姉にいつもいじめられていた妹のささやかな復讐、これくらい許してくださいますわよね? 慈悲深いお姉さま。
「あなたはいつも努力しているわ。だから私のようにできなくても気にすることはないのよ」
「ありがとうございます……お姉さま」
私は姉に頭を下げました。ええ、確かに私の魔法の能力は姉よりもかなり低い。
そして姉に比べれば容姿もいまいちでした。
姉はとてもやさしく清楚で、誰にでも……穏やかで優しい淑女と思われていました。
私もあるときまでそう思ってましたわ。
「リーゼ、次の試験ではもっと頑張ればいいわ」
「ありがとうございます。お姉さま」
ああまるで壊れたオルゴールのようでした。だがしかし、姉上の本性が分かった今はこう答えるしかありませんでした。
姉上は今十七、私は十五、侯爵家の令嬢といえば、上の姉は国一番の美姫、下の妹は庶民のように地味といつもいわれていました。
これは事実です。仕方ないです。
だがしかし、その性格すら優しく穏やかな姉上、淑女として完璧と言われて、妹は暗くて性格も悪いといわれていました。
性格が悪いというのは姉のことだと思ったこともありました。
姉は外面が非常に良い人で、両親すら姉の本性がわからないようでした。
私は十歳の時、姉が私が大事にしていた首飾りを湖に捨てるのを見たのです。
気のせいか、目の錯覚かと思いましたが……。事実首飾りは部屋から姿を消しており。
姉に私の首飾りを知らないか? と聞いてみても知らないの一点張りでした。
そこから姉のやることを観察すると、どうも私を完全に馬鹿にしてるようでした。
私が両親に怒られるたびにこっそり笑っているのです。
魔法力が弱すぎると先生がため息をついたときも笑っているのです。
ある時、どうして私を馬鹿にするのかと聞いてみました。
馬鹿になんてしてないわと姉はまた笑うのです。
被害者意識が強いわねと笑う姉がいました。
ある時そっと姉がお友達と話すのを聞いたのです。
「あの子はほんとどんくさいというか、何度勉強を教えても全くなのです。私の教え方が悪いのですわ」
「そんなことはありませんわ、妹さんが悪いのです!」
「……そうかしら」
「そうですよ」
友達と話しているとき、姉はやはり笑っていました。
ああ、これは優越感かと思いました。出来損ないの妹を思いやる優しい姉を演じていたのです。
そこからは私は壊れたオルゴールみたいに同じ言葉を姉に返しましたが姉は平気でした。
これが十歳の時、あれから五年、姉はいつも通りです。
私と姉に縁談が来ました。王太子殿下の相手には私、どうしてこの子が?と初めて姉が両親に口答えしました。
年のころが王太子殿下は今十五、姉とは少し年が離れているのと、王太子殿下ができたら年が近いほうがいいといったからだそうです。
二歳違いならそうかわりませんわと姉が言いましたが、両親はさすがにそれは……と王太子殿下の従兄である王子との縁談を進めました。
そして私は王太子殿下の婚約者となったですが……。
「お前との婚約を破棄する!」
なぜかその半年後、王太子殿下から婚約を一方的に破棄されたのです。
私の魔法力や、そして容姿、能力不足がその理由だそうですが、姉には劣っていますが、普通の令嬢よりは魔法力が高く、容姿だって平均でした。
だがしかし、私は婚約を破棄され、実家に戻され、そして知ったのです。
ええ、姉が王太子殿下に色仕掛けで取り入り、後釜に収まったことを。
そして私は決意しました。姉上に人生ではじめて逆らうことを。
それから数か月後、姉が婚約破棄されました。
ええ、私と同じコースですが、姉は修道院に追放されました。
姉のしてきたことと比べればささやかな復讐でしたわ。
「どうして侍従なんかと……」
「ええ、どうして」
両親が嘆き悲しみます。そう、姉は家の侍従とできており、私はそれを知っていたのです。
だが家の名誉を傷つけるので黙っていましたが、さすがにああまでされて黙っていることができず、これを王に進言しました。
証拠もありましたので……。
いつか仕返ししてやろうと思ってはいましたが、でも本当にするつもりはなかったのですが。
不義密通で修道院行、二度と出会うことはないでしょう。
まあ、私の婚約破棄、姉との婚約破棄、裏には姉と王太子殿下の不義がありましたので連座はありませんでした。それも陛下には進言したのは私ですが。
姉のいない館は静かですね。
悲しむ両親は見てられないので、出来たら近いうちにこの館を出て行きましょう。
姉から離れるために密に薬草学などを勉強していたので薬師として生きることができそうです。
姉上、お幸せに、ささやかな復讐で申し訳ありません。
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