20色のない世界
私は亡くなった兄に別れを告げるとすぐにプロシスタン国に行くことになった。
兄の顔は何だかとても穏やかでそれがかえって辛かった。
もしかして私を無事にここに連れて帰れて良かったって思ったの?
もし、そう思ったならお兄様はすごく勝手よ。
そんな事をしてお兄様が死んでしまうならいっそ私も連れて行ってほしかった。
どうして私をひとりにしたのよ。
ユーゴ殿下もお兄様も勝手すぎる!
悲しさを通り越して憤りや悔しさばかりが胸に押し寄せた。
あの時‥ユーゴ殿下り早く私がオデロ殿下に浄化魔法が出せていたら。
あの時、私が油断してアーネに刺されていなければ。
あの時‥あの時‥すべてが繰り言だと分かっている。
でも、考えずにはいられない。
「お嬢様、今はご自身の身の安全だけを考えて下さい。リート様もそれを願っておられるはずです。だからどうかお辛いでしょうがここはスコット神官様の言う通りに‥さあ、お支度は整えてあります。着るものはドレスなどは不向きだと聞きましたので平民が着るような服が入っております。後は簡単な化粧セットや着替え、宝石も入れておくようにと伺っておりますのでこれはお嬢様がお持ちになって」
カナンが口早に説明をして宝石の入った小袋を私に押し付けてくる。
でも、そんな言葉はほとんど頭に入っては来ない。
ただ、されるままに支度をする。
着替えた服は使用人が着ているような平民が着るワンピースのような服。
お金は違うので何かあった時のために宝石も持たされるらしいが荷物はトランク一つで充分なほどだった。
私はハッと思い出して急いでユーゴ殿下から貰ったイヤリングを持つ。
どうしても持っていきたかったから落とさないようにピアスにして身につけた。
彼と過ごした時間は本当に僅かだった。もっと早く彼と出会っていれば、彼が婚約者だったならと思わずにはいられなかった。
でも、そんな願いも叶う事はないんだと。
思い出すだけで胸の奥が痛みに押しつぶされそうになった。
このまま息ができなくなればどんなに良いだろう。
このまま天に召されたらと思わずにはいられない。
それでも、私が死んでしまえば兄やユーゴ殿下を偲ぶ人がいなくなる。
命日に花を祈りを手向ける人が居なくなると思うと私が生きていなければと言い聞かせるしかなかった。
屋敷のみんなからどうかご無事でと声を掛けられ長年暮らしてきた屋敷を後にした。
そんな失意のどん底のような気持ちで私は急かされるまま転移でプロシスタン国に渡った。
私は虚ろで目に映るものすべての色が消えていた。




