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♯♯♯


「どうかしたんですか?」

 

 帰るために制服に着替えて、校舎の出入り口に向かうと、止みそうにない雨を見つめるキリ先輩を見つけたので、声をかけてしまった。


「傘忘れちゃってさ、どうしようかなって」


 あたしは傘を持っている。しかも少し大きめの。


 あたしの家は、先輩と同じマンション。


「まあ、ナッツを、いや、ナツキを待って一緒に帰ればいいんだけどさ」


 言え! 言うんだ、あたし! 言っちゃえよっ!!!


「あ、あたし、傘、おっきいの持ってるんで、い、いいい一緒、に、帰りませんか?」


 言えた? 言ったんだよね? 言っちゃったよ。


 それを聞くと先輩は、自分の家はちょっと遠いけど大丈夫か? とか、あっちの方だけど良いのか? とか尋ねたみたいだけど、あたしの頭には何も入らず、ただ縦に振り続けていた。


 あたしの傘が大きいとはいえ、二人で入るためには作られていなくて、遠慮がちに傘の中に入っている先輩の左肩は濡れているだろうし、当然あたしの右肩も濡れている。でも、それすらも気にならないくらい、あたしはドキドキしていた。


 一つの傘に二人。黙々と歩く。


 できれば先輩から話してほしいんだけど、やっぱり話してくれない。


 もしかして、わたしと話すの嫌なのかな……。


 雨の中に居ると心も沈んで、そんな事を思ってしまう。


「……ごめんな」


 色んなことを考えていると、先輩はボソッとつぶやいた。


「おれ、自分から話すの苦手なんだ。だからさ、おれと一緒に帰っても楽しくないだろうけど……」


「そんなことないですよっ!」


 と目一杯否定すると、先輩の方が驚いていた。


「……まあ、そういうことだからさ、聞きたいことがあったら、答えるから」


 聞きたいこと?


 えっと……明日は晴れなんですか、とか? いやいや、これはダメでしょ。じゃあ、今日の数学で、分らないところが……これもダメっ。んーあ、ひとつだけ聞きたいことが……ダメだよね、こんなこと聞いちゃあ。


「あの、ですね、ひとつだけ……」 


 うつむきながら、絞り出すように声を出した。言っちゃダメ。でも、聞きたい。


 先輩が次の言葉を待って、こっちを見ているのがわかる。


 あたしの唇が、震えているのがわかる。


「……なんで、ナツキ先輩と付き合ってるんですか?」


 言っちゃった。ごめんなさい、先輩。


 先輩は、黙って答えない。何も言わず、ただ歩いている。もしかしたら、付き合っているのを、なぜ知っているのか考えているのかもしれない。むしろ、それを考えていてほしい。


「……楽なんだ」


 え?


「ナツキと居るとさ、何だかわからないけど、楽なんだ。どこが好きなのかって考えたこともあるけど、分らなかった。顔が良いとか、性格が良いとか、理由をつけようと思えば出来るんだけど、そうじゃないんだ。……どう言えばいいんだ? えっと……そう、なんとなく。おれはなんとなくナツキが好き……なんだと思う」


 そっか、一緒なんだ。あたしの、先輩が好きな理由と。


 かなわないなぁ。でも、顔の事とか、身長の事言われるよりは、よっぽど良かった。


「じゃ、ナツキ先輩を泣かせちゃダメですよ。あたしもナツキ先輩好きですから」


 あたしは、先輩の方を向き、できるだけ元気よく、できるだけ明るく、努力して言った。


 それに対して、先輩は「おう」と笑顔で答えた。


「あ、おれの家ここなんだ」


 いつの間にこんなに歩いたのか、気付くと先輩の家である、マンションの前に着いていた。あたしの家でもあるんだけどね。


 いつも通っている出入り口も、先輩と一緒だと、なんだか新鮮に思える。

出入り口を抜けたところで、先輩が言う。


「服、乾かしていったら?」


 そ、それって、せ、先輩の家にお誘い?


「い、いえっ、いいですよっ!」 


 だ、だだだだ、ダメだよっ!……ね?


「あたしも、家ココなんで」


 あたしの家がこのマンションの四階だと伝えると、当然のように先輩は驚く。


「そっか、じゃ、いつでもどっちかの家で部活の打ち合わせできるな」


 そう笑いながら先輩は言う。でも、あたしはドキドキしながら、嬉しいような、恥ずかしいような、叫び出したいような気持ちで一杯だった。


「せ、先輩っ! そろそろ帰らないと、風邪ひいたら大変ですよ」


 あたしが言うと、思い出したかのような顔をし、先輩は帰る素振りを見せる。


「そうだった! じゃ、また明日なっ」


 走って行ってしまった。忙しい人だなあ。


 置いてかれたような、あたしは先輩の姿が見えなくなってから「また明日」とつぶやき、階段へと向かった。 


 さっき、帰るのを忘れてたのって、あたしと居るのが楽だったからかな? ……そうだったら良いなあ。


 先輩、やっぱり、あたしね、そんなに潔くないみたい。


 優柔不断っていうのかな? 諦められない。明日からも、思い続けさせてください。

 

 ダメですか? わかってますよ。


 じゃあ、また明日。先輩。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

感想、アドバイス、ダメ出し。ご自由にお願いします。とても喜びます。


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