15セリーヌを運び込む
魔同局にセリーヌを連れて行き、医務室に駆け込みシュゼット医師に説明をした。
リートさんがここで働いているのでシュゼット医師もセリーヌを知っている。
ばたばたしていたらセリーヌの兄に見つかった。
「ユーゴ何があった?」
しまった!一番にリートに知らせるべきだったのに。
「リートさん。すみません。俺のせいなんです。俺がセリーヌさんに無理をさせたから」
「セリーヌがどうした?何があった。早く言え!」
リートさんは俺の胸ぐらを掴んで目をむく。
「く、訓練でオデロの魔力が暴走してそれを抑え込もうとしてセリーヌさんが目一杯魔力を出したんだと「っつ!それを早く言え。どこだ?セリーヌはどこなんだ?」医務室です」
「クッソ!セリーヌ‥」
リートさんが俺を突き飛ばして医務室に走る。
俺もすぐに後を追う。
「セリーヌ!!」
「リート、静かにしろ。セリーヌは魔力が枯渇しているんじゃ。魔力の代価が必要じゃ」
「俺がやる。そこをどいてろ!」
リートさんはセリーヌの手を握る。魔力を流し込むつもりらしい。
シュゼット医師は好きなようにしろとばかりに後ろに下がった。
俺はそばで様子を見る。
リートさんがぶどう病だって事はもちろん知っていた。
でも、この人は止めてもきっとやると言うだろう。
リートさんの様子次第では俺が後を引き継いでもいい。むしろ最初からそう思っていた。
リートさんの背中が揺れる。「はぁ~はぁ~はぁ~‥まだだ。まだ足りない‥」
「リートさん、俺代わります」
「そんな訳に行くか!セリーヌは俺の「大切な妹なんでしょ?だったら、どうすればいいかわかってますよね?」くっ、ああ‥ユーゴ頼んだぞ」
リートさんは自分の限界が分かっている。
そして無理をすればセリーヌが悲しむこともちゃんと理解している。
少し顔をしかめて前に出た俺にセリーヌの手を握らせるとすっと後ろに下がった。
「すまん」その声は掠れている。
気持ちは痛いほどわかった。母が同じように言うから。
もどかしい気持ちや情けない気持ちがないまぜになって自分が弱くなったみたいでたまらない気持ち。
「いえ」
だからこそ余計な言葉が出てこない。
俺はセリーヌの手を握ると深く息を吸い込んだ。
集中して魔力を練り上げると細い管から液体を流し込むような感じで魔力を少しずつ流し込んでいく。
雷魔法は光魔法と同じ系統のせいか反発せずぅっと馴染むようにセリーヌの身体に吸い込まれて行くのが分かった。
あまりたくさん与えすぎるのも負荷がかかると知っていたので8割がた魔力を注ぐとそこで止めた。
「シュゼット先生。8割方は戻しました」
俺はセリーヌの手を放して後ろを振り返った。
「ああ、それで充分だろう。今日はこのままここで休ませた方がいいじゃろう」
そこにはマリーズとラバンが立っていた。
「セリーヌはもう大丈夫なんですか?」
「ああ、しばらくは眠るはずじゃ。明日には元気になるじゃろう」
「良かった。もう、オデロ殿下のせいだわ。それにアーネ様もアーネ様よ。殿下の魔力に対抗できると思ってたのかしら。まったく無茶よ。だって彼女は男爵令嬢なんだもの。魔力だってそれほど強いとは思えないわ!」
マリーズはあの二人に相当頭に来ているらしく文句をたらたらいいまくる。
リートさんはそれを聞きながら顔を鬼のように強張らせていく。
「どういう事だ?アーネってあのオデロ殿下にくっついている腰ぎんちゃくか?あいつが何をしたんだ?」
「えっ?お兄様ご存知ではないんですか?」
リートは首を横に振る。
マリーズが動揺して俺を見た。
ああ、そうだ。これは今朝決まった話だったな。
俺は怯えたマリーズを制して前に出た。
「俺が説明します。今朝学園に着いた時、俺がセリーヌさんに話しかけたんです。それを見たオデロがセリーヌさんに酷いことを言ってアーネまで煽るようなことを言ったんです。自分たちが<真実の愛>で結ばれているとか。それで彼女は今日の訓練で二人で組むように言ったんです。それでオデロがいつものように魔力を発動して、でもアーネがしょぼい魔力で対抗できなくて魔力が暴走してそれをセリーヌさんが抑え込んだんです。それに運悪く先に俺との訓練で魔力を使っていてそれで‥すみません。俺が無理させたから」
「ユーゴお前のせいじゃないだろう。またあいつか!クッソ‥」
リートさんがぎりっと歯ぎしりしてまた青白い顔をしたセリーヌを見た。
「もう、我慢ならん。明日きっちり話をつける。ユーゴは心配するな。シュゼット先生もありがとう。そう言えばユーゴすまなかった。訓練で倒れたセリーヌを運んでくれたんだろう?」
「当然の事ですから」
そう答えるとリートさんは今度はマリーズたちに目をやった。
「助かった。それに君たちも心配かけたみたいだな。心配してくれてありがとう。だが、もう帰った方がいい。ありがとうな」
「はい、では、お大事に」
マリーズとラバンは帰って行った。
俺は「リートさん。俺、まだ魔同局に残ってますから何かあったら言って下さい」と言った。
「ああ、もう心配ないだろう。すまなかった」
「明日、国王に話をするなら俺も同席します」
リートさんがどうして?みたいな顔で俺を見た。
「いえ、ずっと思ってたんです。オデロにセリーヌさんはふさわしくないって」
「ユーゴ?それはどういう?」
「俺、今日セリーヌさんと一緒に魔力を交わらせて分かったんです。俺達すごく息が合うって、ずっと好きだったんです。セリーヌさんの事がでも兄の婚約者になって‥でも、兄が婚約破棄したいなら俺の婚約者になってほしいんです」
「ま、待て。それは気が早いだろう?それに神殿の神粋の儀式で決まった婚約だからな。神殿の許可もいる。お前が思っているほど簡単な事じゃないんだ」
「ええ、でもあいつ許せるんです?」
「もちろん許せん!」
「いろいろ手回しが必要かもしれませんが国王にはきっちり言っておいた方がいいですから」
俺は和えて父とは言わず国王という。
「手回しか‥ああ、そうだな。叔父は辺境で神官をしているし‥」
「ええ、そうでしたね。俺、実は神粋の儀式受けてないんです。もしかしたら<真実の愛>の相手セリーヌさんかも知れないですから。いえ、きっとそうだと思ってます」
「なっ!」
「取りあえず明日国王に話をしましょう」
「ああ、そうだな。それに叔父に口添えを頼んでみよう」
「では、おやすみなさい。少しは休んでくださいよ」
「ああ」
リートさんは俺の言ったことに相当驚いたらしく驚いた顔のまま見送ってくれた。
まあ、無理もないか。俺も驚いている。
セリーヌと婚約。
俺、まじか?
不思議なほどしっくりくるセリーヌとの婚約に俺は廊下を歩きながら顔が二やついて来た。
こんな気持ちは初めてだった。




