第1話
日の暮れた真っ暗ないちご畑を、複数のライトが照らす。
あぜ道の上にパトカーの赤色灯が見えた。
懐中電灯を持ったお巡りさんが私を見つけ、声を上げる。
「いた! 見つかりましたよ! 悠香ちゃん! 18時12分。特異行方不明者、関悠香ちゃん。八歳。届出人の所有するいちご畑にて発見です!」
私はその場ですぐに、お巡りさんによって抱き上げられた。
行方不明となって一週間。
発見された場所は、消息を絶ったのと同じおばあちゃんのいちご畑。
怖くて震えながら真っ暗ないちご畑の真ん中でしゃがみ込んでいた私の顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、連絡を受けたおばあちゃんはすぐに家から飛び出して来た。
「悠香!」
「おばあちゃん!」
抱き合った私たちは、その場でわんわんと声を上げて泣いた。
私は行方不明となった時と同じ服装で、咲き始めたいちごの花を受粉させるための筆とスコップを握り締めたままだった。
「今までどこ行ってたのよ、悠香! 一人で知らない人についていっちゃダメだって、あれほど言ってたでしょ!」
「だって、宇宙人に連れていかれたんだもん。でっかいUFOみたいなのが畑の上に出てきて、それで宇宙人が悠香を吸い込んでそこに連れて行ったの!」
「え?」
待機していた女性警察官と、おばあちゃんが目を合わせる。
その場にいた他の警察官たちも、一瞬動きが止まった。
女性警官が優しく私に視線を合わせ微笑む。
「えっと、悠香ちゃんは今まで、どこに行っていたのかな?」
「宇宙船」
おばあちゃんの腕に抱かれたまま、当時小学校二年生だった私は、自分の経験したことをありのままに答えた。
「宇宙船? それは、どんなところだったのかな?」
「すっごい大きくて広くって、ピカピカに光ってた。大きな機械がいっぱいあって、全部がつるつるの柔らかい銀色で、虹みたいに光ってた」
「……。そ、そっか。そこで、どんな人と会ったか覚えてる?」
「宇宙人。宇宙人が五人くらいいた」
「う~ん。その宇宙人は、なにしてたの?」
「……。悠香に会いに来たって」
「そっか。よく頑張ったね」
女性警官はそう言った後、私の頭を撫でてくれたことを覚えている。
どこも痛いところはなかったし、お腹も減ってない。
宇宙船にいたのは、私にとって数分の出来事だ。
いちご畑の目の前にあったおばあちゃんのうちに戻ると、「お風呂入ろっか」と言って、その女性警官に服を脱がされたことを覚えている。
その時は単純にお風呂に入るんだって、何とも思わなかったけど、きっと身体に怪我や異常がないか確認されたんだと思う。
もちろんその後きちんとした診察を病院で受けた結果でも、身体機能はもちろん脳波にも異常は見られなかった。
「子供の本能的な精神的防衛反応による虚言や妄言の類いでしょう。余り長引くようならまたご相談ください」
診察を受けた先生にそう言われ、私が宇宙人に誘拐されたということは、なかったことにされた。
「頭ごなしに否定してはいけません。だけど、相手にもしすぎないように」
そのアドバイスは両親によって徹底され、私もそれに従った。
なぜならそうする方が『正解』だと思ったから。
その方針は小学校でも徹底された。
先生たちは皆私に優しかった。
「悠香、いってらっしゃい」
「はい。行ってきます」
登校班の集合場所から、列を作って出発する。
誰も私が誘拐されたことに触れることはなかったし、変わらず接してくれた。
月日は流れ、そのことについて周囲はすっかり忘れてしまったのか、陰口を叩かれることもなくなったし、自分から話題に出すこともしない。
だけど、私が宇宙人に誘拐されたのは、事実だ。