に塗ると患部が治ったんだ。再発も今のところない。まあ、ユーゴ殿下の魔力は大きいからな。そのおかげもあるんだろうけど」

 兄は嬉しそうに話す。

 「ではお兄様の病にも効き目があるかも知れませんね」

 「ああ、でも、俺より苦しんでいる人がたくさんいるからな‥」

 「お兄様だって苦しんでるじゃないですか!」

 私は顔色の悪い兄に手をかざす。

 淡い光が手のひらで踊り出し、それを兄様の胸に押し当てて肺の毒素を浄化させる。

 こうすれば少しの間魔粒毒が抑えられる。

 でも、完全に毒を排除することは難しい。

 だからこそ魔粒毒の薬の開発に必死になっているお兄様。


 「セリーヌ!お前だって具合が悪いのに」

 兄は怒ったような口調だけど目は優しい。

 「ったく。お前はいつも自分より人の心配ばかりするんだからセリーヌは自分の幸せだけを考えればいいんだ」

 心配性のお兄様にかかるといつもこうだ。

 「ええ、わかってますよお兄様」


 





 

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