18オデロ殿下暴走
「陛下。私からもお聞きしたいことが、もしユーゴ殿下とセリーヌが<真実の愛>の相手と決まればオデロ殿下との婚約はなかったことになるんですよね?」
兄が国王陛下に尋ねる。
「まあ、もちろんそうなるだろうな。それにしてもユーゴの方が魔力が強いとは‥オデロ。お前は何をしておった?ユーゴよりも優遇され学園では指導も受けていたはずだろう?そのような女にいいように扱われてほんとにお前にはほとほと愛想が付きそうだ」
オデロ殿下はますます小さくなって顔を俯かせる。
それなのにアーネがさらに身体を密着させて行く。
「では、私たちはこれで。副神官様ご連絡をお待ちしています」
ユーゴ殿下が神粋の儀式の事を念押しした。
私達は立ちあがってお辞儀をする。
いきなりオデロ殿下の顔が真っ赤になっていきなりガバリと立ち上がった。
「許さん!お前のような奴に。くそっユーゴ死ねぇ!!」
オデロ殿下が手のひらで火の塊を練り始める。
怒りに任せた魔力はいびつな形を形成しながら見る間に大きくなって行く。
「やめろ!ここをどこだと思っている?オデロ!止めんか!」
国王が慌てて声を荒げるが、オデロ殿下にはそんな声さえも届いていないようだ。
ぐがっと目を見開き、目の前のユーゴ殿下やわたしに向かって火炎放射のような炎と突き出した。
スローモーションのように私の身体が歪んで行く。
ユーゴ殿下が向かって来た炎をもろに受けるように私の前に飛び出て行く。
手のひらで魔力を練っているような感じだった。
でも、業火はあっという間にユーゴ殿下を包み込んだ。
炎に包み込まれてユーゴ殿下が悲鳴を上げる。
「ぅぎゃぁぁぁぁ」
「「「ユーゴ~!!」」」
みんながユーゴ殿下を助けようと。
兄はまだ炎を繰り出そうとするオデロ殿下に飛び掛かる。
私は手のひらで魔力を練る。水魔法ではないが浄化魔法で魔法の火が消せると思った。
国王は大声で助けを求める。
「誰かーユーゴがー助けてくれ!!」
護衛兵がばたばたと部屋に入って来て、上着を脱いでユーゴ殿下に覆いかぶさるものや兄を助けようとオデロ殿下に飛び掛かるものが錯綜する。
すべてが終わった時ユーゴ殿下のそばにいた護衛兵が首を横に振った。
ユーゴ殿下はすでに息をしていなかったのだ。
身体は炎で焼けただれ衣服が黒焦げになって肌にへばりついていてとても見れるような状態ではなかった。
オデロ殿下は護衛兵に取り押さえられ護衛兵も怪我を負っていた。
兄もあちこちに火傷を負っていているらしく膝をついて肩で息をしていた。
「お兄様しっかり」
「ああ、セリーヌ怪我はないか?」
「ありません。それよりすぐに手当てを」
兄は護衛兵に担がれて部屋を出て行く。
そしてふらふらと目の前で酷いやけどで横たわっているユーゴ殿下に目を落とす。
死んでるなんて思えなかった。
彼の顔は火傷もない。
それでもその顔は苦しかったのだろう。苦痛で歪んでいた。
現実とは思えない状況に私はたまらずユーゴ殿下の前に頽れた。
さっきまであんなにやる気に満ちていたユーゴ殿下。
一緒に神粋の儀式をすると。
そして認められれば私と婚約するつもりだった。
その気持ちに嘘はないと思えた。
彼の気持ちがうれしかった。
ほんの短い時間の間に彼の誠意は私の胸の奥に届いていた。
なのに‥‥‥
突然抑えきれない感情が沸き上がって。
「ユーゴ殿下‥いや。死んじゃいや。うそよ。こんなのうそよ~いやぁぁぁ~」
あまりにも呆気ない最後。
信じられない。
目の前の事実を受け入れられるはずもなく悲鳴のような声で泣き崩れた。
「私を置いて行かないで。ユーゴ。聞いてるの?ねぇ、起きてよ~」
ユーゴの頬に触れ髪を撫ぜつけ嗚咽を上げてむせび泣く。
「全部あなたのせいよ!」
いきなり声がした。
ふっと顔を上げたその瞬間。
アーネが私のお腹に護身用のナイフを突き立てた。
「ぐふっ!」
おかしな声が出た。
まだいたんだ。
あなたどうしてオデロ殿下を止めてくれなかったの。
ねぇ、どうしてユーゴ殿下が死ななければいけないの?
そして今度は私?
私の瞳に移ったのは、アーネが震えながら私を見下ろしていたのが最後だった。




