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タハル

タハルの街へはカイルの言う通りすぐについた。戦闘のあった場所から30分ほど歩いたところで森を抜け、街道が見えてきたのだ。その街道の先に街の外壁が見える。


「あれがタハルです。デクセン王国で三番目に大きい街ですよ。」


道中、ラウザーはカイルにこの世界のことを教えてもらっていた。


ラウザー目覚めたのはデクセン王国という国らしい。国王カーロイン・デクセンの統治の下、建国300年を迎える国らしかった。

デクセンブルクは剣と魔法の栄えている国で、軍事力も高く、隣国であるファスタイル帝国との戦争でも勝ち越しているという。最も戦争自体は、100年前に魔族が復活して以降起こっていないらしい。

デクセン王国の治安も今はそれほど悪くないとのことだった。


タハルの街はそのデクセン王国の中でも三番目に大きく、各ギルドの本部が立ち並ぶギルド街なのだそうだ。

ギルドというのこの国の職業のような者で、商人なら商人ギルド、冒険者なら冒険者ギルドというようにそれぞれの職業につく人が必ず登録している物らしい。他にも、魔道士が所属する魔道士ギルドやセイラさんのような薬師が所属する薬師ギルドなどがある。


各ギルドはデクセン王国の主要な都市に支部を設けていて、年に一度各支部の代表がタハルの街に集まり、ギルド会議が開かれるのだそうだ。

セイラさんも薬師ギルドのギルド会議に出るために王都エスカルンドからタハルまで向かっているのだという。


王都の薬師ギルドの代表なんて、セイラさんはすごい人なんだなとラウザーは思った。その話をセイラにすると


「薬師は人数も少なくて、代表と言ってもただのお飾りなんです。」


と笑っていた。セイラは金髪の長い髪を肩の高さまで伸ばした美人で、ラウザーはその笑顔に少しドキッとしてしまった。


「俺たちは一応Bランク冒険者でな、薬師ギルドからの依頼でセイラさんをタハルまで送っているんだ。」


赤い髪をモヒカンにしたとても目立つ筋骨隆々の斧使い、ザッパが得意そうに言っていた。


「冒険者ギルドの代表者は一緒ではないのですか?」


なんとなく気になったので聞いてみると、タタルがカイルを指差した。このタタルという棍棒使い、見た目は黒髪短髪で筋肉はザッパと同じくらいもりもりだが、ザッパとは違い無口なタイプのようだ。


「冒険者の代表は僕なんです。まだBランクだし、全然代表なんてたいそうな物じゃないんですけど……。」


カイルが恥ずかしそうに言う。カイルは他の2人と違いゴリマッチョという感じではない。もちろん戦闘に必要な筋肉はあるのだろうが、すらっとしてみえる。神は青く、その容姿は男前な方だ。

ザッパやタタルと並ぶと、ああ、この人がリーダーなんだろうなというオーラがある。


恥ずかしがっているカイルを不思議に思っていると横にいたセイラさんが


「彼はエスカルンド冒険者ギルド支部のギルド長の息子さんなんです。」


と小声で教えてくれた。なるほど、親の七光のようで恥ずかしいという意味合いか。


「タハルの街の門が見えたきましたよ。」


カイルが指差す方をみると確かに外壁がだいぶ近づき、門がみえるようになっていた。門の前には人だかりができている。


「ギルド会議のあるこの時期は、他にも商人や冒険者がたくさん集まるんです。ギルド会議の決定は翌日にまずタハルの街で発表されますから、情報をいち早く集めたい物たちが集まって来るわけです。」


歩きながらカイルが教えてくれる。


「冒険者の中には喧嘩っ早い奴もいますから、気をつけてくださいね。まあ、ラウザーさんなら心配ないと思いますが。」


続くカイルの言葉にラウザーは少しドキッとした。

さっきの戦闘をみたカイルたちはすでにラウザーを強者と認めているようだが、あれは「経験値取得」スキルが剣から経験値を取得していたからであり、剣を手放した今、先ほどまで感じていた不思議な感覚はない。おそらく今は元のラウザーの戦闘力に戻っているだろう。


街では目立たないようにしよう。

ラウザーは心に強く誓うのだった。




門の前にはすでに行列ができており、一番前で騎士のような格好をした物たちが検問しているようだった。

冒険者のような見た目の者たちは、荷物が少なく短い時間で門を通っていくが、商人のような人たちは、馬車や荷車など持ち物が多く、少し時間がかかっている。


ラウザーたちもその列に並び、カイルが通行証を取り出す。


「ラウザーさんは天の迷い子なので、通過するのに少し時間がかかるかも知れません。私たちを助けてくれたという事情もあるのであまり長くはかからないと思いますが。」


カイルの言葉にラウザーはうなづく。どうせ1人では街に入れるかもあやしいのだ。少しくらい時間がかかってもなんともなかった。


列が進み、ラウザーたちの番になる。


「通行証をお願いします。」


騎士のような格好の人(衛兵というらしい)が右手を差し出す。カイルがその手に通行証を渡し何やら話している。衛兵とカイルの目が時折ラウザーに向くことから、ラウザーの通行の手続きをしているのだろう。


「かしこまりました。通行証を用意しますので少しお待ちください。」


衛兵はそう言って、近くにいたもう1人の衛兵に後を任せると門の横の外壁に取り付けられている扉の中へ入っていく。扉の中が部屋のようになっていて、そこが詰所になったいるようだ。


ほんの少し待っていると衛兵が戻ってきた。

手には胴色のプレートのような物を持っている。


「こちらが仮の通行証になります。街の中では常に持っていてください。それから、街を出るときには必ずご返却を。」


そう言ってプレートを渡される。どうやら本物の胴でできているらしいそれをラウザーは服のポケットにしまう。


「さあこれで手続きは完了です。行きましょう。」


ラウザーに促され門を進む。

分厚い門を潜ると目の前にファンタジーの世界が広がっていた。


石煉瓦造りの大通り、立ち並ぶ店たち、奥に見える広場には出店のような物も見える。道を歩く通行人たちは剣を挿していたり、杖を持っていたり、馬や馬車もいる。


正しく子供の頃に弟と遊んだゲームの世界であった。

自分が本当に異世界にきたのだという事実を肌で感じ、少し感動した。


子供の頃、弟と2人でこういう世界に憧れていたことを思い出したのだ。


「すごい活気ですよね。タハルの街は。」


横にたったセイラが微笑んでいる。前を歩くカイルたちもこちらを見て笑っている。

大都会に初めて来た田舎者の少年のように、キョロキョロあたりを見回すラウザーが面白かったようだ。


「僕たちはこのまま冒険者ギルドへ行って依頼完了の報告をしてきますが、ラウザーさんはどうしますか?必要なら宿屋の場所をお教えしますよ。」


カイルの問いかけでラウザーはようやく我に帰る。自分にはすべきことがあったのだ。

この世界にきたら、まずは教会にいけと神は言っていた。


「教会に行きたいのですが、できれば場所を教えてもらいたいです。」


「教会ですか?確かに迷い子の多くは迷ってから最初に教会にいくと聞きますが、本当だったんですね。」


カイルが教会までの道のりを教えてくれる。

そこまで複雑ではないし、たどり着けそうだ。


「ラウザーさん、念のため今日は同じ宿に泊まりましょう。まだ街についたばかりですし、ラウザーさんはいろいろ戸惑われることも多いでしょうから。」


カイルの言葉にラウザーは遠慮なくうなづく。少し図々しい気もしたが、どうしていいのかわからないのも事実だ。素直に甘えさせてもらおう。


「それでは用事が住んだら冒険者ギルドまできてください。この道をまっすぐ進んで、広場を越えた先にありますから。」


カイルが指差す方向をみるとうっすらと大きな建物が見える。あれが冒険者ギルドということか。

カイルの言葉にうなづき、礼をいう。


4人といったん別れ、最初に教えてもらった教会へとラウザーは向かうのだった。


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