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第3話

 あの未来は本当なんだ。

今はそんな未来が待っているなんて信じられないけど、毎日毎日少しずつ見てしまう未来の光景が、私を信じさせてくれる。

数年後、私に未来予知をくれた宇宙人たちとは違う、別の波平が地球を襲いにやってくる。

彼らは、そのことを教えてくれたのだ。

共に戦おうと。

私たちがこれからやってくる波平に怯むことなく戦えば、私たちは波平になることもなく、あの虹色に輝く銀色の種族も、波平とされることなく生き延びることが出来る。

そうして私たちは、地球ではない別の星で巡り会うのだ。

波平としてではなく、よき友人として。


「どうすればいいの?」


 行動を起こさなければ。

未来は変わらない。

彼らが私を選んだということは、きっと勝算があってのことだ。

だったらその期待に応えないと。

もう一度彼らに会いたい。


「ねぇ、一緒に宇宙人と戦おう! 地球を守ろう!」


 小学校の昼休み、給食を食べ終わったばかりの私は、決意を新たに立ち上がった。


「は? なんだよお前。寝ぼけてんのか?」

「おい、ドッチボールしに行こうぜ」


 男子たちが教室を飛び出す。


「危ない! 転ぶよ!」

「え?」


 私の予知した通り、彼は足を滑らせた。

お尻からひっくり返った男子が、後頭部を床に強打する。


「ほら、言ったじゃない。気をつけなよって」

「お前が驚かせたからだろ!」


 助け起こそうとした手を、彼は振り払った。


「ふざけんなって。転んだのはお前のせいだ!」

「違うよ。私、未来が分かるの」


 世界を救う。

そう決意した私に、怖いものなんてなかった。

昼休みの教室が静まりかえる。


「は? お前突然どうした」

「しょうごくん。いま頭掻こうとしたでしょ」

「え?」


 私はさっと後ろを振り返った。


「まりあちゃん。今からあくびする。ともやくんは右足の上靴に入った石を取ろうとしてたし、こうきくんはこれから鉛筆を黒板の前で削りに行く」


 私には見えた。

そんな未来が。


「は? ふざけんな。俺べつに頭なんて痒くないし」


 そう言って、しょうごくんはボールを持ったまま教室を飛び出していく。

まりあちゃんは必死であくびをかみ殺して、ともやくんは足をむずむずさせながらじっと椅子に座っていたし、こうきくんは取り出そうとしていた鉛筆を筆箱にしまった。


「ウソつき。未来が分かる人なんて、そんなの、い・ま・せ・ん!」


 クラスで一番頭のいいまゆみちゃんが、私をにらみつけた。


「だったら私がこれから何て言おうとしているのか、当ててみてよ」

「……。私が『ごめん。分からない』って言ったら、『バーカ』って言うよ」


 まゆみちゃんはしばらく怖い顔をしたまま、じっと動かなかった。


「そんなの詐欺じゃん」


 そう言った彼女は一呼吸置いてから、声を上げて笑う。


「ははは。私、『バーカ』とか言わなかったよ? 『そんなの詐欺じゃん』って言いました。最初っから、そう言うつもりだったし! 悠香ちゃんは、やっぱりウソつきだね」


 教室にいた全員が、まゆみちゃんに同意した。


「そうだよ、未来なんて分かるわけないし!」

「偶然だよ、偶然」

「くだらね」


 違う。ウソじゃないのに! 

どれだけ説明しても、それを証明しようとしても、ことごとく否定され無視される未来しか見えない。

未来が見えるとか、分かるとか言っちゃいけないんだ。

私が何を言っても何をしても、それに合わせて人は反応を変える。

私に見える未来は、確かなものじゃない。

だけど見えてしまう。

それを見ようと思えばいつだって、私にはその先の未来が見えた。

宇宙人のくれた能力は本物だ。

私は教室で孤立し、イジメられる。

騒ぐのをここでやめれば、クラスで一番大人しいゆきちゃんだけは、友達でいてくれる。

私はゆきちゃんの元へ駆け寄った。


「ねぇ、私のこと信じてくれる?」

「え?」


 彼女は突然話しかけられ、迷惑しているみたいだった。


「私は……。未来が分かるとか言ってる人は……。ちょっと怖いかも……」


 そうか。そうだよね。

これ以上彼女に近寄ると、私は唯一の話せるクラスメイトまで失ってしまうようだ。


「ごめん。何かちょっと寝ぼけてたみたい。そんなの、ウソだから」

「だよね。よかった」


 それ以来、あだ名は「宇宙人」になった。

誰かの親が私が宇宙人に誘拐されたと言ったことを覚えていたのだ。

私は学校にいる間中、陰でそう呼ばれ笑われた。

ゆきちゃんは一緒にいてくれたけど、私が何もしないことが私にとって一番いい選択肢なんだと、未来が教えてくれる。

だけどその先に見えるのは、やっぱり荒廃した地上と恐ろしい波平の光景しかない。

そうなることが分かっているのに、何も出来ない自分が歯がゆかった。


「ねぇ、どうすればヒーローになれるかな」


 誘拐事件から数年が経ち、地元の公立中学に進んだ私は、まだゆきちゃんと一緒にぐずぐずしていた。


「え? 波平が襲ってくる夢ってやつだっけ? 本当によく見るよね。まだそんなの見てるんだ」


 放課後の教室で、持ち込みが禁止されているスマホをゆきちゃんは見ていた。


「悠香ってさー。自分のスマホ持ってたよね」

「うん」

「それでSNSで拡散してみれば? 仲間になってくれる人が見つかるかもしれないよ?」

「……。それって、けっこう痛い系じゃない?」


 私がそう言うと、ゆきちゃんは呆れ果てた顔でため息をついた。


「悠香って、そういうの気にする子だったんだ。もう十分痛いでしょ」


 返す言葉もない。

てゆーか、他人からどう思われているかなんて、気にしている暇はなかった。

予知夢の内容は変わらない。

このままだと私は、いや、この地球上にいる全人類が波平になる。

私はスマホを取り出すと、さっそく活動用アカウントを新しく作った。


『私には未来が見えます。宇宙人がその能力をくれました。私はその力で人類を救いたいのです。誰か一緒に戦ってくれませんか?』


 投稿した瞬間、ぽつんと1PVがついた。

だけどそれ以降、なんの反応もない。


「ねぇ、どうすればもっと拡散されると思う?」

「バズらせたいの? そんなのお得意の予知の能力で何とかしてみなよ」


 ゆきちゃんは視線をスマホに落としたまま、推しのライブ配信への応援コメに忙しい。


「えー。どうすれば万バズするかな」

「さぁ。自分で考えたら」


 こうなったら誠心誠意、世間に訴えていくしかない。


『数年後に、全人類が波平となり、地球は滅びます。本当です』

『誰か私を助けてください。私はみんなを助けたい』


 思っていた以上に、SNSで注目を浴びることは難しい。

必死の訴えを続けるなか、ポツリと一件の返信がついた。


『そんなに言うなら、未来が見えることを証明してください』


 その文字列に、私は飛びついた。


『ずっとその方法を考えていました。どうすればいいか分からなくて、困っていたのです。どうすれば信じてもらえますか?』

『宝くじの番号当てるとか?』

『やってみます』


 近所にある大型スーパーに駆け込む。

入り口の脇に小さな宝くじ売り場があった。

周囲に誰もいないことを確認してから、小さな小窓をのぞき込む。


「あの! 私でも宝くじ買えますか?」


 気のよさそうなおばさんが、にこにこと対応してくれた。


「あら中学生? 中学生でも買えますよ」

「当たったら、どうなります?」

「未成年は、親の了解がいりますねー。高額当選の場合は」

「お父さんとお母さんに言わなきゃダメ?」

「ご両親に内緒でお金が欲しいの?」

「そ、そうじゃない。そうではないんですけど……」


 言いよどんだ私に、おばさんは真剣な顔を向ける。


「中学生じゃバイトも出来ないもんね。相談があるなら学校の先生か……」

「あの! 宝くじの番号を予想して買うことってできますか?」

「あぁ。それなら、こっちのクジの方がいいかもね」


 教えてくれたのは、六つの数字を予想する当選クジ。

一等は六億円。

だけど五つまでを当てるなら三十万円だった。


「じゃあ、これをください」


 私は一枚二百円でそのクジを買う。

一等の番号はすぐに浮かんで見えた。

私はそれを書き込んで、財布にしまう。

全部の数字を当ててしまうのは、よくないような気がした。


『次のクジの番号を当てます。最後の番号はご自分でお考えください』


 一体どれだけの人が、その番号を買ったのだろう。

販売期間が終わって抽選が行われた後に、私は六億円を当てたクジをSNSにアップした。


『私は当てました。これで未来が予想出来ると、信じてもらえますか?』


 ようやく皆の注目が集まった。

次の番号を予想しろだとか、お祓いとかのいわゆるクソリプが飛んでくる。


『次の当たり馬券を当てます』


 再びそれを当てた私に、取材の申し込みが殺到した。



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