とりあえずコラムを書こう
「コラムですか?」
「ええ、公開日記と言い換えても良いかもしれません。
まずは文字に起こす訓練から始めましょう」
ひょんな事から、小説家になると言う彼女の夢を手伝うことになった私から、まずはコラムの配信を提案しました。
書くと言う作業は、慣れていなければなかなか難しい、聞けば読書家である彩さんでも、読むと書くのでは全くの別物でしょう。内容は何でもいい、なるべく毎日、なるべく同じ字数書き続けることが重要だと考えます。
「てっきりプロットの書き方とか、書く上でのテクニックとか、きいろ様に講習して頂けるのかと思いました」
「読み専の私にテクニックがあるとでも?」
あからさまにがっかりされましたが、期待されても書いたことがない私ができるのは荒さがしぐらいで、プロットなんて何それ美味しいの?レベルです。とんと存じ上げません。
とりあえず、宿題としてタイトルを考えて来てもらいました。読み手だからこそ、タイトルの大事さは分かります。特に『小説になろう』内では、あらすじはなかなか読んでもらえず、それならばとあらすじのような長文のタイトルになりがちです。流行りには乗っかるほうが良いでしょう。
多少長くても良いから、彩さんの魅力を凝縮したタイトルを考えてと伝えました。目的からすれば正直読まれる読まれないは二の次ですが、モチベーションを保つにも、読まれるにこしたことはありませんから。
次の日の夜、彩さんから仮タイトルが送られてきました。
『忘れたくないものリスト』
語呂の悪さ、歯切れの悪さが、かえって常識に捉われない彩さんぽいですね。備忘録とせず等身大の言葉にしたことも、若さを売りにするなら良いでしょう。しかしながら、彩さんの魅力を伝えるには不十分です。
思わず開いてしまうような、応援したくなるような、そんな一文を追記したいところです。
「彩さんの一番の魅力は何ですか?ご自分で理解してますか?」
「わ、私の魅力ですか?!
なんだろう。笑顔が素敵とか、人を元気にする存在でありたいと思ってます!」
「そう、女子高生であることですね」
「そこですか。私の魅力、それですか。
なんだか今、すごく悲しい気持ちになりました。心折れそうです」
何か傷ついているようですが、ほっておきましょう。茨の道は、始まったばかりなのですから。
『JKあやの忘れたくないものリスト』
うん、完璧。これで行きましょう。彩さんは明らかに嫌そうですが。
「うわ、どうでしょう。私としては、もう少し知性と言うか、品と言うか、保ちつつのタイトルでいきたいのですが」
「釣りたいのは、女子高生好きの中年ですので、これでいいんですよ」
「きいろ様はせっかく読んでくださる読者様をなんだと思ってますか?」
「ちゃんと読んでくださる読者様を呼び込むための策ですよ。
悪目立ちだろうが、まずはポイントを稼がないと。
タイトルが気に入らないなら、後で好きに変えたらいいんです。
善意のポイントも、下心のポイントも、全部集めていきましょう」
いや、そう言った意味では、これでもまだアピール不足ですね。火にいる夏の虫を呼び込むために、もっと煽って見ましょうか。
『美少女あやの忘れたくないものリスト』
『美少女女子高生あやの忘れたくないものリスト』
『美少女あやの、女子校生活忘れたくないものリスト』
特に3つ目おすすめです。
「『JKあやの忘れたくないものリスト』にしましょう!
私、これ、すごく気に入りました!!」
今思えば地味に思うのですが。まあ、彩さんがそう言うなら、若干アピール不足ですが仕方ないですね。
美少女なんて言ったもん勝ちなんだから、遠慮しなくていいのに。活字で容姿端麗になるのは本当に簡単です。『美』つけるだけでいいんですから。
「でも、毎日書くなんて、私にできるでしょうか。
日々繰り返しの高校生活では、ネタがなくなりそうです」
「それを想像で補って、なんとかするのが作家と言うものでしょう?
記憶だけで作品作ってたら、冷蔵庫の余り物で作ったチャーハンみたいな作品しか、みんな描けなくなります。
記憶の冷蔵庫は空っぽでも、そこにキャビアやロブスターが詰まってると想像してレシピを書いてください」
「なるほど、本当かどうかは二の次な訳ですね。
でもね、きいろ様。
実は私、学校休みがちでして」
「またサボり?」
「さぼりじゃないですよ!あの日は特別です。
その、定期的に検査入院や通院がありまして」
「持病ですか?」
「生まれつきです。担当医が子供の頃から同じなので、この歳でも小児科に居座り続けることになり、病院では『小児科のボス』と呼ばれてます」
それを書いたらいいじゃないかと伝えましたが、どうも病気とかナイーブな話は、さらけ出したくないそうです。
不幸な話はウケがいいのに残念です。
「彩さん……。
『病弱美乙女あやの、忘れたくないものリスト』なんてどうです?」
おっと、今日は彩さんから、電話を切られてしまいました。怒らせたでしょうか?それともこの前の仕返し?
まあ、こちらからかけ直すことはしませんけど。怒って音信不通になるなら、それはそれでご縁が無かったと言うことで。
翌朝、『JKあやの忘れたくないものリスト』が投稿されました。映えある第一話は、女子校で今流行りの遊びについてでした。
フルーツバスケット、本当に流行ってたんですね。