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赤と死神の黒。  作者: 三月
堕ちた死神
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9・あまりにも痛々しい。

 中央公園とはいっても、その公園の名前が中央公園という訳ではない。


 実際には住宅街の空き地が公園になっただけなのだが、その周辺にある住宅街周りにも複数の小さな公園が3つほどある。


 4つの公園の一番真ん中にある一番大きな公園の事を、ここら辺に住んでいる人は中央公園と呼んでいるそうだ。


 ちなみにこの情報はワイトから聞いた。今更になってしまうが、僕とワイト以外にも死神はたくさんいるらしい。


 なんでも、その死神がどこの町に在籍するかということを決める死神の組織があるそうだ。


 基本的にはその組織の人たちも普段は死神としての仕事をしているそうだが、寿命が来る前の人間を殺したり、死神を殺すなどといった危険な死神を取り締まる活動もしている。


 つまりこの間僕は取り締まられる一歩手前の状態だった訳だ。


「へえー、死神にも警察官みたいな人達がいるんですね」


 そんな僕の話を感心して聞いてくれている少女。名前はあかねさんという。


 あの病院で出会ってから2週間、毎朝6時に誰もいないこの中央公園に集まって雑談するのが僕の日課になっていた。


 この2週間、彼女にはいろんな話を聞いてもらった。時には僕の悩み事まで聞いてもらっていて、正直かなり助かっている。


 ちなみにワイトには朝の散歩とか言って誤魔化している。ばれたら冷やかされるから。


「うん、でも僕ワイト以外の死神とはあったことないけど」


「へー、ワイトさんにも会ってみたいなぁ」


 だめだ、見た目の良いワイトがそばにいると僕がかすむ・・・


「え、まあ・・・いつか会えるかもね・・・」


 そんな会話をしていると、既に時刻は7時を過ぎしまい、朝のこの幸せなひと時も終わってしまう。


「それじゃ、そろそろ行くね」


 彼女は制服のスカートについた汚れを払い、ゆっくりと椅子から立ち上がろうとした時だった。


 何かが近づいてくる気配を感じた僕は、背中から巨大な黒い腕をはやしてあかねと僕を包み込み、彼女の前に仁王立ちする。


 この能力も、死神は誰しもが持っているものだそうだ。一人一人能力の形は違うらしい。


 この2週間で僕はこの能力を徐々に制御できるようになっていった。今では自由自在に操作できるし、僕が気付かない死角からの攻撃もオートで防いでくれる。


 つまり、当たりの能力という奴だ。


 しかし、それは僕の能力である黒い腕をたやすく切り落とすと、ガードするために構えていた鎌を器用にすり抜け、僕の腹を貫いた。


「えっ」


 腹からは黒い血がぽたぽたとたれ落ち、すぐに自分は何かに貫かれたのだと悟った。


 僕の腹に刺さっていたのは、死神の鎌だった。


「ぐあっっっ!!!」


 燃えるような痛みが腹周辺を襲う。能力が発言してからはあまり怪我をしていなかったため、痛みには耐性がない。


 いや、痛みの耐性なんて永遠につかないと思うが。


「クロ・・・君?」


「だ・・・大丈夫・・・鎌を抜いて、落ちた自分の血に触れればすぐ直るから」


 僕は無理やり笑顔を作って安心させようとする。


「・・・それよりも、逃げるんだ・・・」


「でも、クロ君が・・・」


 僕は彼女と、そして自分に言い聞かせる。


「大丈夫・・・僕は、大丈夫!」


「分かった」


 あかねさんはそう言って公園から逃げていった。


「はぁー、逃げちまったかぁ......まぁ、また今度で良いか」


 そうつぶやく声が聞こえる同時に、僕は情けないうめき声を出しながら腹に刺さった鎌を抜いていると、声の方へ鎌が吸い寄せられる。


 鎌の向かった先にいる死神は、あかねさんではなく、僕の方をすごい形相で睨みつけていた。


 僕はその死神を見てぎょっとした。


 翼の色が白く、変な文字が書かれた仮面をかぶっている。これだけでもほかの死神と違うのだが、それよりも、体中傷だらけなのだ。


 右片方の翼はもげ、左腕も欠損している。


 その姿はあまりにも痛々しい。


「・・・どういうことだよ!彼女はまだ寿命じゃないじゃないか!」


 今すぐにでも逃げ出したい。怖い。


 そんな感情よりも、彼女に対して攻撃してきたことによる憤りが僕の中で勝っていた事に正直自分でも内心驚きつつ、だが僕が虚勢を張っているのも確かだ。


 彼は僕の問いかけを聞いてめんどくさそうにため息をついて答えた。


「はー、何も分かってねえくせにいちいちしゃしゃり出てくんなよヘタレが」


「・・・何の話だよ、分かるってなんだよ!」


「・・・・・・くっきゃっははははははははははははは!!」


 彼は急に笑い出した。狂ったように、そして僕を馬鹿にしたようにこっちを指さして笑い狂っている。


 僕は恐怖した。


 彼がなぜ笑ったのか。なぜこんな風貌をしているのか。なぜあかねさんを襲ってきたのか。理解できないものには、より一層怖くなる。


「・・・何が・・・おかしいんだ!」


 情けない声だったが、僕の中では全力で虚勢を張った。


 僕の声を聴いた瞬間、彼の笑いは突然ピタッと止まった。


「死んだほうが良い」


 そう呟いた瞬間、ガキーンという金属音が周りに鳴り響いた。


 飛んでくる鎌を、ワイトが駆けつけて自分の鎌で弾き飛ばしていた。


「大丈夫か!クロ!!」


「ワイト!何でここに!」


「いや・・・あの、盗み見してたっていうか・・・」


「え・・・」


 いや、その事については後にしよう。


「なんだ、ワイトか」


「どういうつもりだ・・・シロ」


 僕の前でたくましく仁王立ちしているワイトは、目の前にいる異様な死神の事を知っているようだった。

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