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5 佐々倉真里は箱入り娘?

真里の誕生日を変更しました。

6月4日→6月10日

 When(いつ?)

 Where(どこで?)

 Who(誰が?)

 How(どうやって?)


 真里との婚約を決めたのだ?


 英語が堪能な紀夫が5W1Hに何が足りないのか考える余裕が無い。とりあえず深呼吸をする。


ヒッ ヒッ フゥ〜


 気が動転しているのでラマーズ法になっていた事にすら気付いていない。



「とにかく、お家に入れてくれませんか?」


 真里の声に紀夫は我に返る。

 玄関前で美少女と立ち話は、さすがに近所の目もあるので真里の申し入れに同意した。

 玄関の鍵を開錠してドアを開き、家に入る。真里はその後について家に入った。


「適当に座って。コーヒーをもってくる。」


 リビングに真里を案内してから、紀夫は台所へ向かった。真里はL字におかれているソファの長手側に腰を下ろした。


 テ○ファールの電気ケトルに水を注いでスイッチを入れる。マグカップを二つ用意してインスタントコーヒーの顆粒を入れる。そうこうしている間にお湯が沸いたのでマグカップに注いだ。

 トレイにマグカップを乗せてリビングに戻ると、トレイをローテーブルにおいた。 


「好みで入れてくれ。」


 紀夫はスティックシュガーとフレッシュ、スプーンをマグカップの横に添える。


「ありがとう。ブラックでいただくわ。」


 真里はマグカップを持つと、フーと一息かけてから口にした。紀夫は真里の右手側のソファに座ると、マグカップを手に取り口にする。


「先ずは自己紹介ですね。改めまして、私は佐々倉真里と言います。聖神女学園高等部三年生の十七歳です。誕生日は六月十日の双子座です。両親は十年ほど前に他界していて、今は祖父母と暮らしています。祖父は佐々倉ホールディングスの会長をしております。」


 聖神女学園はお金持ちのお嬢様だけが通う女子校である。しかも、佐々倉と言えば国内屈指の大企業。

 紀夫は『あ、これお近付きになったらあかんヤツや。お嬢様中のお嬢様やんか』と何故か関西弁で思ってしまう。


「以上が私の自己紹介になります。さほど驚きになられないのですね。」

「驚いてる。いや、違うな。予想の上をいくお嬢様だったので、身の危険を感じてるよ。」


 紀夫の言い様に真里はクスッと笑った。


「誰もとって食べる様な事はしませんから安心して下さい。」


 真里はそう言ってすぐに表情を戻す。


「紀夫さんの言われた事は的を射ていますね…」


 独り言の様に小声で言ったので紀夫には聞こえていない。


「教えてくれないか。空港での経緯(いきさつ)を。」


 紀夫はマグカップをテーブルに置くと真里の方を見て言った。真里はコクリと頷いた。


「婚約者だと言ったのは何故だ?」


 紀夫はストレートに質問した。


「話せば長くなりますが…掻い摘みますと、空港でお会いしたあの日。ロビーにあるレストランでのお見合いに連れてこられていたのです。空港に着いてからお相手の事などを告げられ、ドタキャンをすべく色々と思案していました。そんな時に紀夫さんが目に留まり、『あの人を婚約者に仕立てて断ろう』と思い立ち、あの様な始末に。」


 紀夫は大まかな理由については理解できた。


「婚約者と言ったのは、急場しのぎの方便だったんだな?」

「はい…」


「見合いを嫌がった理由は?」

「お相手の殿方が、四十三歳のバツイチ。お写真を拝見すると、生理的に受け付けられない容姿でしたので。」


 年齢が二回りも違う。その上、生理的にダメなら結婚したら苦行だろうなと紀夫は同情する。


「偽りの婚約者になぜ俺を選んだ?他にも男は大勢いただろう。」

「それは…例え嘘だとしても婚約者にするなら、その…私のタイプというか…この人ならというか…」


 真里が急にモジモジしだした。真里の頬が赤みがかった。

 紀夫は藪蛇の予感がして次の質問にうつる。


「なぜキスをした?しかも舌まで入れてきて…」

「キスをした方がリアリティがあるのではないかとの判断で…舌を入れてしまったのは…あ…その…しょ…正直に言いますと自分でも良く分からないのです。なぜ舌を入れたのか…変な誤解はなさらないで下さい。私はふしだらな女では無いのですよ!そもそも好意を寄せる殿方としかできない事ですし…それに、あのキスは私のファーストキスでした。」

「ゲッ!」


 ファーストキス?俺みたいなオッサンと?重すぎるだろうと紀夫は思った。


「ファーストキスの責任を取って欲しいとは言いません。私からキスをしたのですから…」


 取ってくれと言われたとしても、簡単に取れるモノでは無い。佐々倉のお嬢様なのだから。

 真里が口にした「責任」という単語に紀夫は狼狽(うろたえ)る。

 動揺を隠す為に質問を変えた。


「俺の親公認の婚約者と言うのは?」

「それも話せば長くなりますが…」


 真里の説明はこうだった。


 お見合いを打ち壊す事は成功した。ところが祖父は怒るどころか、真里がお見合いを壊してまで大切にしたい男なら婚約者として認めようと決断した。


 認めてしまえば、あとは結婚に向けて行動あるのみ。

 紀夫の父・秀夫が佐々倉グループの子会社に勤めているのが判明し、真里の伴侶の父が子会社の課長では釣り合いが悪い。とりあえずは子会社の支社長をあてがい、ゆくゆくは、グループ本部役員または子会社の社長まで引き上げる人事も視野に入っている。


 秀夫に支社長昇格を通達する際に、紀夫は真里の婚約者であるという事を伝えられた。秀夫も真里と紀夫の婚約を受け入れる事を承諾した。

 長いものに巻かれるのはサラリーマンの宿命である。


 真里の知らない所でこれらの話は進められ外堀が埋められていき、真里としても今更、婚約者と言うのは方便であったとは言えなくなった。




「ま、マヂか…」


 真里の話を聞いて紀夫は愕然とする他なかった。

 一昨日の夜、秀夫との会話に少し違和感を覚えたのも、これの為か。

 車の贈り主も真里の祖父に違いない。


「どうすりゃいいんだよ…」


 何もかも捨てて逃げたい。紀夫は思考を停止した。お手上げである。


『そうだ、俺には楓がいる』


 紀夫は最後の切り札を切った。


「俺には彼女がいるんだけど…」

「存じています。吉田楓さんですよね。」

「調べてあるんだ。凄いね。」


「それを踏まえた上で、紀夫さんに四つお願いしたい事があります。」

「なんだい?聞くだけ聞くよ。」


 紀夫は諦めの境地に達しようとしていた。


「まず一つ目です。私の婚約者になって下さい。」

「話の流れからすると俺に拒否権はないんだろうなぁ。」

「そうですね。紀夫さんのお父様が支社長として福岡へ向かわれたのは既成事実ですから。」

「詰んでるか…」

「そうでもありません。今は無理でも時間をおけば婚約解消の可能性は出てきます。」

「それはどういう事?」

「私はまだ高校生なので今すぐ結婚とはなりません。結婚は早くても私の卒業を待つことになります。結婚まで時間があります。お付き合いを続けた結果として破局したというケースもあり得ます。お爺様はよほどの事がない限り、いつでも私の気持ちを優先してくれます。破局になったとしても、それが原因で紀夫さんのお父様が不利な立場にならない様、私がお爺様に頼めば大丈夫だと思います。」

「なるほど。」


「私としては破局などしたくありませんが…」


 真里は小声で呟いた。


「え?何か言った?」

「いえ、なんでもありません。次に二つ目のお願いになります。」


 真里は真剣な目で紀夫を見つめた。


「吉田楓さんとは別れて下さい。」

「え?」

「当然です。私という婚約者がいるのに恋人がいるなど、スキャンダルです。週刊誌の絶好の餌食になってしまいます。」


 紀夫は黙って考え込む。

 大企業のお嬢様の婚約者に、別の恋人がいる。叩かれるのは紀夫である。確かに死亡フラグだ。フラグを折っておかないといけない。

 だが、果たして楓と別れる事は出来るだろうか。仲が悪いわけでもない。高校生の頃からずっと一緒にいた。それなりに情がある。


「楓と別れるのは無理だなぁ。」

「どうしてですか?」

「楓と一緒にいるのが俺にとって当たり前になってるから。」

「わかりました。では私が楓さんの代わりになる様に頑張りますね。」

「はい?」

「紀夫さんの中にある楓さんへの想いを、私への想いで上書きすればいいだけの事です。」

「えーと。言ってる意味が理解できないんだけど。」

「紀夫さんを私に振り向かせたらいいって事です。」

「だから、なんでそうなるの?」

「わ…わた…し…の…」


 真里が急にモジモジしだした。意を決して大きな声で叫ぶ様に言い放つ。


「わ…私のファーストキスを捧げた(ひと)だからです!」


 真里の頬が急速に赤くなる。


 『ガチの箱入り娘や』と紀夫は思った。


 真里は聖神女学園初等部に入学してからエスカレーターで進学している。同年代の男子と触れ合う機会はなかった。当然ながら十七歳になって未だ初恋をしたことが無い。恋愛において純真無垢な真里が、切羽詰まってとはいえキスをした。しかもファーストキスである。キスをした相手は当然、真里の恋人でなければならない。キスの相手は紀夫である。


真里の恋人=キスの相手=紀夫


の関係式が成り立たなければならないのだ。

 例えるなら、卵から孵った雛が初めて目にしたモノを親と認識するのと同じ、一種のインプリンティングであった。


「キスの件は責任取らなくてもいいと言ったよな。」

「はい。ですから紀夫さんに無理強いはしません。私が紀夫さんを堕とせばいいだけなんです。」


 真里の目がキラリと光った。獲物を狙う野獣の目だ。


「と…とって食べる様な事はしないって言ったよな。」

「言いましたね。」

「妙に身の危険を感じるんだが。」

「気のせいですよ?」


 真里の口角が上がった。なぜ疑問形?


『…アカン。いつか襲われる』


 紀夫のKY(危険予知)センサーがアラートを発した。

 

 紀夫は気を取り直し、話の内容を整理する。


「整理すると、俺が君の婚約者という立ち位置は変えられないんだな?」

「はい。楓さんと別れる件は、私が努力する事で解決するようにします。」


 紀夫は右手で自分の目を覆う様にして天を仰いだ。


「それで、三つ目の願いは?」

「簡単な事です。婚約者なのですから私の事は真里と呼んで下さい。」

「わかった。真里さん。」

「真里です。」


 真里の表情がムスッとなる。


「……真里ちゃん。」

「真里です。」


 真里がムーッと口を尖らせる。


「……真里…」

「はい!紀夫さん。」


 真里は満面の笑みを浮かべる。


 なんだ?このテンプレなやり取り。どこのラブコメ?と紀夫はゲンナリした。

 筆者が使いたかっただけだ。許せ、紀夫。



♪ピンポ〜ン ピンポ〜ン


 インターホンの呼び出し音が鳴る。


『しまったっ!』


 壁掛け時計の針は五時をまわっている。

 楓が来るのを紀夫はすっかり失念していた。

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(`-ω-)y─ 〜oΟ

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