第5話
私が最初に宇宙人に遭遇したおばあちゃんのいちご畑は、厳重に管理されていた。
宝くじで当てたお金で周囲の土地を買い取り、全面的に立ち入りを禁止していた。
その日が近づくにつれ、ネットの書き込みはますます燃え上がり、観光客も増えた。
地元自治会から警察に巡回要請を入れてもらい、交通整理も行われている。
路上には露天商が建ち並び、商店街からは密かに感謝状が贈られた。
「たとえどんな結果になろうとも、周辺地域に多大なる経済効果をもたらし、この土地を有名にしてくれたあなたは、町の英雄です」
脅迫状や殺害予告はいつものことだった。
世界中のマスコミから取材の依頼が来るのも、全て断った。
これは遊びじゃない。
冗談にも笑い事にもしてほしくなかった。
「取材受けないのはいいけどさー。入場料くらい取ったら?」
人手が足りないとかで、広報戦略としてさらに別の人気インフルエンサーさんにプロデュースに入ってもらった。
だけどこれから本当に必要なのは、この人たちの言う通り、魔法使いとか戦士なのかもしれない。
「もし本当に宇宙船が現れたら、私を信じてくれる?」
「もちろんだよ! 新しい契約を結ぼう」
ニッと笑って親指を突き立てる赤髪の彼に、六人の黒髪七三弁護団さんたちもうなずく。
準備は整った。
私は大勢の観客に囲まれ、青々とした葉を広げるいちご畑に立つ。
集まった人々は、みんな空を見ず手元のスマホで時間を見ていた。
誰が用意したのか、大きな電光掲示の時計まで掲げられている。
天気は晴天。
夜空にわずかな雲が見られるものの、風もない穏やかな天気だった。
町を訪れる観光客は今日がピークで、渋滞情報が出ていた。
ネットもテレビも何もかも、世界中がこのいちご畑に注目していた。
「さぁ、18時00分を過ぎました! 間もなく世界中から注目を浴びる中学二年生、十四歳の少女による予言の証明が行われます!」
カウントダウンが始まった。
時刻表示が11分に切り替わる。
沢山のネット配信者たちが、スマホを私に向けていた。
「58、59、60! 時間になりま……」
18時12分00秒。
サーチライトで照らされていた夜空が、突然真昼のように明るくなる。
ちょうど十年前の今日、この場所で見たのと同じ、ピカピカと虹色に光る銀色をした宇宙船が、いちご畑の上空に現れた。
「来て……。くれたのね」
あの時と同じように、彼らは私の脳内に直接呼びかける。
波平の頭に伸びる、一本の髪の毛を揺らしながら。
「私たちがお願いした約束、果たせそうにないのですか?」
「違うの。皆にも教えたかったの。あなたたちの声を。私に力をくれたあなたなら、きっと助けてくれるって」
「もう次の仲間のところへ行かなければなりません。ここに居られるのは、今回が最後になります」
「ありがとう。私が呼ぶのを知って、ずっと待っていてくれたのね」
そう言った私に波平の頭をした彼らは、微笑みかけてくれたような気がした。
「ご武運を」
宇宙船が消える。
真昼のように明るかった世界が、再び暗闇に覆われた。
周囲にいた人々は、すっかりパニックに陥っていた。
慌てて逃げ帰ろうとする人々で、いちご畑の周囲は大騒ぎになっている。
「波平が襲ってくるぞ!」
「俺たちは本当に波平になってしまうんだ!」
混乱を極める群衆をかき分け、五つの影がいちご畑に現れた。
「ねぇ。あなたも、あの人たちに会っていたのね」
彼らのシルエットが、青々としたいちご畑に伸びる。
その陰は、波平の頭に生える一本の髪の毛のようにうねっていた。
「あなたたちは?」
「私たちも同じように、彼らから使命を授かっているの」
あぁ。未来が見える。
私が彼らと共に、波平と立ち向かう姿が。
共に組織を整え、武器を開発し、波平と立ち向かう準備をしているところが。
「ようやく信頼出来る仲間を見つけた。私たちも特殊能力の持ち主よ。これから来る波平に備え、協力していきましょう」
「うん!」
18時12分のいちご畑で、固い握手を交わす。
私の見る世界が、初めて波平から色を変えた。
『完』