電話しようよ!
ユーザー登録をされている方ならお分かりでしょうが、『小説家になろう』のメッセージ機能には、当然ながら既読通知などありません。
しかしながら、彼女(あるは彼)ときましたら、第六感の賜物でしょうか、こちらがメッセージの確認すらせず放置している可能性は一切考えずに、私の既読無視をしつこく責めたてます。
メッセージ2
「あのー、無視しないで下さい!怖くないですよー」
メッセージ3
「怖がらせましたよね?大丈夫、怖くないです。
阿部彩乃と申します。
都内に住む高校2年生です。
ピッチピチのJKですよ!」
怪しさマックスです。
ピチピチって、お前オッサンだろとツッコミたくなります。
聞いてもいないのに名乗ってるし、イニシャルAAですか、めでたいですね。そっとブロックしておく事にしました。
メッセージ4
「ブロックしないで下さい!!
ピッチピチは怪しまれるかと思ったけど、最近友達同士の中で流行ってまして」
なんでブロックしようとしたのバレたのでしょう。なんでピチピチをおっさんと疑ったことがバレたのでしょう。こちらが既読と疑わないところとか、妙に感のいい子です。はたまた、感のいいおっさんでしょうか。
暇してるのもありますが、悔しいけど、少し楽しんでます。
メッセージ5
「そうだ!じゃあ、怖くない証拠として、なんでも一つ質問に答えます。なんでもですよ?ドーンと訊いてください。ドーンとです!」
効果音がやかましい子です。証明とは、自分が無害なJKだと言う証明でしょうか。質問に答える事で証明すると言ったって、一体どうしろと。
しかもかなめの質問はこちら任せとは。或いは、返信させるのが一番の目的なのかもしれませんね。そうは言っても、なかなか面白い。癪ですが、あえて乗せられてみますか。
『Q:学校で流行っている遊びは?』
メッセージ6
「A:フルーツバスケット!」
『寝ろ、おっさん』
メッセージ7
「ほんとですって!!正確にはちょっとアレンジして、『メガネの人』とか『くるぶし靴下』とかでグループ作ってます。
後はミッション系の学校なのですが、ミサのときに、どれだけソプラノできるかチャレンジが流行りです。やり過ぎると怒られますので、そのスリルを味わってます」
うーん、高校生がフルーツバスケットするものでしょうか。回答が狙い過ぎて、逆に本当に思えてきました。
ミッション系なら、恐らく女子校でしょか。なら、あえてガキっぽい遊びを流行らすのも、あり得るといえばあり得る?そこまで計算しての珍回答?もしくは本当?
考えれば考えるほど、分からなくなりました。何より困ったのが、こいつ面白いなと興味を持ち始めた私の心境の変化でしょうか。好奇心は、身を滅ぼします。
確か、固定電話の番号でも、LINEって登録できましたよね。億劫でまだ捨ててない、バッテリーがダメになってお役ごめんとなった、前のスマホが押し入れにしまってある筈です。
こちらの番号は伝えず、面倒になればアカウントごと消してしまいましょう。
『LINEのアカウント教えて』
メッセージ8
「本当に!嬉しいです!!番号は……」
本当に躊躇いなく教えてくれますね。もし本当にお若いのなら、老婆心ながら、その警戒心の無さが心配になります。JKからみたら、アラサーなんてババアなんだろうなぁ。
登録すると、イニシャルAAが現れました。本当に本名のようです。『初めまして』と、無難な文字を送ります。
わー、音声通話かかってきました。
見ず知らず人から、LINEに誘われて、通話までしようとしてる、私も十分に軽率ですね。
もう若くないのに、この危機感のなさ。今まで何を刻んできたのでしょうか。自責の念にかられます。しかしながら、毒を食らわば皿までと申します。モウドウニデモナーレと頭の中では魔法のタクトを振り回し、現実では通話ボタンにタッチします。
「赤城さんですね!初めまして!!」
『うわ、まさかの本当にソプラノ、てっきりテノールかバスかと』
「まあ、素敵なアルト。大人の魅力ですね!」
第一印象の彼女は、強引、能天気、だけど音楽の知識はそこそこ、でした。