28うそ、魔物が?
私はランチを済ませると子供たちと部屋に戻った。
午後からはピアノを弾いて歌を歌った。それから絵本を読みながら子供たちは昼寝の時間。
さすがにペッカーはもう眠くはないらしく、私はペッカーと一緒に前世にあったオカリナを参考にして笛作りに励んだ。
私は数日前から石膏で型を作っておいたものに粘土を詰め込んで形を作る。
ちなみに形は鳥にした。それというもの前に作ったものが鳥だったからという単純な理由なんだけど。
小さな子供には少し難しいので形を整えたものをかまどで焼くところを一緒にしようと張り切った。
ペッカーは興味津々で一生懸命笛作りに熱中している。
粘土がたくさんあったので思っていたよりたくさんの土台が出来上がった。
吹き口が意外と難しく何度かやり直して調整をした。
これも学校の授業で少しかじった事があった焼き物作りのおかげだ。
イルは相変わらず窓際で昼寝をしている。
もう、お兄様ったら‥いや、猫だった。
「しぇんしぇい?」
「アーポ起きた?」
「うん、あれなに?」
早速、まだ出来上がってはいないが鳥の笛に目が行ったらしい。
気づいてくれた。うれしい。
「うん、お楽しみ。あれをみんなと一緒にかまどで焼くんだよ」
「かまじょ?」
アーポは小さな布団をたたもうとして格闘している。うん、可愛い。
「先生」
次々に子供たちが起きて来る。
イルは呆れたとばかり薄眼でこちらを見るとまた寝た。
そしてかまどに鳥の粘土を並べて焼く。
しばらくキッチンでおやつを食べながら待つ。
今日のおやつはスイートポテトもようなもの。
この世界にもお芋あるんだ。だったら焼き芋とかそうそう蒸しパンなんかいいかも。
そんなレシピなんかを考えながら子供たちと一緒に過ごす。
「先生、もうそろそろじゃない?」一番時間を気にしていたペッカーが我慢できなくなったらしく声を上げた。
「そうだね。そろそろかな。みんな食べ終わった?」
「「「は~い!」」」
私達はかまどの様子を見に行く。
いい頃合いに焼けている。
ミトンをはめてゆっくり笛を取り出す。
色付けが良くわからない為、一つ一つに印をつけた。
葉の形やせいぜい花だった。ペッカーは鳥の模様を描いていたが私にはそう言う才能はないらしい。
「まだ、触らないでね。熱いから火傷するわよ」
「俺は鳥の絵を描いたんだ」ペッカーが自慢する。
「僕のは?」ポンツ。
「私のはどれ?」コニハ。
「ぼくもぉ~」アーポも。
「みんなごめんね。先生、絵の才能はないからペッカーみたいな鳥はないの、でも、ほら誰のかわかるように別の絵を描いてあるから‥」
そんな申しわけない印にでも子供たちの目は輝く。
「これ鳥の形だよね先生?」
「ええ、鳥笛って言うのよ」
「ふ~ん。あの口のところを吹くの?」
「ええ、しっかり冷めたらやってみようね。どんな音が出るか先生もわからないから」
「うん、楽しみだね」
「ちゃのしみ~」
うふっ、アーポったら髪の毛が立ってる。
そして笛がしっかり冷めるとひとりずつ思い思いの笛を選んだ。
私は一つずつに思いを込めてふっと魔力を込める。
良い音が出ますようにって。
「じゃあ、部屋に戻って吹いてみましょうか」
さすがにキッチンで吹くわけには行かない。
「「「「は~い」」」」
みんなで部屋に戻るとそれぞれが笛を吹き始める。
高い音や低い音。吹き加減が分からず強すぎて音が詰まったみたいになったり、弱すぎて音が出なかったり、それでもみんな楽しく笛を吹いて遊んでいた。
「きゃぁあぁ~」
いきなり外から悲鳴が聞こえた。
私は窓を見る。シスターが走って来る。その後ろに見たこともない恐ろしい物体が。
「魔物だ!」ペッカーが叫んだ。
みんなパニックになって叫ぶ。
「大丈夫。みんな窓から離れて。そうだ!二階に上がって、さあ、早く一番奥の部屋に入ったら絶対に出てこないで。いいわね。ペッカーみんなを!」
「先生は?」
「ラゴンさんを探すから、いいから早く行って!」
子供たちを二階に向かわせると私はラゴンさんがいる部屋を目指すが途中でカイヤートに引き止められる。
「セリどこに行く?ここは危険だ。奥にいろ!」
「でも、魔物が。ラゴンさんに知らせなきゃ」
「ああ、あいつは魔物だ。俺達が仕留めそこなったらしい。すまん。ラゴンは呼ばなくていい。俺達で片をつける。心配するな!」
「でも、あっ、じゃあ、これを持って行って」
私は焦ったせいか魔力を込めた鳥笛をカイヤートに渡す。
慌ててそのまま手に持っていたらしい。でも、何かあったらこれで知らせれるかも知れないわ。
「なんだこれは?」
「鳥笛よ」
「俺達が助けを呼ぶとでも?」
「そんなつもりはないけど‥」
ほんとに大丈夫なの?あんな適当なのに?
私はカイヤートを疑わしい目で見る。
カイヤートは全くって感じで剣を鞘ごと床にこつんこつんと当てている。
「それより殿下急ぎませんと」
「ああ、セリよく見てろよ。速攻で倒して来る」
カイヤートがそう言うと三人は外に走り出た。
雨はすっかり止んでいたが地面は滑りやすくなっている。
魔物は怪我をしているらしく足をひこずりながら「ぐぉぉぉぉ~」と口を大きく開けた。
裂けた口から鋭い牙がむき出しになり、恐ろしい顔がさらに狂暴になる。
あんなのが入ってきたらどうすれば。
いつの間にか近くにはリンネさんやシスターたちも集まって来ていてラゴンさんも状況をじっと見ている。
きっと何時でも助けに入るつもりなのか剣を持っている。
「カイヤートなら大丈夫。あれでも剣の腕は確かなのよ。他のふたりもね」
リンネさんは落ち着いてそう言うが。
私だって辺境伯で騎士として討伐に参加して魔物は見たことはあった。とは言っても最後尾でみんなの手当てをするくらいだったけど。
まあ、最後に出たのは学園に入る前で、あの時も魔物が数体いて手こずったと聞いた。
あの時は何もできなかったけど、私だって学園では訓練を受けてそれなりに浄化の魔力が使えるし剣だってふれるんだから。
そうだ。浄化出来れば魔物は消えるのでは?魔物は月喰いの呪いでなるって聞いたわ。
もしかしたら私の魔力が?
「ライノス!クラオン!しっかりしろ。おい、立て!クッソ」
窓を見ると魔物が増えている。
二人はいきなり不意を突かれたらしく別の魔物に突き飛ばされたのだ。
あれはさっきの魔物より大きい。
その瞬間カイヤートが怪我追った方の魔物から胸を突かれる。
「ぐふっ!」
いやなうめき声を上げてカイヤートが身体を折る。
「きゃっ、カイヤート!」
思わす叫ぶ。
その間にも新たに現れた魔物がカイヤート向かっている。
いかつい身体は赤黒い毛でおおわれてうなり声を上げて狂ったように突進して行く。
「危ない!」
私は我を忘れて外に飛び出た。
魔物が一瞬立ち止ってこちらを向く。
ビクッと身体が震える。それでも必死で手のひらで魔力を練ると「じょうかぁぁぁ~」声を張り上げ叫ぶ。
力任せに渦巻いている魔力を魔物に向かって解き放った。
見たこともない強風が魔物を取り囲みぐるぐる渦をかいて魔物をその場に押しとどめる。
光が下から上にキラキラ巻き上がって行く。
カイヤートがその隙をついて剣を魔物の心臓めがけて突き刺す。
「ぐっぎゃぁぁぁぁ~」
大きな咆哮を上げて魔物の実態がなくなっていく。
そしてそのまま光と共に魔物が消えた。
もう、一体の魔物もライノスさんが剣を突き立てて息の根を止める。
魔物はそのまま消えて行った。




