東京
東京タワー、スカイツリーが聳え立つ東京。
多くの人々が行き交うスクランブル交差点。
スクリーンには速報ニュースが流れている。
「速報ニュースです。佐藤舞斗選手の母親がアメリカのがん治療の名医として知られるマイケル氏と再婚し、現在アメリカで暮らしていることが分かりました。」
通勤帰りのサラリーマンやOL、買い物帰りの主婦、部活帰りの学生たちも画面に釘付けになっている。
練習帰りの青木もその場にいた。
「え?これって…」
青木は、その画面を見てすぐに向かった。
彼の元に。
「舞斗!舞斗!この記事見たか?」
青木は、途中で買ってきた週刊誌を彼に渡した。
「なんだよ。そんなに慌てて。」
【佐藤選手の母親はアメリカで暮らしていた…関係者が明かしたアメリカでのセレブ生活とは。】
週刊誌を持っている手が震え、彼の顔色が悪くなっていくことが分かった。
「お母さん、アメリカに移住してたんだな。会いに行くよな?」
彼は、記事を見つめながら黙っている。
「舞斗?どうしたんだよ!お母さんは、生きてたんだよ。会いに行けるんだよ。」
僕は、彼の両肩に手を置きながら、必死に訴えかけた。
「ああ。いっそ亡くなっていた方がよかったかもしらない。」
「何言ってんだよ。お前ずっとお母さんのこと探してただろ?」
僕は、彼の顔を覗き込み、再び訴えかけた。
「お母さんを探しながらもどこかでもしかしたらお母さんは、もうこの世にはいないのかもしれないと思っていた。いや、そう思いたかったんだ。そう思う方が楽だから。もし生きていたら会いにくるに違いない。だから死んだんだって思いたかったんだよ。」
ふと彼の顔を見ると、彼の目には、涙が溢れていた。
僕は、彼の涙をはじめてみた。
僕の中で彼は、僕よりも強い人だった。
もちろん競技者としてもそうだし、プライベートにおいての精神面に関してもそうだ。
彼は、いつでも強い。
揺るぎない強さがある人間だ。
そんな彼の弱気な部分を目にした青木は、返す言葉が見つからなかった。
「でも母さんは生きてた。なのに会いに来なかった。挙げ句の果てにアメリカで結婚もして僕と暮らしていた頃とは全く異なるセレブ生活を送っている。母さんは、僕のことなんて微塵も考えていなかったんだ。もういいよ。」
彼は、僕が渡したシワシワの週刊誌を床に投げつけた。
「僕練習に戻るよ。」
「舞斗…」
彼は、練習に戻っていった。
彼の視線と表情は、上を向くことはなかった。




