27俺の番!
「殿下、一体どう言うことなんです?」
食事を終えセリや子供たちが出て行くとクラオンが詰め寄った。
「何がだ?」
「とぼけても無駄です!あの方は探していた聖女様では?」
「やっぱりお前もそう思うか?」
さすが勘のいいクラオン。
「あの方。伝説の色合いそのままでは?獣人ではない女で髪は金髪か銀髪、瞳は碧か翠っていう話だったはず」
「ああ、そうだ。それにな、セリは魔法も使える」
「えっ?もう聖女として覚醒しておられるんですか?」
「いや、大叔母に聞いた話ではシェルビ国の真実に愛に選ばれていた一人らしい。それも一番魔力が多くオデロ殿下と婚約までしていたそうだ」
シェルビ国に事はこの国の獣人、おまけに皇族ならば誰もが知っている事だ。
あんな出鱈目な言い伝えを鵜呑みにしている奴らだが、魔粒毒に関しては気の毒に思っている。
そう言うプロシスタン国もうかうかとしてはいられないんだが。
「そんな女性がどうしてこんな所に?」
ライノスが不思議そうな顔で俺を見た。
まあ、そう思って当たり前だろう。
「それがなぁ、彼女は酷い目にあったらしいんだ。真実の愛に相手であるオデロ殿下には裏切られ助けてくれた弟のユーゴ殿下という奴はセリを庇って亡くなったそうだ。おまけにセリを助けるために兄は無理をして転移までして亡くなったらしい」
「そんな酷い目に」
「ですが我々にもあまり時間がないというか、セリ様に助けて頂かなければならないのでは」
「ああ、もちろんわかっているさクラオン」
実を言うと俺たちはこの数ヶ月、聖女を探してこの国中を旅していた。
俺は皇子でも二番目で兄が既に時期皇王になると決まっている。
この国では王になるにはある儀式を受けて無事に生き延びなければならない。
その儀式は二十五歳の誕生年の降誕祭の満月に魔呪光を受けると言うものだ。
獣人なら誰もが知っての通り魔呪光を受ければただでは済まない。その光を身体に浴びれば魔呪獣になると恐れられている。
その儀式を無事に乗り越えなければ皇族としてはやっていけないのがこの国の掟なんだ。
あの恐ろしい光に耐えれたものだけが、次世代の子孫を残す権利を得る事が出来る。
要するに強い血族を残したいって事だ。呪いにも強い子孫がな。
兄はその儀式を終えている。
って俺はどうしてそんなことを思っているかって?俺はまだその儀式を受けていない。
俺は二十四歳で儀式はもうすぐだ。
でも、それよりも今は百年に一度の月喰い日の厄っかい事の方が重要なんだ。
どんだけ俺の印象薄いんだよ。
母親は皇族ではなく狼獣人ではあるが平民だからそうでなくても皇妃や兄からは下に見られてるって言うのに。儀式の事までおざなりになっている。
月喰いの日って言うのは言い伝えではイヒムが裏切りの子供を産んで俺たちに月の恩恵まで与えたことを知ったアード神がやった嫌がらせみたいなもんらしいんだが、百年に一度月が太陽に食われてなくなるって馬鹿な言い伝えなんだ。
確かにその日、月は無くなって行くんだ。
まるで食われてるみたいに端から欠けていってなくなっちまう。
その日は一日中呪気が空気中を漂ってそれを吸い込んだりしたら魔物になっちまうと恐れられている。
実際、百年前にも何十人もの獣人が魔物になったらしい。その魔物は今も森を彷徨っていて時々人里に降りてきて獣人や家畜を襲う。
相手は魔物だ。どうにもできなくて騎士隊が討伐するって訳なんだが魔物ってやつは何百年も生きるらしくってマジ厄介なんだ。
それで問題は月喰いの日だ。
イヒム神は何とかそれを阻止しようと救済措置としてやったのが聖女様。
この時期に聖女が現れる事になってるらしいんだが毎回どんな形で表れるのかがはっきりしないらしくってそれであちこち探しまわってる。
だからその聖女がいれば被害は最小限に抑えられるはずで。
最悪、王都の周りを聖女に浄化してもらうだけでも効果はあるだろうな。
すごい魔力のある聖女だったら下手すりゃ月喰いの呪気をすべて払って魔物にならなくて済むかも知れない。
まあ、そんな大聖女が簡単に現れるはずもなだろうけど。
言い伝えに従って俺たちは必死でその聖女様を探し回っていた。
そのせいで魔物に襲われて腕にけがもしたって訳なんだが。
全く!神様の嫉妬で俺たちを犠牲にすんなって言いたいけど、まじで聖女に会えるなんて思ってもいなかった。
それで何が問題かって?
そりゃ、セリが俺の番だって事だ。
さっきセリが俺に触れた時、もうヤバかった。
俺の全神経が俺の番だってビンビン反応して体中が痺れたみたいになった。
それにセリは俺の怪我まで治してくれて俺は全身が身の毛もよだつほど悶えそうになって。
思わず叫んでいた。俺の物だって。
もう、俺、セリが欲しくてたまらない。
でも、俺、今まで女に全く興味なかったから口説くなんてどうすればいいのか?
いや、いきなりおかしな奴だと思われるかもしれないし、どう言ったらいいかわからん!
しかし、あんなはっきり言う女も見た事ないな。
俺、これでも結構女には言い寄られてたんだけど全く眼中になかったし。
それが‥‥
これからどうやってセリを攻略すればいいのか全く策も思いつかないまま俺はその辺りに漂うセリの香りを鼻腔いっぱい吸い込んだ。
ウゲェやべえ。鼻血出そう。
俺の理性持つかな?
こりゃ相当ヤバいかも。
「殿下、とにかくリンネ様に相談をされた方が良いかと。聖女様となればリンネ様も協力していただけると」
「ああ、問題はそこじゃないんだ。セリは俺の番なんだ!」
ばっ、行ってしまった。
「それはまことにめでたい」
「クラオン。お前こっちはそれどころじゃねぇんだよ!」
「殿下が女にねぇ~」
「ライノス、わかってるだろうな?セリに手を出したらただじゃすまないからな!」
「わかってますって」
妙にうれしそうな二人に俺は拳を震わせていた。




