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魔女狩り  作者: 影園詩月
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追憶 出会い

 そこはシュレイタル大陸ファルス領の南部、トイフェル大森林の奥深く。

 薄紫の花弁が舞うこの花園で、その少女は一人追憶に浸る。首から下げられた魔石に触れながら。

 あれは、そう、全ての始まり。私達の出会い。




 四四年前になる。あの頃の私はまだ、流浪の物書きだった。

 遥か昔に得た地位も名声も捨て、大陸の各地を巡り歩いては物語を書き綴った。私を突き動かしたのは止めどなく溢れ出る知識欲。魔法も学問も武術もあらゆる知識を得た私が次に興味を持ったのは人の心。

 何年も、何年も、行く先々の町で人々の暮らしを眺め、関わりを持ち、多くの想いを知った。

 旅を始めてから二七六年と四七日が経った日のことだ。

 ケルト領北部の町、レーリエへと続く街道、その道中に彼女は倒れていた。

 栗色の巻き毛、薄紅の瞳。齢十五程の少女。

 ただの平民でないことは一目で分かった。

 全身から立ち昇るのは貴族しか持たぬ筈の魔力。 

 しかし、身に纏う服は見窄らしく手にはあかぎれがあった。とても貴族には見えない。

 加えて、圧倒的な魔力量。常人ではあり得ない程の。

 この少女は魔女だ。それも──大魔女と呼ばれる類の。

 シュレイタル大陸に現存する大魔女は五人。

 銀雪の魔女、烈火の魔女、霊魂の魔女、災雨の魔女、そして──死齎(しさい)の魔女。

 心を持たず、呪いを操り世界に災いを齎す存在。

 魔女は古来より悪魔の使いとされ粛清されてきた。

 この大陸では魔女は見つけ次第殺すことが義務付けられている。

 彼女は本来この場で殺さねばならない。

 だが、私は疑問に思った。魔女は心を持たないと聞く。

 ならば何故この少女の頬には涙の跡があるのだろうか?

 私の胸に魔女に対する興味が湧き上がった。

 この少女が特別なのか、あるいは伝承そのものが間違いなのか。

 知りたいという欲求に駆られた私は横たわる少女を抱えて最寄りの隠れ家に転移した。

 彼女をベッドに横たえると簡単な粥を作った。

 それを少女の口に流し込む。

 次に服を脱がせて濡れタオルで体を拭いた。すると私の目にあるものが飛び込んだ。

 体の至る所にあるアザ、熱湯をかけられたかのような火傷、背中には鞭で打たれた痕があった。乳白色の肌に残された紛れもない虐待の痕跡。

 それらが消えることない傷跡となってこの少女に刻まれていた。

 ──反吐が出る。

 どれ程の悪意が彼女に向けられたのか痛い程理解してしまった。

 人とは決して切り離せぬ醜悪な感情。

 彼女は逃げて来たのだろう。己を苛む悪意から。

 程なくして目覚めた少女は私をひどく恐れた。

「やめて、やめて」と何度も呟き、腰まで伸びた髪を乱して部屋の隅へと逃れる。

 あの傷跡を見ればその反応は納得がいく。むしろ恐れない方がおかしいのだ。

 拒絶する少女にそれでも私は近づいた。そして殴られることを恐れたのか身を縮こまらせた彼女をそっと抱きしめる。

 少女は驚いたように動かなくなった。

 きっと、彼女は知らずに育ったのだ。愛という感情を。

 ならば──

「私が、お前に愛を教えてやろう」

 溢れ落ちた涙は透き通っていて、それがこの少女が悪魔の使いなどではないことを物語っていた。

 

 

 

 

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