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赤と死神の黒。  作者: 三月
死神のクロ
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7・ありがとうねぇ。

(俺の人生は、いたって普通だった。


 物心ついた当たりで戦争が終わったので、戦争に関しての記憶はあまり覚えていない。


 うちの家族は貧しかった。


 俺の7人兄弟の4番目。家族みんなで昼間は畑を耕し、夜は少ない米をみんなで少しずつ分け合う生活をしていた。


 7人兄弟といったが、実は他にも兄弟がいる。俺は会ったことがないが、長男は昔徴兵されたっきり帰ってこなかったそうだ。


 そして、俺の初めてできた妹は、病に侵され、みるみるやせ細って死んでいった。


 短い間だったが、一緒に過ごした日々を思い出すと、悔しくて、悲しくて、無力感と寂しさで胸が張り裂けそうだった。


 他にも助からなかった友人や知り合いがたくさんいた。


 様々なことはありつつも、貧しい家庭で幸せな日々を送っていた。


 俺が16歳の時だ。テレビの向こうには私が今まで見てきたものとは別次元の景色が広がっていた。


 どこまでも高くそびえたつビルが並び立ち、キラキラした街並みの中を様々な色の車が走っていて、まさに活気にあふれた夢のような世界だった。


 3男である俺は家を告げないため、その街で働くことを決めた。


 しかし、その街は俺が思い描いていたような所ではなかった。


 当たり前だった。短期間でこれほどの建造物を立て続けているのだ。労働者の待遇は正直厳しい。


 いやな上司に毎日怒鳴られ、終わりのない肉体労働でヘトヘトながらも、朝から夜遅くまで必死になって働いた。


 少ない給料を少しづつ貯金しながら、いつか必ず車を買って彼女とデートをするんだ!


 なんてことを夢見てたんだっけなぁ。


 その夢は叶った。


 20代後半後頃にとある会社に就職して落ち着いていた俺は、その会社で年の近い女性と恋に落ちた。


 俺はこの人と一生添い遂げることを胸に誓い、そして結婚した。


 30代前半。子供を授かった。愛する人との子。ありきたりかもしれないが、俺はこの子の為なら何でもできると、本気で思った。

 

 まだ赤ちゃんだったのに休みの日に妻と娘を連れてって一緒にパンダを見に行ったこともあったな。


 娘が成長していく姿を見て、嬉しいような。

 ちょっぴり寂しいような。


 だが、反抗期の娘から、お父さん臭いからそばに来ないでと言われたときは三日ほど寝込みたい気分になった。


 そんなおてんばだった娘も、あっという間に立派な大人になって俺のもとから離れていった。


 妻と一緒に花嫁姿の娘を見ながら、今までの娘との思い出を語っているうちに俺は泣いてしまっていた。


 やっぱり、もう俺たちと一緒じゃないと思うと寂しかった。


 どうか、ずっとこのまま小さくて可愛らしい娘のままでいてほしい。そんな気持ちが湧き上がる。


 だが、娘が立派に成長してくれて、こんなに綺麗になってくれた喜びに比べれば、この感情は小さなものだ。


 きっと、これまで娘が成長するたびに感じていた寂しさは、今日この日にめいっぱい喜ぶために、少しづつ時間をかけて準備していたのだろう。


 私は、溢れる涙をハンカチで吹き、娘にハグをして言った。


「今まで、俺たちと一緒にいてくれてありがとう……俺の娘として生まれて来てくれて、ありがとう」


「私も、私がパパでよかった……パパ、ママ、今までありがとう…‥いつまでも大好き!」


 嬉しさと感動で胸がいっぱいになって、心臓が動きすぎたせいで寿命が縮んだかと思った。


 その後、しばらくして孫が生まれた。これがまた可愛い。

 娘の子だ、可愛くないわけがない。ベタだが、それでも目に入れても痛くないと本気で思った。


 娘と違って内気な性格だが、時々娘と一緒に家に遊びに来てくれる時は、どんなに落ち込んでいた時でも、それを一瞬で覆してしまうほどに嬉しかった。


 俺が妻と喧嘩をしていても、あっという間に仲直りをして、家が笑顔であふれるレベルだ。


 妻と二人で娘を愛でて、二人で頑張って来てよかったね……何で言い合った。そしてまた、孫を二人でめでた。


 そんな妻が、4年前に旅立った。


 棺の中で穏やかに眠る妻の顔を見てもなお、いなくなったことが信じられない。


 だが、悲しみよりも、今まで一緒に過ごしてきた感謝が沸き上がってきた。


 俺は涙を流しながら、棺の中で眠る彼女に礼を言った。


 今まで、俺と一緒にいてくれて、本当に、


 ありがとうと・・・


 あの時の俺は、一体どんな顔で泣いていたんだろう)


 あかね祖父は、涙を必死にこらえて笑顔を作るあかね母の顔を見て思う。


(ああ、こんな顔をしていたのか。


 そんなにも俺を思っていてくれたのか)


「あ・・・りが・・・と・・・う・・ね」


 走馬灯はそこで終わった。僕はおじいさんの体から鎌をゆっくりと引き抜いた。


 何故だろう。涙が止まらなかった。この、心の底から暖かくなるような優しい感情。


 これは、なんという感情なのだろうか。


 おじいさんから生まれた未練は、人間サイズだった。


 「あ・・・が・・・ね・・・」


 しかし、甲高い声でそう呟くと、以前の未練とは比べ物にならない程のスピードで僕は間合いを詰められた。


 僕はそのまま何度も何度も殴られた。 


 黒い血を吐血し、あばらは砕け、内臓がつぶれる。


 首を絞められ、呼吸ができなくなる。


 意識が遠のく中、僕は自分の中に湧き上がるどす黒い何かが沸き上がってくるのを感じた。


 その感情を・・・、優しい感情を・・・


 僕は欲しい!!


「僕にもよこせーーーーーーーー!!!!」


 その瞬間、僕の背中から真っ黒で、巨大な腕が僕の背中を突き破って生えてきた。


 その腕は、僕の意志とは関係なく、首を絞め続ける未練の腕を殴り落として切断した。

 

 未練は腕が取れた衝撃であああああああrrrrっと叫び、取り乱している。

 

 そのすきに僕は背中から生えた腕でもう片方の未練の腕を引きちぎり、無防備になった未練の胸に鎌を突き刺した。


「・・・あ・・・が・・・ね・・・」


 胸を突き刺された未練は、苦しそうに家族写真の置いてある棚に手を伸ばしながら形状崩壊し、液体となって消えていった。


 流れてきた液体が僕の足元から収され、ボロボロだった僕の体も元に戻って行く。


 しかし、僕の心は元には戻らなかった。


 老人の走馬灯から、孫が今病院に向かっているということを知った。僕がもう少し待っていれば、最後の別れの言葉を言えたはずなのに・・・。


 だが、僕が今声を出して泣いている理由は、罪悪感によるものではなく。後悔だった。おじいさんを殺したことに対しては、自分で選んだこと。


後悔はないはずなのに。


何故か、悔しくて、悔しくて、僕は病院の一室でずっと泣き続けていた。


 それから1、2時間くらいたったころ。おじいさんの遺体はすでに霊安室運ばれていった。


 僕の涙もとっくに枯れて、病院の窓の外からぼーっと外の夜景を眺めていた時。


 ガラガラっと勢いよく扉を開けて、一人の女子高生が入ってきた。音にびくっとした僕は、そっちの方に目線移すと、その女子高生は僕の方を凝視して呟いた。


「……死……神?」


これが、僕と彼女の出会いだった。



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