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第四十話 黒き聖女

「色々と……ごめんなさい!リラちゃん!」


 翌日、リラは領地内の教会に来ていた。

 目を閉じると、スーツ姿で平謝りする神の姿が映っている。

 

 昨日は邸宅に帰った後、強制的にベッドに入れられてしまった。

 その後たっぷりと睡眠をとったにも関わらず、過保護に外出を禁止され、昼過ぎにようやく教会まで行く許可が下りたのである。


「ダイヤさまが謝ることでは……それに、その格好は?」


「これは『謝罪会見』よ!私の部下とも言える教皇庁の者達が、あんな狼藉を……。それにすぐに助けてあげられなくて……関係者各位に、謝罪申し上げます」


 神妙な面持ちで神が頭を下げると、どこからかパシャパシャとフラッシュが焚かれ、白い光が瞬く。

 横にいるテディベアのパンジーがぐいぐいと後ろから頭を押し、勢いのまま神の額がゴンッと音を立ててテーブルにぶつかった。

 

 リラはひとまず、その状況をスルーして続ける。


「でもどうして、すぐに出ていらっしゃらなかったのですか……?教皇庁なら、信仰も問題なく集まっていそうですが……」


 おでこをさすりながらこちらに近づいてきた神の顔が、画面いっぱいに広がった。

 

「そこなの!!あの子達、私に対する信仰がぜんっ……ぜん無かったのよ!降りようと思っても降りられなくて、超ヤキモキしちゃったわ!リラちゃんが私の事を想ってくれて、それで神聖力が高まってギリ行けたの」


 愛ね……と、神は照れたように手でハートマークを作る。

 パンジーは足元から「ハートして!」のうちわを取り出し、手に取って振り始めた。


「えっと……とにかく、助けてくださってありがとうございました……!」


 控えめに手でハートを作ると、神とパンジーはズキュン!と胸を押さえて後ろにのけぞった。

 リラは頭上から降ってきた砂糖菓子をワタワタと受け止め、ポシェットから取り出した小瓶に詰める。


「リラちゃん、それは……?」


「もしかしたら『いいね!』をいただけるかなと思って、用意してきました!これを食べると神聖力が高まるので、必要になった時のために『いいね!』貯金です」


「リラちゃん、なかなか……」


「ふふっ、悪役令嬢が板についてきました?」


 得意げに胸を張るリラを見て、神は微笑んでうちわを振る。


「悪役令嬢というより、サフランちゃんに似てきたわね。でも、どんなリラちゃんでも推すわ!!大人になってその美貌を上手く利用し始めたら、国が傾きそうだけど……」


「……?何か仰いました?」


「何でもないわ。それで、本題は……『召喚の儀』のことね」


「はい。サクラさんが召喚されるのを、何とか止めたいと思って……」


 神はうちわを下ろし、弱々しく首を振った。


「……ごめんなさい。これに関しては、ネタバレになるからノーコメントね。肝心な時に役に立たない事ばかりで、申し訳ないけれど……」


「いえ、そうだろうとは思っていました!とにかく、頑張ろうと思いますので……決意表明です」


「ええ、応援してるわ。一人で無茶をしないで、周りの人達に頼りなさい。そこにヒントもあるはずだか……痛い痛い!」


 ネタバレ警察のパンジーがポカポカと叩く腕を、神は両手で掴んで止める。


「忙しくなると思うけど、話したいからまた教会にも遊びに来てちょうだい!私も頑張って『いいね!』するからね!」


 プツンと音を立てて、神の映像は途切れた。

 

 神と話して、また少し緊張がほぐれた気がする。リラは微笑んで頭を下げ、教会を後にした。


 ・・・・・


「……お祈りは、終わりましたか」


 教会を出ると、ドアの脇には護衛でついてきたユーリが立っていた。相変わらず無表情で、何を考えているかわからない。


「はい、お待たせしてごめんなさい」


「それが仕事ですから……。お話し声が聞こえてきましたが、中に誰か?」


「あっ……ひとりごとです、ひとりごと!」


 頭の中で会話をしていたつもりだったが、声に出ていたらしい。手をブンブンと振って焦るリラを、ユーリは無言で見つめている。


「あ!お待たせしてしまいましたし、これをどうぞ」


 リラはポシェットをゴソゴソと漁ってから、握った拳を差し出した。


「これは……?」


「アメジスト領特産の、ルビベリーで出来た飴です!甘いものを食べたら、疲れが和らぎますよ」


「……護衛の私に、そんなに気を遣わないでください」


「そんな!アメジスト領に来た以上、護衛も家族ですからね!疲れたら甘い物を食べて、一休みするべきです」


 リラはキャンディ型の包み紙をピリリと引っ張り、出てきた飴をユーリの口に入れ込む。


「ふふん、夕食の時にルビベリーを美味しそうに食べているのを見ましたから!嫌いとは言わせません」


 ユーリの口に甘酸っぱい香りと甘みが一瞬で広がり、思わず頬が緩んでしまう。それを見て、リラが心底嬉しそうに笑って手を握った。


「ほら!ユーリさんは普段無表情ですが、ルビベリーを食べた時だけ、ちょっと口角が上がるんです!ベリー系がお好きなんですか?それなら、パールベリーやラピスベリーなども……」


「あの、ベリー系が好きなのはそうですが……何故、手を?」


 リラは一瞬固まった後、パッと手を離した。顔を赤くして、じわじわと後退り続けている。


「あの、護衛だと仰ったので、手を繋ぐものだと……。お父さまが護衛の時は、そうなさるので……」


「お望みならば、繋いでも問題ありませんが」


「い、いえ!大丈夫です!」


 そう言うと、リラは足早にどこかへ歩き出した。邸宅とは反対方向である。


「ライラック様、どちらへ?」


「リラと呼んでくださいな。今日はこの後、王城の図書館へ……」


 言い終わる前に、ガシリと腕を掴まれた。


「リラ様。サフラン様より、今日は邸宅の半径1キロ以上先へは出てはいけないと、お達しを受けています」


「ええ!?でも、一刻も早く調べ物をしなければ……」


「昨日は、魔力も神聖力も使い果たしたと聞きました。今日は家に戻って休んでください」


「うっ、あの……もう一つ、ルビベリー飴を差し上げますから……」


 首を振ったユーリは、リラの身体をヒョイと持ち上げた。またしてもお姫様抱っこの形である。


「ええ!?大丈夫です、歩けますって!二日連続でお姫様抱っこなんて……そんなことありますか!?」


「マシュー様より、聞き分けない時にはこうして運ぶようにご指示を受けました。この体勢がお嫌でしたら、脇に抱えるか肩車でも良いですが……」


 想像した結果これが一番マシだと判断したリラは、大人しく体を丸めて運ばれたのであった。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「そもそも『黒き聖女』って何なのですか?聖女はお姉さまなのに……」


 礼拝服を着たテディが、ふくれっ面でそう尋ねる。


 王の呼び出しから三日後、ようやくお許しが出たリラとテディは、王城の図書館を訪れていた。「黒き聖女」に関する記述を探すためである。


「『黒き聖女』はね……異世界から召喚された、魔力がとんでもなく強い女の人のことなんだ。その力を表すように、髪が真っ黒なんだよ」


 分厚い本を捲りながら、ノアが答える。二人が王城に来たことを人伝に聞き、稽古を切り上げて手伝いに来たのだった。

 

 リラは騎士団の服を着たノアの姿に一瞬ドキリとしかけ、そんな場合ではないと首を振る。


「『聖女』というからには、目も金色みたいだな。ほら、ここに書いてある。魔力も神聖力も強いなんて……」


 たまたま居合わせ、調べ物の手伝いを申し出てくれたセレナが呟く。大臣である父親の仕事を学ぶため、自主的に図書館で勉強していたそうだ。


「リラも、魔力と神聖力どっちも高いけどね。でもそれは稀なケースで……この世界でたまに生まれる、金の目の女の子は『白き聖女』って言われるよ。神聖力の適性が高いから、大体髪色も白に近いしね」


「じゃあ、お姉さまは『白き聖女』で、これから召喚される予定の人が『黒き聖女』ってことですね?」


「そういうこと」


「そんなの……お姉さまの方が聖女にふさわしいに決まってます!だって、こんなに聖女なんですから!」


「しー!声が大きいですよ、テディ!それに、別に対決するわけじゃないんですから……」


 リラが口に指を当てると、テディはむくれて黙り込む。ぽんぽんと頭を撫でると、黙って本を捲り始めた。


「歴代の、黒き聖女に関する記述の所を探せばいいんだよな?」


「そうです!ありがとうございます、セレナ!……やはりどれも、魔獣の発生に伴って召喚を行い、その後聖女の力によって討伐されていると……」


 リラは羽ペンを使い、ノートに事象を書き留める。

 

 ある程度溜まった所で、ノアがふうとため息をついた。


「うーん、どれもそんな感じだね。色んな危機が起こっているけれど、最終的に聖女の力によって平和が訪れてる。大体、聖女召喚の後に災いが起こるなんて、どうやって証明したら……」


「……あ!待ってください、もしかして……逆なんじゃないですか?」


 ノートを顔に近づけ、リラが叫んだ。

 

いつも応援ありがとうございます。

感想などいただけますと、とってもモチベーションが上がりますので……気が向きましたら、反応いただけますと嬉しいです……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 地位の高い教会関係者が揃いも揃って神聖力が低いとなると、地位が高いほど神聖力で解決できることが減っていくのかもしれませんね。
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