番外 『JKあやの忘れたくないものリスト』
6月20日
今日はクラスに1人きり。
どの席だって座り放題。オール自習だから、5分ごとに移動してやろうかな。教卓だってokだぜ。
別学年の先生が見回りに来るそうだから、あまり無茶もできないけど。
2、3人は不参加がいるって聞いてたけど、私以外の不参加の人は、五日間学校まるまる休むみたい。まあ、そりゃそうか。教室で好きにしてろと言うなら、家にいても同じだもの。
出席日数足りてれば、私も堂々と休むんだけどな。
何言ってるか、わかるかな?
ネタばらしすると、うちの学校、今日から修学旅行なんだ。毎年海外なのに、コロナ禍で今年は京都。
ざまあみろだなんて思わないけど、少しホッとしてしまう、性格の悪い私。それどころか、本音を言えば、去年のように修学旅行が中止だったらよかったのにと、思わず考えてしまう。
国内だし、もしかしたら行けるかなって、ちょこっと期待しちゃったけど、ここ最近、体の調子が悪くなって。案の定、主治医の先生は参加許可を出してくれなかった。期待した分、満たされないモヤモヤが、ぽっかり空いた胸の隙間を黒く塗り潰していく。
バカだよねー。中学の修学旅行ももちろん、家族旅行だってまともに行けたことなんてないのに。なんで期待したんだろう、バカだよねー。
なんで私だけって、やっぱり思っちゃうよな。私そんなに悪いことしました?生まれつきのハンデって、もう前世の因果かよって思ってしまう。やっぱり母さんほど、私は熱心に神様を信じられそうにないや。「不運だし不憫だけど、不幸ではない」なんて神父様は言うけど、いや、どう考えても不幸だろと言い返したくなる。越えられない試練は与えない?私を買い被りすぎですぜ、神様。
座り放題の席ではあるけれど、やさぐれモードの私には、結局はいつもの自分の席が一番落ち着く。クジで当てた窓際中央席、気に入っているから仕方ない。ちょっと不貞腐れしてみたくなり、机に突っ伏した。勉強?しませんよ。必要ないし。
堂々とスマホをいじっていたら、一番仲のいい夢見るさんからLINEがきた。夢いっぱいだから、夢見るさん。自分のお店を持つのが夢らしい。ネイルサロンだったりオリジナルブランドだったり、夢のお店はコロコロ変わるけど。もう京都に着いたの?お土産の話かな。
『今日は私の席に座りな。で、机の中漁ってみて』
言われたままに、夢見るさんの席に移動した。机の中を漁ると、置きっぱなしの教科書の間に、ラッピングされたクッキーがあった。洋菓子屋さんの店に憧れる時期もあったほど、夢見るさんのお菓子作りはなかなかの腕なんだ。
『問題、明日は誰がプレゼントを用意してるでしょうか?』
「わお、明日もあるの?次はケーキ?」
『答え合わせは明日の朝、その子からLINEが来るよ。』
「それは待ちきれない!今からみんなの机漁ろうかな」
『それはダメ!五日間分ちゃんと用意してあるから。
お土産いっぱい買って帰るから、来週はみんなで生八つ橋食べようね』
ありがとう。
その一言で、こちらからLINEを打ち切った。夢見るさんは優しいから、甘えればいつまでも返信くれるはずだから。
それじゃあ、夢見るさんの大切な時間を奪ってしまうもの。甘えるのは、生八つ橋の日まで我慢、我慢。
口に運んだ夢見るさんのクッキーは、コーヒー味で少し苦い。
不貞腐れても仕方ないか。人間誰しも、配られたカードで勝負するしかないのだ。理不尽を嘆いても、神様はゲームの仕切り直しなんかしてくない。
夢見るさんの教科書を拝借して、今のうちに少しでも遅れを取り戻そう。
未来にとっては、たとえ無意味な努力だと分かっていても、今を守るには、きっと必要な行動だから。1人ぼっちじゃない最高の今を、私には守る義務があるのだ。
感想:赤城
『釣れますか?
今回ポイントに感想に、かなり高評価ですね!
やっぱり日本人は不幸話が好きですよねー。
今からでも題名変えます?「薄幸(病弱)のJKあやの、忘れたくないリスト」とかどう?
返信:aya
「きいろ様におかれましては、一体どこで人の心を落とされたのでしょうか?
きいろ様にだって、恋に友情に、心を痛めた過去があるはずですのに。
ほーれ、思い出してみ?そして私と一緒に書きましょう。
『発酵(酒好き)の昔JKきいろの、すっかり忘れちゃった大切なことリスト』とかでどうです?師匠」