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父のいない僕にとって父のような存在

「舞斗!」


 僕が上を向くと、汗水垂らした後藤記者の姿があった。


「舞斗…大丈夫か?」


彼は、ハンカチで汗を拭きながら、僕の表情を伺っていた。


「母のことですか?」


彼は、首を縦に振った。僕たちにしばらくの沈黙の時間が流れた。


「…」


「…」


彼は、意を決して口を開いた。


「…実はオリンピックの後、舞斗のお母さんについて調べてたんだ。お母さんの居場所を突き止めたら舞斗に教えてあげようと思って。なのにこんな形になってしまってすまなかった。」


彼は、僕に対して頭を下げた。


「いやいや、後藤さんのせいじゃないじゃないですか!」


「だが俺たちが調べていたことが漏れてしまったのかもしれない…本当にすまない…」


彼は、何度も何度も謝罪した。


「後藤さん!謝らないでください…僕のためにこんなことまでしてくれてたなんて知りませんでした。その気持ちだけで僕は、嬉しいです」


「舞斗…」


申し訳なさそうな彼を見た僕は、場を和ませようと昔の話題を振ることにした。


「世界ジュニアの後、僕が表彰式すっぽかしたの覚えてます?」


「ああ。トイレで泣いてた時だろ?」


「はい。優勝者がいない表彰式なんて今考えたら恐ろしいですよね。しかも後から連れ出された僕は、優勝したのにすべてのジャンプを失敗した人のように暗い表情で周りの人を困らせていましたよね。」


「そうだったな。もう10年も経つのか。」


「でもあの時も後藤さんは、トイレで僕の話を聞いてくれましたよね。絶対に記事にしたら特ダネになるような話だったのに10年間黙ってくれていた。」


「当然だろ。俺は、舞斗が試合で勝った時に見せる笑顔が一番好きなんだ。だから舞斗には、幸せに生きてほしんだ。」


そう言って彼は、僕に笑顔を向けてくれた。


父のいない僕にとって父親のような存在だ。


そして息子のようにいつも可愛がってくれた。


「今度試合のある会場の近くにお母さんは、暮らしているそうだ。会いたいと思ったらいつでも言ってくれ。場所を教えるからな。」


「ありがとうございます。」


父のような後藤さんに背中を押され、僕は、前に進もうとしていた。

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