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ギコギコとノコギリで木を切る音が、学校の廊下に響き渡る。
6月の暑さ。外で降ってる雨によるジメジメ。木を切るのに、制服はさすがにダメだろう、というので着替えた体操服は、体に張り付きとても気持ち悪い。
なぜ、女子高生の乙女が木を切っているのかというと、これは、この高校の演劇部の大道具係としての伝統であり、運命なのです。でも、隣には憧れの先輩。彼が近くに居るから大丈夫っ!
……とはいかず、しんどいものはしんどい。
「大丈夫か? ユーミン」
一通り切り終った先輩が、声をかけてくれた。
「大丈夫じゃないですよぅ、キリ先輩ぃ」なんて、あたしは情けない声をあげてしまった。
「ん、じゃあ一休みするか」
先輩が言い、あたしたちは廊下の端に二人並んで座った。
さっきから言っている、ユーミン、キリは当然本名じゃない。
キリ先輩は桐江佑っていう名前がある。
あたしもどこかの妖精みたいな名前ではなく、武内由美香って名前がある。
要するに呼び合いやすいための、あだ名。これも、この高校の演劇部の伝統であり、運命。
「ボーッとしてどうした?」
キリ先輩は、心配そうに私の顔を覗き込み、目を合わせた。
か、近、かっっっ……。
「だ、大丈夫でふょっ! アハ、アハハハハ」
突然だったから、噛んじゃったよ……。
不思議そうな顔をして、キリ先輩は座っていた場所に戻って行く。
……話す事が見つからない。
二人の間に沈黙が流れる。いや、おがくずのついたジャージ姿で、男女が学校の廊下で座ってるだけだから、ムードも何もないんだけど……それでも……。
さっきよりも、勢いの強まった雨の音が聞こえる。
そういえば、近くの教室で、この人の衣装は、この色で。とか、いーえ、ピンク系のほうですー。とか議論をぶつけ合っていた他の部員の声が今は聞こえない。
速くなる心臓の鼓動の音。これって、隣に聞こえないよね?
廊下の壁や床のコンクリートが、ヒンヤリと体温を奪ってゆく。それでも、汗はひかない。
話すことが思いつかない……沈黙が辛い。できれば、先輩から話してほしいな。そんなことを考えながらも、こんな時間も良いなあ。なんて思ってる自分もいる。
……色々考えすぎて、何が何だか分らなくなってきた。
…………もうダメ。何か話そう。何が良いかな? なんでも良いや。よしっ話す。話すぞっ!
「あ、あのぅ」「あのさ」
さっきの気合いとは裏腹に、あたしが出した小さな声と同時に、沈黙が辛かったらしい先輩も声を出した。
「ど、どうぞ」「どうぞ」
これも同時。そこから、譲り合いの戦いが始まった。あたしが「先輩からどうぞ」と言えば、先輩は「いやいや、ユーミンからどうぞ」と言う。たぶん、先輩も本当は話すことがないんだろう。
二人ともムキになって、言い合いみたいになってきた。でも、こんな言いあいもたまには良いなあ。なんて思ってる、あたしもいる。
……なんでも良いのか、あたし?
「こら、そこの二人! サボらないっ」
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次回更新は明日(7月1日)を予定しています。
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