JKになろうよ!
作品名「お母さん、今日は学校をサボります」
投稿者:aya
ごめんなさい、お母さん。
今日は学校をサボります。
本当は調子が悪い訳じゃなく、少し周りに甘えてしまいました。
午後からでも登校しようと思ったのだけど、空があんまりにも澄み切った青色なものだから、このまま一人散歩していたくなりました。
苦手な数学も、素敵な友達も、今日だけは一人で、全て忘れたい気分なのです。
〜中略〜
私の人生、あと何年でしょうか。
産んでくれたお母さんには、感謝しかありません。
いつも迷惑ばかり掛けて申し訳なく思います。お母さんの夢、たくさん潰しちゃったね。
後ろ向きにならず、やさぐれず、背筋伸ばして、立派に生きていきますから、もう少しだけわがままな娘に期待して、側に置いてください。
大好きなお母さんの娘より。
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賛否は別れるでしょうが、私はこれを純文学と捉えます。
純文学とは、事象よりも心に重きを置いた作品のこと、だとするなら、これほど赤裸々に若い少女の心を描いた作品は、そうはないでしょう。
まず、前半学校をサボるとアンモラルな発言をしておきながら、全くもって悪びれていない。
それどころか、後半はそんな自分に「期待して」と胸を張る。その如何ともし難い無神経さは、もはや賞賛に値するでしょう。
さらに学校に行けない理由は、空が青いから。頭お花畑でしょうか。世界の中心は私だとか思ってそうです。
なんとも素敵な娘さんではないですか。強烈なる自己陶酔、まさに芸術ですね。
かの太宰治の名作品『桜桃』の一節となりますが、作家を生業とするダメ男(まんま太宰本人なのが面白いです)が、羽振りのいい愛人と当時は珍しい桜桃を摘みながら、甲斐性なしゆえに贅沢一つさせてやれず、桜桃などと言ったハイカラなもの、見たことすらもないであろう我が子を思い、心を痛めるシーンがございます。
冷静に見れば、家に帰れよクズ男と呆れる場面ですが、それを矛盾なく、センチメンタルな共感すら感じる程に、文学へと昇華させる。傲慢なる美醜こそが太宰の魅力であり、至らないまでも、独善的なダメ具合が、彼女の作品にも通づるものを感じました。
だからこそ、彼女にはありったけの皮肉を込めて、惜しみない賞賛を送ることにいたします。
感想
良い点:サボるというアンモラルに対して、一切後ろ髪を引かれず、それどころか背筋を伸ばす神経の図太さ。
気になる点:学校に行け。
一言:とはいえ、作品は魅力的でした。その独善とダメさ具合は、作家向きだと思います。頑張ってください。
さてさて、返信はくれるでしょうか。
感想削除、あるいはブロックもありえますね。
ようやく諦めてベッドから這い出て、コーヒーでも飲もうと、やかんに火をかけたころ、更新したホームに通知が届きました。
ーーーメッセージを受け取りました。ーーー
しまった。直接文句を言ってくるタイプでしたか。
どうせ態度が気に入らないだの、上から目線だの、低俗で攻撃的な言葉が連ねられていることでしょう。
あなたの考えることなど、マルっとお見通しですよ、JK。まあ、本当にJKかは怪しいですがね。
負け犬の遠吠えでも聞いてやろうと、淹れたてのドリップコーヒーがタンブラーいっぱいになるのを待ってから、勝ち誇ってメッセージを開いたところ、内容は下記の通り、ただ一言でした。
『LINE交換してください!』
そっとスマホを閉じ、コーヒーを口に含みながら、遅めの昼食へと、思いを馳せる私なのでした。
しまった、地雷のようです。