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松尾芭蕉忍者伝説  作者: 鮫島シャチ
2/12

1.事故紹介

ワシの名は松井芭蕉。

この現代の中空を漂う霊魂である。


ワシがこの世を去ってから、いや、まだ去っておらんのだが、はや300年以上の月日が経過しておる。

それでも、ワシがここに存在する、うん?存在するのか?のは、ひとえに成仏しておらんからだ。


これでもワシは俳諧で名をはせ、「俳聖」と呼ばれた身。

地縛霊とか、悪霊とか呼ばず、できれば英霊とか、神霊と呼んでもらいたいものだ。


さて、何故ワシがまだ成仏できておらんのかというと、この現代になってもなお、ワシにとって非常に不本意で、極めて心外な法螺話が渦巻いているからだ。

いわゆる、そんな架空の黒歴史が存在する限り、死んでも死にきれぬというやつだな。


ワシは今日もとある学校の授業を見聞してきたのだが、いきさつは以下のようなものであった。




「今日の授業を始める。教科書179ページ、松井芭蕉の奥の太道だ」


壇上の30代の、黒縁眼鏡で円形脱毛症の男性教師がそう宣言する。

この教師は顔も老け顔でいろいろコンプレックスもあるようで、頭頂部のハゲを隠すべく、禿の縁の髪を異常に伸ばして覆っていたが、屋外に出るとその髪が風に靡き見るも無残な落ち武者のような有様になる。


この授業開始の時点でも、側頭部から逆毛状に長い髪がアホ毛となって揺らめいていたわ。ある意味、生徒に大人気なのだが、本人はコンプレックスから根がネガティブになっており、とにかく生徒に好かれたいと必死な様だった。


「みんな、教科書は開けたかな?では、先に言っておく、この松井芭蕉は忍者だ!!」


ちげーよ!!

しかも何だよ、そのドヤ顔!?

つかみはOKってか?全然OKじゃねーよ!!


「えー!」

「ぎゃはは!」

「せんせー、忍者ってなんですか?」


生徒の反応はまちまちだ。現代っ子の中には忍者を知らぬものもいるようだな。

ワシが成仏できる日も、もしかしたら近いのかもしれぬ。


「忍者というのはな、忍術を使う隠密集団。役割は戦闘や諜報だな」


いや、それは国語の授業ではなかろう?

教師は黒板にチョークでカツカツと板書を始める。


「ルーツは戦国時代だな。日本は大昔天皇が直接統治していたが、武士が独自に集団を結成し、その軍事力によって統制を始めた。幕府というやつだ。しかし、戦力を保持するものはえてして傲慢、自分勝手で、一枚岩とはいかずだな、地方に散らばる有力武士に対するアドバンテージが必要だったわけだ」


うむ、大昔のことだからな。

今となってはワシもあやふやな記憶しかないが、この教師は日本史ではなく国語の教師、多少のことには目を瞑ろう。


「力のある大名同士が戦争をしたら、普通に大きな損害が出るわな。堅牢な城の攻城戦とか、戦死者がどれだけでるかわからん。そこで搦め手が必要になるわけだ」


「せんせー、よくわかりません」


「つまりはまともに戦争したら被害が大きい。だけど、例えば、そうだな、闇に溶け込んだ忍者がいきなり敵の総大将を討ち取ったら、そこで勝ち確定だわな」


「うおー、忍者すげーな」


「今のは極端な例だが、例えばスパイをして、城門が定期的に開く時間や見張りの交代時間、食糧庫の所在、武将や大将の能力も事前に知っていれば、いろいろ作戦も立てられるだろうし、霧や煙で視界を隠したり、落とし穴など罠を仕掛けたり、後方から奇襲をしたり、火で兵糧を焼いたり、食糧に毒物を混入させたり。力では侍に勝てなくても、俺たちは卑劣さで勝つぞ!みたいな輩だ」


この教師・・・なにやら忍者に偏見をもっておらぬか?

いや、ワシも忍者ではないし、それほど詳しいわけではないのだが。


何人かの生徒がもやもやー、っと想像にふける一方、教師は忍者の姿を板書し始める。

割と絵心はあるようだ。

細身で体のバランスがよく、インナーに鎖帷子を着込み、上下繋ぎの姿、足首は布が絞られ足袋を履いている。目出しの覆面に、背中には刀。そして小道具に手裏剣と巻物。


・・・なんということだ。

その教師のイラストを見たワシは、表向きは弟子ということになっている超ド外道忍者野郎を想起することを禁じ得なかった。


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