23先生になったら
翌日からは四人は私が面倒を見る事になった。
「ねぇ、セリ先生」
そう声をかけたのは犬獣人のコニハ。
他にも同じ五歳のポンツは羊獣人でアーポは三歳で猫獣人。
一番大きいのが八歳になるペッカーで犬獣人。
コニハは女の子で他は男の子。
四人はいつも一緒で仲がいい。
みんなの可愛い耳がヒクヒク動いたり尻尾をいきなり足に絡められたりすると心がくすぐったくなって温かい気持ちになれた。
朝からみんな元気いっぱいで、絵をかいたり絵本を読んだり文字も少し練習した。
午後はピアノがあるのでみんなで歌を歌ってみようかと思っている。
その後は外で鬼ごっこもいいな。
前世で離島の先生をしていたおかげで普通の授業だけでなく音楽の先生も保健室の先生の役目もこなしていた事がこんな所で役立つとは誰が思っただろう。
私の顔は自然とほころぶ。
さあ、今からランチね。
「どうしたのコニハ」
私は子供たちを呼び捨てで呼ぶことにした。その方が親近感も湧くし早く慣れてもらいたい気持ちもあった。
コニハは真面目な顔で私をじっと見ている。
「先生は女神さまなの?」
ぶっ!思わず吹き出す。
「どうしてそう思うの?」
「だって、目の色が‥なあ、みんな」そう言ったのはここにいる子たちの最年長のペッカーだ。
彼はみんなのまとめ役。やっぱり一番年上なだけはあるかな。
「ええ、でも女神じゃないわ。プロシスタン国ではみんな獣人だけど他の国にはみんなとは違う人もいるの。だから残念だけど私は女神じゃないわ」
「ほらみろ!」そうからかうのは同じ年のポンツ。
男の子の中で一番粋がっている感じ。
「だって、セリ先生が女神様だったら病気になったお父さんを直せるかもしれないんだよ。お父さん魔呪毒にやられて魔呪獣になっちゃったから‥ヒック、ヒック‥うぇぇぇぇ~ん‥」
ああ、コニハにはそんな事情があったんだ。
ここにいる子たちはみんなそれぞれの事情でここに来た。
私だって同じ。
いつまでもくよくよしていられない。
「そんな事があったんだね。辛かったねコニハ。でも、ここにはほら、みんながいてくれる。大丈夫だから‥」
そう言って泣きじゃくるコニハを抱きしめる。
無意識のうちに魔力でコニハを包み込んだ。
すぐ横にはイルも来てコニハにすりすりをする。
「キャッ、イル。くすぐったい」
イルの瞳が潤っとしてその眦から涙が落ちていた。
「イル泣き虫?」
コニハがきょとんとしてイルを見た。
私は慌ててイルを抱き上げた。
「イル?どうしたの‥お前が泣いて‥?」
その時耳孔の奥に声が聞こえた。
「セリーヌ。俺はリートだ。ずっと会いたかった」
私はイルを凝視する。
イルの目から涙がボロボロ零れ落ちて行く。
「お、お兄様?ほんとに?」
イルがこくんと首を折った。
『でも、どうして?』
『どうしても魂が天に向かえなかった。地上に留まって彷徨っていた。そしてセリーヌのいる場所を求め続けて偶然、生まれたばかりの子猫に入り込んだ。そしてやっとお前に会えた。でも、お前が魔力を使わないから響き合えなかった。でも、お前がコニハを抱きしめた時魔力を纏った。だからその魔力に俺の魔力を纏わせたんだ』
『ああ、お兄様‥会いたかった。こうやってまた会いに来てくれて本当にうれしい』
『ああ、俺もだ。やっとお前と話が出来た。いいか、お前が困った事があればいつでも力になるからな。そうだ叔父上と連絡を取った方が良さそうだ』
そう言えば叔父様とはあれからすっかり連絡を取っていなかった。
国王はどうなったんだろう。それにオデロ殿下の処分は?
「セリ先生変だよ。どうしたの?」
子供たちが心配している。
私はイルと脳内で会話していた。だから子供たちの目に不思議に映ったのだろう。
「ううん、大丈夫。イルったら目に何か入ったみたいね」
私は零れそうな涙をぐっとこらえ子供たちの気をイルに向ける。
「みちぇて、ぼく、ねこわかりゅ」
そう言ってくれたのは猫獣人のアーポだ。
アーポはまだ言葉が拙いがそれがかわいい。
私はじゅるッと鼻をすすってアーポにイルを手渡す。
イルは嫌なのか少し身体を揺すったが。
アーポは優しくイルを抱くと目をそっとのぞき込んでじっと見ていた。
「うん?おまえめいちゃい?‥」
アーポはそっと指先で目元を撫ぜる。
イルは気持ちよさそうにした。
「ふふっ、もぉ、じゃいじょうびゅでしゅ。はいっ!」
アーポはそう言ってイルを私に手渡してくれた。
「ありがとうアーポ。さあ、ランチにしましょう」
やっと誤魔化してランチにすることにした。
イルがお兄様だなんてうれし過ぎる。
これから毎日が楽しくなりそう。




