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1 100年の恋も冷める?


 ふっと意識が戻った。

 あれ?ここはどこ?

 ギシリと音がして自分がベッドにいることに気づく。

 周りを見ればここが自分の屋敷のセリーヌ自身の部屋だとわかった。

 ああ、そうだった。わたし倒れたんだ。

 そう思った途端脳内に記憶が蘇る。


 確か私は学園の創立記念パーティーにいたはず‥

 私はいつものようにオデロ殿下のエスコートもなく一人で会場入りした。

 それでも今日は学園のパーティーだからと気持ちを奮い立たせた。

 真実の愛のカップルとして総代として二人で挨拶をする手はずになっているから。

 オデロ殿下は最近のお気に入りとやらのアーネ男爵令嬢を侍らせて嬉しそうに鼻の下を伸ばしている。

 ああ~見てられない。

 それでも彼は私が一目で恋に落ちた人。

 もしかしたら。

 ひょっとして。

 万が一。

 そんなわずかな期待を胸に来たのに。

 それにこの創立記念パーティーが終われば卒業も間近。

 そうなれば殿下のそばにいた女性もそれぞれ結婚や仕事に去って行くはずなんだから。

 だから今度こそは私を見てくれるはず。

 そんな砂粒ほどの期待を持っていた。


 いよいよ挨拶をする時が来て私は名前を呼ばれ壇上に上がろうと歩き始めた。

 先に早速とオデロ殿下がなぜかアーネ様を連れ添って壇上に上がった。

 私はひゅっと息を吐く。

 私はその場に縫い留められるようにその場に立ちすくんだ。


 オデロ殿下はみんなの前で一度大きくため息を吐いて見せた。

 そう、わざとらしく。

 『みんな聞いてくれ。知っての通り俺とセリーヌ・スコット辺境伯令嬢とは<真実の愛>で選ばれたカップルだった。だが‥』

 オデロ殿下の腕をアーネ男爵令嬢がぎゅっと掴む。心配そうな彼女の翠緑色の瞳が揺れたように見えた。


 そう、彼女も私と同じ翠緑色の瞳。まあ、この国の貴族には多い色ともいえるのだけど。

 でも、髪色は私が銀色で彼女はピンクブロンド。

 確かにふわふわとカールする彼女の髪はちょっとかわいく見えるのが憎たらしいけど。

 それにしても何なの?この茶番は‥もしかして目の錯覚?

 私はこの状況が何かも理解できないまま目の前に繰り広げられている見世物に唇を噛む。


 さらに、殿下がそんなアーネ様にいたわるような優しい微笑みで返したと思ったらその視線が私に向く。

 オデロ殿下は私を睨みつけた。

 その金赤色の瞳には怒りが燃え盛っている。

 どうして私がそんな目で見られなきゃならないのよ!

 3年前に初めて彼を見た時に感じたときめきが。

 じわじわそのときめきは減って行き今ではわずかにほんのわずかに残っていた恋心さえも無残に燃え尽きてしまうようなそんな視線に私は戸惑いたじろいだ。

 何か言い返したいけど脳内では言葉の羅列が組み立てられず喉の奥が詰まったみたいで言葉が発せられないまま。

 ただ、オデロ殿下を見上げる。


 オデロ殿下がびゅっと音がしそうな勢いで私を指さす。

 これが弓矢だったらもう私の命は尽きていただろう。


 『俺とセリーヌ・スコット辺境伯令嬢は、どうやら<真実の愛>で結ばれてはいないようだ。俺にはここにいるアーネ・ロゼリア男爵令嬢が真実の愛の相手だとわかる。こうなった以上仕方がないだろう。お前とは婚約破棄だ。いいな?』

 その顔はわかってるだろう?いいから素直に従えよ。みたいな。

 ショックで胸の奥がずきりと痛んだ。

 そうは言ってもと私はまだ言葉を紡いだ。

 『ですが‥私達は神殿の神粋の儀式でえらばれた‥』

 『だから、神殿が間違ったんだ。お前だって神殿の儀式が形式的なものだと分かっているはずだ。あれで婚姻した奴らにどれだけの真実の愛があったと言うんだ?』

 『それは‥たしかに』

 確かにあの儀式で選ばれて婚姻したカップルの大半がうまく行っていない。浮気で婚約を解消したカップル。結婚したがうまく行っていない夫婦。確かにそうなんだけど。

 『ほら見ろ。お前も俺と別れて別の奴と婚約すればいいんだ。簡単な事だ。わかったな』

 『でも‥』

 『しつこいぞ!』

 オデロ殿下が顔をしかめる。

 ばかみたいだ。

 私ったらほんとにばか!


 『もぉ、オデロったら、そんな顔しないの。セリーヌ様ごめんなさい。そう言うわけだから。うふっ、彼との婚約はなかった事にしてね』

 追い打ちをかけるようにそんな言葉が落ちて来る。

 アーネ様がオデロ殿下の腕に絡みついてコテンと首を傾けた。

 『ああ‥ほんと、お前は‥アーネは可愛いな。ほんとあいつ、あんなでかくて傷物な女だろ。まじ気持ちが悪かったんだ』

 オデロ殿下が彼女に柔らかな微笑みを向けてそう呟いた。


 耳の奥がじんじんしてその言葉が脳の奥にしみ込んでいく。

 私は確かに身長が他の令嬢より高い。辺境で鍛えていただけに他の女性よりも筋肉だってあるし顔には傷も‥

 そんな事一番よくわかっている。

 でも、気持ちが悪かった‥って。

 そんな風に思われてたなんて。

 その瞬間私の中に残っていたわずかな、ほんのわずかな期待すら彼は、いや彼らは脚先でぎりぎりと踏みつぶした。

 踏みつぶされた。


 私には一度のそんな優しい顔を見せてはくれなかった。

 茶会はいつも欠席だった。

 一度だって夜会のエスコートさえしてもらえなかった。

 そうそう、ドレスだって送られた事がない。王子のくせに!

 いつだって見るたびに違う女をそばに侍らせうれしそうな顔をしていた。

 私には見せたこともない微笑みを浮かべて。

 私が声を掛ければいつも忙しいから後にしろって言われるだけだった。

 ほんと、思えばまともな会話はしたこともなかった。

 誕生日プレゼントも花束ひとつ送ってもらった事もなかった。

 王子妃教育にオデロ殿下が生徒会長なので生徒会の仕事もすべて私に回って来た。

 少し前からは王子の執務も始まってそれさえも私に丸投げだったじゃない!

 もうこんな殿下に未練はなかった。


 私は俯いていた顔をすっと上げた。

 『オデロ殿下。婚約破棄の件承りました。その代り私は王宮での王子の執務はもう出来ませんのでご了解ください。あっ、それからアーネ様。王子妃教育がまだですわね。頑張ってください。すでに卒業が近いのでかなり詰め込みで急がれないと間に合わないかもしれませんわ。では。ごきげんよう』

 美しいカーテシーをしてくるりと向きを変える。

 『まあ、そんな嫌味。いやですわぁ』

 アーネ様の甲高い声が耳元でしたと思ったら確かに背中を押された。

 足元がぐらりとなった。

 ううん、本当はこれくらい平気とふらつくふりをしようとしていただけなのにほんとに足を踏み外して盛大にころんだ。

 頭痛い‥

 見上げればオデロ殿下がアーネ様と仲睦まじく寄り添って歩いて来るのが見えた。

 『まあ、セリーヌ様だいじょうぶですのぉ?』

 ふん、わざとらしい。

 きっと殿下の側近が私を押したのだろう。

 でも、私はそのまま意識を失っていた。

 もぉ、やってられない!!


 







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