9 私を海に連れてって(2)
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〜〜おことわり〜〜
筆者は二輪免許を持ってません。
想像で書いているので、実際の二輪運転とかけ離れてる描写があるかも知れません。
ご承知おき下さい。
真里は近藤が車で去っていくのを確認すると、右足を軸にしてクルリと180度ターンを決めた。紀夫の顔をジッと見つめる。
「おはようございます。」
「?」
「おはようございます。」
「?」
真里は朝の挨拶を繰り返す。紀夫は意味が分からず黙っていた。
「紀夫さん?朝の挨拶は?」
《あっ!》
紀夫は己を恥じた。真里が最初に挨拶してきた時、真里の姿に見惚れて挨拶をし忘れていた。
「お、おはよう。」
「ダメですよ。挨拶は関係構築の基本です。」
年下の、しかも現役女子高生に叱られた。紀夫は頭をガリガリとかくしかなかった。
「これが紀夫さんのバイクなんですね。」
真里は紀夫の横で低音サウンドを響かすハーレーを見た。
メッキパーツが至る所に使われギラギラした感じがするがイヤらしさは無い。
ブルーメタリックに塗装された燃料タンクと前後輪の泥汚れは、全体のフォルムをスタイリッシュに魅せている。
真里は紀夫の横にきて、タンデムシートを左手で撫でるように触った。
「綺麗なバイクですね。」
「ありがとう。」
「ピカピカです。よく手入れされてるのがわかります。」
「暇な時はコイツの面倒ばかり見てるからなぁ。」
紀夫も左手でハンドルをポンポンと軽く叩いた。
「さて、そろそろ出発したいんだがヘルメ…」
「ヘルメットなら持ってきましたよ。」
真里がそう言ってガレージの外へ出た。箱を抱えて戻ってくる。
箱を置くと中からヘルメットを取り出した。
「これです。」
取り出したのは赤色のジェットヘルメットだった。アクリルのフェイスフードは開閉できるタイプだった。真里はヘルメットをかぶってフェイスフードを上に跳ね上げ、微笑んでいる。
「似合ってますか?」
「ああ、似合ってる。」
「やった!」
真里は嬉しそうにガッツポーズをした。
紀夫はふと思った違和感を口に出した。
「ちょっと待て。バイクに乗せろと言ったのは、ついさっきだよな。」
「そうですね。」
「バイクに乗った事が無いと言ったよな。」
「はい。言いましたね。」
「なんで新品のヘルメットを持ってるんだ?」
「それはですねぇ…紀夫さんがバイクを持っている事は事前に承知してからですね。」
「あ〜そうか。そうだな。それくらい調べる事は容易いか…」
「はい。で、紀夫さんの運転するバイクの後ろに乗りたいので前もって購入しておきました。」
「今朝のメッセージは確信犯か…」
「そうなりますかね?」
「俺が今日一日、家にいると言ってたら押しかけてきて、バイクに乗せろと脅されたんだろうな。」
「脅すだなんて人聞きが悪いです。駄々をこねるつもりではいましたけどね?」
「どっちにしてもタチが悪いわ!」
紀夫がムッとすると真里が右手を伸ばして紀夫の頭をヨシヨシと撫でた。紀夫は真里の手を払うと、
「ヘルメットを取ってくる。」
と言って真里がヘルメットを取り出した空き箱を抱え、家に入っていった。紀夫の顔が少し赤かったのを、真里は見逃していなかった。
しばらくして紀夫がヘルメットをかぶって出てきた。
紀夫のヘルメットは黒のジェットヘルメットだった。真里のヘルメットの色違いである。
「やった〜!紀夫さんとお揃いのヘルメット!」
「もしかして俺のヘルメットのメーカーも知ってたのか?」
「いいえ。それは知りませんでしたよ。偶然ですねぇ。」
真里は口をすぼめてスースーと息を吹いている。口笛を吹いているつもりだろうか。紀夫はハァッと溜息をついた。恐るべし、佐々倉の諜報力。
「行くぞ。」
紀夫はそう言って、普段は折りたたんでいるタンデム用のフットステップを出すとハーレーに跨った。
真里はフットステップに足をかけると、タンデムシートに跨る。
「両手で俺の腰を掴んでおけよ。」
紀夫は後ろを振り向いて真里に告げた。真里は言われた通りに紀夫の腰のベルトを掴んだ。
紀夫はスタンドバーをしまうとクラッチレバーを握りギアをローへ入れた。アクセルを少し開けクラッチレバーを離すとハーレーはノロノロと動き出す。
ガレージを出て家の前の道に出るとアクセルを開いて一路、海へと走り出した。
紀夫と真里を乗せたハーレーが街中を駆け抜ける。交差点を曲がるたび、紀夫は真里に左右どちらに体を傾ければいいか指示を出し、真里は紀夫の体の動きに合わせるように体を傾けた。
二十数分ほど街中を走り、高速道路へと入る。真里を乗せているので、紀夫は時速七十キロ程度で走行車線を走った。後続の車が追いついてきては、追越車線へレーンチェンジして追い越していく。
高速道路に入ってからは交差点の様な急激な曲がりなど無いので、ハーレーの走行姿勢は安定していた。
真里はニヤッとしてベルトを掴んでいた手を離した。革ジャンのジッパーを開け、両腕を紀夫の脇から差し込むようにして巻きつけ、体を紀夫に密着させた。
ハーレーのタンデムシートは紀夫の乗るライダーシートより二十センチほど高い。真里の腕は紀夫の胸あたりに巻きつくことになる。真里のたわわな双丘が紀夫の肩甲骨あたりで苦しそうに変形している。
紀夫はその柔らかい感触を捉えていたが、動じる事は無かった。
真里は紀夫の右肩から顔を覗かせてハーレーのエキゾーストノートにかき消されないよう、大声で言った。
「紀夫さん。感じますか?」
「なにを?」
「私、結構自信あるんですよ?」
「だから、なにを?」
「胸っ!オッパイです!」
「お嬢様がオッパイなんて大声で叫んでいいのか?」
「今の状況でソコをツッコミますか?」
「それ以外にあるのか?」
「私のオッパイ、大きいでしょ?」
「あ、そう言うことか。」
「こう見えてFなんですよねぇ。脱いだら凄いんですよ!」
「へぇ、大した物をお持ちで。」
「あれ?おかしいですね。」
「なにがおかしい?」
「調査報告書によると、紀夫さんはオッパイ星人て書いてあったのですが…」
紀夫は思わずズッコケかけた。もちろん運転中なのでズッコケる訳にいかないのだが。
「なんだよ、その報告書は。」
「違うんですか?」
「いや、合ってる。」
「オッパイ星人なのに何も感じないのですか?」
「いや、感じてるぞ。凄く柔らかい。」
「じゃあ、どうして無反応なんですか?ちょっと凹みます。」
「オッパイ押し付けられてドキドキとか、ラノベで主役を張る自虐で隠キャな童貞中高性少年じゃあるまいし。加えるなら一応、女の体は知ってるしな。」
女の体…それが楓を指している事は真里でも理解できる。真里は悔しくなった。
「それに、今は運転中だ。俺一人ならいざ知らず、後ろに真里を乗せている。真里の命を預かってる訳だ。オッパイの感触がどうのなんて、気の抜けた事は言ってられないよ。」
確かにそうだ。今は紀夫に命を預けている。紀夫がそれを最優先にしてくれている事は心にグッとくる。やっぱり大人の男は違うなと思うと、頬が熱くなった。
真里はふざけるのではなく、紀夫に全幅の信頼を寄せる様に抱きつき直した。
それでも女として紀夫の対応には不満が残る。心の中で呟くくらいは許されるだろう。
《つまんなぁ〜い!》
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自虐で隠キャな童貞中高性少年が悪いと言ってる訳では無いですよ?
ちなみに筆者もオッパイ星人です。
オッパイネタは随時盛り込む予定です。
(`-ω-)y─ 〜oΟ