プロローグ
シェルビ国には古くから言い伝えられているオロール伝説がある。
それはこの国の成り立ちとも言える伝承だった。
~はるか昔この地にふたりの神様が降り立った。
(今ではシェルビ国とプロシスタン国にまたがっている土地)
男神の名をアードと言い女神の名をイヒムと言った。
ふたりの神が舞い降りてくる時に翠色の光と金赤色の光が天から降り注いだ。
これがオロール光。
翠色の光は地上に力を与え植物が芽生えぐんぐん育った。
金赤色の光は人間に火をもたらすと土の中に力を与え土の中に金や宝石そして貴重な魔石を生み出した。
人間はその光の恩恵に感謝しその光を魔粒光(オロール光)と呼ぶようになった。
そしてふたりの神はこの地に住み子を作った。
神の子は人間とも婚姻をして人間と関わりを持ちその暮らしを良くしていった。
それが現在のシェルビ国の王族の祖と言われている。
そしてアードとイヒムだけは年を取らず幾年月が過ぎた。
ある時イヒムが子を身ごもった。もう何度目かの妊娠だったが相手はアードではなかった。
アードはイヒム以外の女とは関係を持つ事はなかったのに。
なのにイヒムは人間の男と交わり子を孕んだのだった。
原因はきれいな女性と親し気にしているアードを見たイヒムの嫉妬だった。
アードは怒り狂った。
そのせいで地上に降り注ぐ魔粒光が毒に変わって行った。
イヒムと交わった男は真っ先に毒にやられて死にイヒムのお腹の子は無事に生まれてくることはなかった。
そして国中に魔粒毒と言われる毒が広がった。
獣は魔粒毒に犯され魔獣化し人を襲い家を壊し家畜を襲った。
人間はこの毒に侵されたくさんの人が病に侵され亡くなり国は乱れた。
そしてアードは最後にイヒムの胸を宝剣で貫きこの地上から去って行った。
イヒムは最後の力を振り絞ってこの世界を救う方法を伝えて息を引き取った。
『翠緑色の瞳を持つものと金赤色の瞳を持つものとの<真実の愛>こそが魔粒毒を浄化し魔物を倒す事が出来る。その時はこの宝剣を使いなさい』そう言って息を引き取りイヒムの姿はこの世界から消えた。
人間が神殿の中を探すと宝剣は神殿のイヒム神像の胸に突き刺さっていた。
それから数十年から数百年に一度の割合でシェルビ国には魔粒毒が降り注ぐ。
その時期には決まりがなく魔獣化した獣が魔物となって増えて行き魔粒毒がこの国に蔓延していく。
その度に国王は国中の翠色の瞳と金赤色の瞳の婚約者または夫婦(若くほとんど貴族)を招集して<真実の愛>であろうカップルを選び出し魔粒毒の浄化に送りこんだ。
時には真実の愛でなくて何度もカップルを送る事態になった事もあるが総じて神の残した言葉通り魔粒毒の浄化したと記述が残っているらしい。
でも、宝剣はどうしてもイヒム神像から抜くことが出来なくてイヒムの言い伝えは嘘ではないかとも言われている。
それにカップルをどうやって決めていたのかもはっきりとは判っていない。
もちろん魔粒毒の浄化には聖騎士団も同行して魔物の討伐も行いながら国境近くにある神殿で浄化の儀式を行う。
あちこちで魔物が発生し聖騎士団も浄化を行う者も魔物盗伐もしながら大変な苦難を乗り超えて国中が危機にさらされながらの大事態となったと記述には残されている。
この国に一番最後に魔粒毒が大量発生したのはもう二百年近く前で、それからは小さな魔粒毒の発生はあるが国中を覆うような広範囲の魔粒毒の発生はない。
そんな状況の中、二つの色を持つ真実の愛のカップル選びは毎年の恒例となって行った。
神殿は学園が始まる前に神粋の儀式を行いそこで最も相性の良い男女がカップルとなるのがここ百年ほどの実情だ。
真実の愛はどこに行ったのかと言いたい。
そのせいで婚約を決めるのはほとんどの貴族がこの時期の後となっている。
二つの色を持つものは婚姻を優遇されるが、だが反対に片方の瞳の色が少ないといつまでも相手が決まらないと言う弊害も出ているのが実情だが、相手の決まらなかった翠緑色の瞳と金赤色の瞳の者は待ってましたとばかりに他の色の瞳を持つ高位貴族との婚約や養子縁組なども有利になりどこまでも優遇された。
その事もあって婚約を決めない貴族が多かったのだ。
そんな中私、セリーヌ・スコット辺境伯令嬢の婚約が整った。
一般的に翠緑色の瞳の持ち主は水や土属性の魔力持ちが多いが私は光属性の魔力を持っていた。
スコット辺境伯では魔粒光が多く発生する事もあって魔物が日常的に現れる。
私は討伐にだって行くし騎士としての腕前だってかなりだと思っている。
そんな私の相手がオデロ・シェルビ第2王子殿下だった。
まさかこんなおてんばな自分がオデロ殿下の婚約者だなんて思ってもいなかった。
彼は輝く黄金の髪色を持ち金赤色の瞳で火属性の強い魔力の持ち主でもある。
二人は似合いのカップルと学園では騒がれた。
でも、反対に不釣り合いだとも言われた。
どうしてって私の額には幼い時の怪我で出来た傷があったからだ。
もっとも右眉の上で3㎝ほどの傷はかなり薄くはなっていた。
とにかくこうしてオデロ殿下との婚約が整った。
だからオデロ殿下はこんな私を受け入れてくれたと思った。
そんな彼に私は出会った途端恋に落ちたのだった。




