記憶忘却装置 誰にだって忘れたい事の一つや二つはあるものだ
ここはとある研究室。そこで博士は蓄音器にも似た小さな機械の前でガッツポーズすると言った。
「よし。ついに完成したぞ」
「おめでとうございます。ところで、それはなんの機械なんですか?」
助手の質問に博士は得意げに答える。
「これは記憶忘却装置だ」
「へー。でも記憶する装置ならともかく、忘れる装置なんてなんの役に立つんですか?」
「やれやれ……そんなこともわからないのか」
博士が渋い顔をすると助手は頭をかく。
「すみません」
そして博士は得意げに言った。
「いいか? 人には忘れたいことのひとつやふたつはあるものだ。この装置はそのとき一番強く思っていることを忘れさせてくれる機械。これがあれば恥ずかしい記憶を消せるし、トラウマだって克服できる」
「なるほど。それは素晴らしい」
納得し助手は博士に尊敬のまなざしを向ける。
それに満足し博士は表情を緩めるが――
あれ? 前にもこんなことがあったような……まあ、私ほどの者になればそういうことも多々あるからな。
そう考え博士は納得する。
「よし、さっそく試してみよう」
そう言うと博士は機械のスイッチを入れた。
するとその機械からキーンという耳鳴りのような音が聞こえてくる。
そして――
「ん? このガラクタはなんだ?」
「さあ……」
博士の質問に助手は首をひねる。
「まあいい。良くわからないものを置いておくスペースは無いから捨てておいてくれ」
「わかりました」
そして助手がその蓄音器にもにたガラクタを持って部屋を出るのを見送った博士は、不意に素晴らしいアイデアを思いつく。
「そうだ、忘れたい記憶を忘却する装置を作ろう」