表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話

 いちご畑の上空に現れた宇宙船は、私をその中へ吸い込んだ。

虹色に輝く銀色をした船内は寒くもなければ暑すぎもせず、光にあふれているのに決して眩しくはなかった。

彼らは五つの銀色の影のように私の前に現れ、脳内に直接語りかけてきた。

私たちを助けてほしいと。


「助ける? 助けるって?」

「私たちは、あなたたちの未来です。いま行動を起こさなければ、あなたたちもこうなります。全て。誰一人、免れることなく」


 その銀色に光る物体は、人のような形をしていた。

頭部だけが四角味を帯びた丸型をしていて、中央にはやや上を向いた団子のような鼻があり、その両サイドには耳と思われる突起物がついている。

その耳のようなものの周囲にだけ、貼り付けられた海苔のような髪があった。


「誰一人? まぬがれることなくって、全員ってこと?」

「そうです」


 何より彼らを特徴付けていたのは、頭頂部から一本だけひょろりと伸びた髪の毛だった。

それは何かを受診するアンテナのように、太く力強くうねりながら、しっかりと存在している。


「じゃあ悠香も、そうなるってこと?」


 その特徴的な頭部を、仮に「波平の頭」と呼ぶとしよう。

その波平の頭をした宇宙人全員が、大きく深くゆっくりとうなずいた。


「どうかこの力で、私たちとあなたたち自身を救ってください。これさえあれば、説明は不要なはずです」


 彼らのうちの一人が、波打つ一本の髪の毛を伸ばす。

触手のようにうねりながら伸びる髪が、私の額から脳内を突き抜けた。

ぬるりとした感触が全身を走る。

吐き気とめまいに襲われたのも、一瞬の出来事だった。


「この宇宙は遠く離れていても、同じ空間で繋がっています。どうかそのことをお忘れなく」


 意識が遠のいた。

ぐらりと体が倒れるような感覚があって、転ぶ寸前で目を開いた。

私は真っ暗ないちご畑で、遠くに光るパトカーの赤色灯を見た。

次の瞬間、私はおばあちゃんの家にいて、知らない女の人に服を脱がされていた。

学校に通い、テストを受け大人になっていた。

知らない男の人と並んで道を歩き、小さな子供と手を繋いでいた。

その光景が、一瞬にして吹き飛んだ。

世界は無数の波平の頭に覆われ、それは無限に空から降り注いだ。

人々はただ立ち尽くし見上げることしか出来ない。

襲われた人々の頭が全て、波平に変化してゆく。


「これが……、未来?」


 宇宙人は私に、未来予知の能力をくれた。

彼らが見せてくれた未来は、『地獄』だ。

波平の頭をした人のようで人ではない人々が、世界を蹂躙していた。

彼らはただ波平となり、波平として過ごしていた。

思考の全てが波平となり、波平しか存在しない世界。

全てが波平であり、波平だけが世界の全てだった。

銀色に光る虹色の波平が、私に覆いかぶさる。


「うわぁぁぁん!」


 私は泣いた。

恐怖に怯え、ただ泣きじゃくることしか出来なかった。

そんな私を真っ暗ないちご畑の真ん中で見つけたのは、懐中電灯を手にしたお巡りさんだった。

事前に見た景色通り、彼らは私をおばあちゃんの家に運び、優しく接して温かい布団に寝かせてくれた。

その後に起こった出来事は、全て私が見た通りに進行した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ