第2話
いちご畑の上空に現れた宇宙船は、私をその中へ吸い込んだ。
虹色に輝く銀色をした船内は寒くもなければ暑すぎもせず、光にあふれているのに決して眩しくはなかった。
彼らは五つの銀色の影のように私の前に現れ、脳内に直接語りかけてきた。
私たちを助けてほしいと。
「助ける? 助けるって?」
「私たちは、あなたたちの未来です。いま行動を起こさなければ、あなたたちもこうなります。全て。誰一人、免れることなく」
その銀色に光る物体は、人のような形をしていた。
頭部だけが四角味を帯びた丸型をしていて、中央にはやや上を向いた団子のような鼻があり、その両サイドには耳と思われる突起物がついている。
その耳のようなものの周囲にだけ、貼り付けられた海苔のような髪があった。
「誰一人? まぬがれることなくって、全員ってこと?」
「そうです」
何より彼らを特徴付けていたのは、頭頂部から一本だけひょろりと伸びた髪の毛だった。
それは何かを受診するアンテナのように、太く力強くうねりながら、しっかりと存在している。
「じゃあ悠香も、そうなるってこと?」
その特徴的な頭部を、仮に「波平の頭」と呼ぶとしよう。
その波平の頭をした宇宙人全員が、大きく深くゆっくりとうなずいた。
「どうかこの力で、私たちとあなたたち自身を救ってください。これさえあれば、説明は不要なはずです」
彼らのうちの一人が、波打つ一本の髪の毛を伸ばす。
触手のようにうねりながら伸びる髪が、私の額から脳内を突き抜けた。
ぬるりとした感触が全身を走る。
吐き気とめまいに襲われたのも、一瞬の出来事だった。
「この宇宙は遠く離れていても、同じ空間で繋がっています。どうかそのことをお忘れなく」
意識が遠のいた。
ぐらりと体が倒れるような感覚があって、転ぶ寸前で目を開いた。
私は真っ暗ないちご畑で、遠くに光るパトカーの赤色灯を見た。
次の瞬間、私はおばあちゃんの家にいて、知らない女の人に服を脱がされていた。
学校に通い、テストを受け大人になっていた。
知らない男の人と並んで道を歩き、小さな子供と手を繋いでいた。
その光景が、一瞬にして吹き飛んだ。
世界は無数の波平の頭に覆われ、それは無限に空から降り注いだ。
人々はただ立ち尽くし見上げることしか出来ない。
襲われた人々の頭が全て、波平に変化してゆく。
「これが……、未来?」
宇宙人は私に、未来予知の能力をくれた。
彼らが見せてくれた未来は、『地獄』だ。
波平の頭をした人のようで人ではない人々が、世界を蹂躙していた。
彼らはただ波平となり、波平として過ごしていた。
思考の全てが波平となり、波平しか存在しない世界。
全てが波平であり、波平だけが世界の全てだった。
銀色に光る虹色の波平が、私に覆いかぶさる。
「うわぁぁぁん!」
私は泣いた。
恐怖に怯え、ただ泣きじゃくることしか出来なかった。
そんな私を真っ暗ないちご畑の真ん中で見つけたのは、懐中電灯を手にしたお巡りさんだった。
事前に見た景色通り、彼らは私をおばあちゃんの家に運び、優しく接して温かい布団に寝かせてくれた。
その後に起こった出来事は、全て私が見た通りに進行した。