表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

王宮

王都の中央、王宮の正門は、朝からすでに厳かな空気に包まれていた。


晴れ渡った空に、白亜の尖塔がまばゆく輝いている。

セリーヌは馬車の窓からそれを見上げて、小さく息を呑んだ。


(まさか、自分が王宮に入る日が来るなんて――)


マルタが付き添ってくれるとはいえ、胸の奥がざわついている。

ドレスの襟元をそっと直しながら、思わず自分の手が汗ばんでいるのに気づいた。


「緊張してます?」

マルタが、馬車の座席で優しく声をかける。


「……してないと言ったら、嘘になるわ」


「ですよね。私もしてます! でも――セリーヌ様、皇子様の好みだったんですねえ。あんな偶然、あるんだなあって……」


「“偶然”ね……」


セリーヌは窓の外を見たまま、ぽつりと呟いた。

運命、だなんて、そんな大げさなことは考えていない。

けれど、あの夜、彼と出会わなければ、この招待状は届かなかった。


そして――この気持ちのざわめきも、知らずに済んだはずだった。


(会って、どうするつもりなの? 彼は……なにがしたいの?)


舞踏会での彼は、どこか人を寄せつけないようでいて、ふとした瞬間には不思議な優しさを見せた。

あれが本心だったのか、それとも……仮面だったのか。


マルタがぽそりと呟いた。


「……でも、婚約者がいる皇子様が、他の女性に個人的に手紙なんて……やっぱり、おかしいですよね」


「――そうね。でも、確かめるしかないわ」


それがどんな結末になろうと。

一度、向き合わなければ、答えは出ない。


門番に招待状を差し出すと、重々しく門が開かれた。


王宮の中へ――

セリーヌの足が、静かにその世界へ踏み入れていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ