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第4話

 世間の注目を集め始めた私は、六億円を当てたクジを換金してもらうため、初めて銀行の特別室へ両親と共に入る。

銀行の偉い人二人が、応対にでた。


「私、会社を作りたいんです。中学生でも、会社って作れますか?」


 初めてそれを口にした私に、両親は驚いた。


「ゆ、悠香? あんた何を言ってるの?」

「銀行の人、それが出来ますか?」

「え、ええっと……。弁護士のご紹介なら出来ますが……」

「それでよろしくお願いします」


 私はSNSで六人の弁護団を年間一億で雇った契約書を公開すると共に、身辺警護会社と特別契約を結んだことも明かした。

銀行の勧めで株もやった。

全てを的確に当てた私の銀行口座には、あっという間にお金が貯まっていった。


『天才少女現る! 彼女の未来予知の能力は本物!?』


 有名インフルエンサーに接触し、腕のいいプロデューサーも紹介してもらった。

たった半年余りで、私は三億人のフォロワーを持つ十四歳になった。


『お願いです。私の話を聞いてください。地球の未来は波平です。私は毎晩うなされています。私と共に波平と戦う仲間を探しています』


 弁護士さんには止められた。

プロデューサーさんからは仕事を降りるとも脅された。

それでも私がこんなことをする理由は、たった一つしかない。


『この能力をくれた、宇宙人との約束を守りたいのです』


 予想に反して協力したいというリプライが殺到したが、それはほとんどがお金目当てのものだった。


『私はあなたを信じます。当然じゃないですか!』

『どうかあなたの作るコミュニティの一員にさせてください』

『どんな仕事を任されますか? 私も共に働きたいです』


 誹謗中傷も酷かった。


『またあのお騒がせ厨二病が発作を起こしたか』

『洗脳されてなきゃマトモなのに』

『なんで黙ってられないかな』

『顔出し出来ない奴のことなんて、誰が信じるの?』

『つーか、こいつの頭がすでに波平なんだろ』


 今の私が頼ることが出来るのは、弁護団とプロデューサーだけだった。


「あなたは本当に、宇宙人から予知の能力をもらったというのですか?」


 四十代の弁護士の人が、私に向かって疑わしげな顔を向ける。


「本当です。だってあなたたちを雇ったお金は、全部宝くじと馬券を当てたお金なんですよ? あなたたちに信じてもらわなかったら、どうすればいいんですか」


 彼らは一様に顔を合わせ、困惑の色を隠せない。


「私は仕事でここに来ています。あなたのすることに法的な問題があるかないかだけの判断を下します。後は書類の手続きのみを行い、円滑に事業が進むよう努めます」


 六人の弁護団の人たちの意見は、それで一致していた。


「俺は、場合によっては下りますよ」


 元インフルエンサーの男の人は、赤く伸ばした髪を振り払った。


「てか、波平が襲ってくるとして、悠香ちゃんはどうしたいの?」

「守りたいの。皆を。地球を」

「うん。じゃあさ、実際波平が襲ってくるとして、何が必要だと思う?」

「……。なんだろう……」

「お金があって、人気者で注目されてるだけじゃダメだよね」

「武器? 武器がいる?」

「あー。そうだね。それとあとは戦士とか? 魔法使い?」


 プロデューサーさんの言葉に、弁護団の大人たちは笑った。


「ゴメンだけど、俺らには悠香ちゃんが本気だとは思えないし、そんなことが出来るとも思ってない」

「私が馬券や宝くじを当てても?」

「う~ん。何て言ったらいいんだろう。俺は……、俺はね、限定して俺はだよ? 悠香ちゃんの未来予知能力は信じてるよ」

「本当に?」

「うん」


 赤より赤く染めた長い髪に無精ひげを生やし、服の下からタトゥーの見え隠れするプロデューサーさんは、煙草臭い口元を歪めた。


「だけど、宇宙人がこの世にいるとは思ってない。もちろん広い宇宙のどこかにはいるんだろうけど、近い将来、波平が襲ってくるとかは、ないんじゃないかな」


 やっぱり信じてないんだ。

私のこと。

私の見る恐ろしい未来を、誰も共有してくれない。


「まぁね? ほら、あんまり遠い未来は不確定で見えないとか言ってたじゃない?」

「うん」

「その……。宇宙人襲来ってのも、そうなんじゃないのかなーって。だって、波平の頭って言ったって、悪いものでもないでしょ?」


 トゲトゲのいっぱい刺さった指輪をした手が、私の肩にポンと乗った。


「ま、そんな先の未来のことなんて、その時にならなきゃどうにもならないよ。今は今を大事にしたんでいいんじゃないかな。過去も未来も、全部作り出してるのは『今』だよ。今を大事にしていこ」


 彼には感謝している。

弁護団のみんなにも。

だけど信じてもらえないことには、意味がない。


「分かった。じゃあ次の書き込みでお終いにする。それで信じてもらえなかったら、それでもウソだって言うのなら、もう諦める。私は未来予知の能力を使わない。宇宙人にこの能力を返して、そのまま死ぬ」

「え?」


 だってもう、自分でいる意味がない。

全てが波平にされてしまうのなら、波平しかない世界になってしまうのなら、そうなる前に、自分が自分であるうちに、私は私でいることを守りたい。


「悠香ちゃん?」


 私はスマホを取り出すと、三億人のフォロワーに向かって呼びかけた。


『○月×日、18時12分。いちご畑の上空に、宇宙船が現れます。彼らは、私に未来予知の能力をくれた宇宙人たちです。もし本当に彼らがそこに現れたら、今度こそ私のことを信じてください』


 アプリを閉じる。

次の瞬間から、詳細の説明を求める電話が、二十四時間、一週間にわたって事務所で鳴り続けた。



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