サロンにて
「キサラ様、ご存知ありまして?」
「あら、何をですの?」
高位貴族令嬢専用のサロンにて、親友のバレンシア様が問い掛けたので、取り敢えず私は聞き返した。
「巷では悪役令嬢や、高位貴族令嬢に冤罪を突き付け断罪し国外追放する物語が流行っているらしいですわ」
「まぁ?それは由々しき事態ですわね。平民や下位貴族は特に高位貴族と寄り子でない限り面識なんてありませんわ。変な物語で信じ込み、高位貴族に対して無礼な思い込みをしなければ良いのですが……」
バレンシア様の言葉に、私は眉を潜めた。
「鵜呑みにはしないと思いますが……パロマ殿下の側にくっついてる男爵令嬢が変なことを言っていたと、我が傘下の子爵令嬢が言っておりましたの」
「例えばどのような事ですか?」
気になって私はバレンシア様に聞く。
「『私はヒロイン』だとか『何をしても皆私に夢中』とか妄言ばかり言ってたみたいですのよ」
「ふむ、それは『転生者病』か『ヒロイン病』ですわね」
バレンシア様から聞いて私は病を特定した。
転生者病とは、この世界とは違う異世界で死に、此方に転生した者。
大体は真面目に人生を歩むが、たまに勘違いしてチート能力と言われる禁忌魔法に手を出して処刑される者まで居る始末。
ヒロイン病とは、この世界をゲームの世界だと思い込み、好き勝手暴れて国を滅茶苦茶にする令嬢の事。
此方にも、やりすぎて国を乱すと処刑される。
「おかしいわね。早期の内に貴族達は検査を受けるのは義務だし、心理臨床とか受けて病の人が減っている状況だった筈じゃなかったかしら?」
私は疑問に感じた。
「男爵家は金の力で成り上がった貴族ですわ。王都の貴族の常識を知らない可能性が大きいです」
「……何て事?これは早々に調べなくては成りませんわね。時に、ヒロイン病は近付かれた殿方も感染するウイルスですわ」
バレンシア様の更なる報告に、私は頭痛を感じる。
「既にパロマ殿下は、時と場合関係無く男爵令嬢とイチャイチャしていると、他の生徒からも報告が上がっております。幸い、パロマ殿下の側近の方々は男爵令嬢を遠巻きにしか接してない為、ウイルス感染の可能性は低いとの事ですわ」
「……これは想定より不味いですわね。パロマ殿下には気の毒ですが、これ以上の醜聞は我が公爵家もごめん被る状況。早めに国王陛下に進言しないといけないですわね。バレンシア様、私は午後の授業は早退し、公爵家へと帰ります。また詳しく分かり次第報告を御待ちしてますわ」
「承知致しました、お任せ下さい」
私は慌てバレンシア様に頼み、バレンシア様は頷いた。
「ふふ、バレンシア様。その淑女の振る舞い板に付いてきましたわね?」
「御冗談を。そう言われても嬉しくありませんよ」
私が褒めると、バレンシア様は嫌そうな顔をした。
「では、お先に失礼しますわ。ごきげんよう」
「ごきげんよう、キサラ様」
私は足早にサロンを後にした。
「あぁ、愛しのキサラ様。全く愚かな男だな、……パロマ」
バレンシアは小さく呟くと、その姿は一瞬で消えた。