表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき4

縁絶

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくななじゅういち。

 



 分厚い雲に覆われた空には、あるはずの月が見当たらない。

 雨の予報が出ていたから、今日の散歩は早々に切り上げる必要がありそうだ。

 とは言え、まだ雨の匂いもしていないし、降るにしても朝方だろうから、そこまで気にしても意味がないだろう。

「……」

 久しぶり、とはいってもせいぜい2,3日ぶりではあるのだけど。

 昨日立て込んでいた仕事がようやく終わり、今日は余裕のある通常どおりの仕事量に戻り、こうして夜を歩いている。

 息を吸えば、心地のいい冷たさの夜風が肺の中を満たしていく。

「……」

 もう5月も半分ほどが過ぎたが、夜は少し冷える。

 昼間はきっと半袖を着ても暑いくらいなのだろう。

 そのあたりの寒暖差を考えると、今年の気候の生活のしづらさと言ったらないだろうな。本格的な夏になってくるとどうなるのやら……。

「……」

 今日は久しぶりに墓場にでも行こうかと思い、足を進めている。

 最後に行ったのはあの春彼岸のあたりだったから、結構人が居たが、今日はそうでもないだろう。賑やかなのは嫌いではないが、静かな方が好ましい。

 あの時に、憑いてきた子供のこともあるし、少し顔を出してみようと言うわけだ。

「……」

 その数日後に見た白百合の花束を抱えた少女のことも気にはなる。

 それ以降見ていないから、何とも言えないが……あれは身内を失くした悲しみというよりは、消えて清々したと言う感じがしたのだ。あの一回だけしか見ていないと言うのもおかしな話だろう。事情があっていけていないのかもしれないし、昼間に言っているのかもしれないが、墓参りって定期的に行くものではないのか?毎日ではないにしても。

「……」

 確かに厄介ごとではありそうだが、気にはかかるのだ。

 人間同士のいざこざに、変なものが噛んでいそうな雰囲気もしたもので。

 それが私に関係ないところで起きているなら別段気にもしないのだけど、一応、生活の圏内なので何かがあっては困る。

 昨日の学生の事もある。ここら辺で厄介ごとが起き始めているような気がしてならない。

 ―まぁ、その花束の少女のことを思い出したのは、昨日のことがあったからだが。

「……」

 関係はないかもしれないが、先月の手紙のこともある。

 花束の少女はその前だが、昨日の学生はさて、どうだろうかという感じだが。

 こちらへの直接的な何かではないあたりが、どうにも信用にならないが……かなり遠回しに見える。大抵同族のやつらは遠回しを嫌うから、違う何かかもしれない。それはそれで面倒なのだけど。

「……」

 私はただ静かに暮らしたいだけなのに、変なことに巻き込むのは勘弁してほしいものだ。

 まぁ、ここに住み着きすぎたのもあるのかもしれないが、そう簡単に引っ越すわけにもいかないのだ。

「……、」

 どうしたものかと頭を抱えそうになりながらも、あれやこれやと考えていると墓場についた。正確にはその入り口だが、案の定というか。

 居て欲しくはなかったが、少し入ったところにできている新しい墓石の前に、少女が立っていた。

「……」

 こちらには気づいていないのか、どこかぼんやりとしている。夢うつつと言ったところか。

 手には変わらず、花束を抱えている。白百合の。

 その唇の端だけが微かに上がっているのを認め、さっさと事を済ますことにする。

「……」

 そんな難しいことでもない。

 が、人助けをしているようで気分が悪い。

 こちらの平穏を保つためにやっているだけだと言い聞かせながら、少女に近づく。

 真横に立ったところで反応があるだろうかと思ったがそんな訳もなく、ただぼうっと立っている。

「……」

 この墓に埋められている者たちが、この少女に何をしたのかは知りたくもないが。

 これ程までに恨まれるとは、いったい何をしたのだろうか。人間とは時に恐ろしいものだ。

 大方、恨みが限界に達して、下手に呪いでも掛けて、その跳ね返りが来ているのだろう。明らかに生気が薄れている。―手紙の主とは関係がなさそうではあるが。一応。

「……、」

 風に揺られて見える首筋を、小さく噛む。

 肌を直接ではなく、そこに見える縁を断ち切るために、嚙み切る。

 あまり美味いものでもない。

「っと、」

 瞬間、ぐらりと、体を揺らした少女を支え、落ちた花束をそのままにしておく。アレは触ると厄介そうだ。

 どこの家の子かは分からないが、病院にでも送っておくか。面倒だが、家も分からない以上ここに置きっぱなしも無理だろう。それ以前に軽く死にかけだからな。

「……あぁ、そうだ」

 少女を抱え直しながら、暗闇に声を投げる。

 そこには、いつから居たのか光る目がふたつ。

「この子を病院に送っていくから、帰りは少し遅くなる」

「……にぃあ」

 返事をするように、小さく鳴いた黒猫は。

 踵を返し、帰路につく。

 本当は、アイツを愛でたいところではあったんだがな……。

 さっさと送って、私もさっさと帰ろう。




「心配性だなぁ、お前は」

「……別にそういうわけではないですが」

「素直じゃないやつめ」

「……」








 お題:噛む・夢・猫

一応、花束の子の話。→ https://ncode.syosetu.com/n8318kg/ 

と、手紙の話。→ https://ncode.syosetu.com/n2772ki/ 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ