最強スキル『カップ焼きそばの湯切りでシンクがベコッ!って鳴らない』を持つ俺を容易く追放できると思うなよ!?
「勇者【ペーヤ・ングゥ】を本日付で魔王討伐隊より外す事とする!」
俺は追放された。
子どもの頃から夢見ていた魔王討伐隊の一員。並々ならぬ努力と袖の下のお陰でようやく末席に籍を置けたにも関わらず、国王は俺を容赦無くクビにしやがった。
確かに俺は戦闘は苦手だ。それは認める。サポートスキルは残念ながら持ち合わせていないし、治療魔法も使えない。ぶっちゃけ足手纏い寸前……いや、寸後か?
(ヤベェ……仕事探さないと…………)
ヘロォワークに登録し、求人をペラペラとめくる。
――介護スキル持ち優遇!――
――土木スキル歓迎!――
――警備スキルで定年後も安定!――
(…………ハードル高くね?)
どのスキルも持ち合わせていない俺は求人検索を諦め、受付で俺が出来そうな仕事が無いか相談することにした。
「えー、っと……ペーヤ・ングゥさんですね? 本日担当させて頂きます【ワーカ・ホリィック】です。宜しくお願い致します♪」
胸の名札に『適職案内S』とスキル名が書かれた金髪美女に促され、俺は今の状況を赤裸々に語った。俺が元魔王討伐隊の一員だと知ると「すごーい!」と屈託の無い笑顔で褒めてくれ、クビになったと知れば「きっと素敵なお仕事見付かりますよ!」と俺を励ましてくれた。
「今の貴方にピッタリなお仕事は……在りませんでした!」
(……マジかよ)
適職案内のスキル持ちですら俺が最高に輝ける仕事を見付けることが出来ない事実。俺の人生終わったな……。
「貴方のスキル『カップ焼きそばの湯切りでシンクがベコッ!って鳴らない』は何処においても役に立ちそうにありません。ぶっちゃけこれ程にクソみたいなスキルを持つ方は貴方が初めてです♪」
先程までの屈託の無い笑顔が悪魔みたいに見え始め、俺は怒りで彼女をぶん殴ってしまう前にヘロォワークを去った…………。
(……今日寝る場所もねぇぞ?)
フラフラと街を彷徨い、時折『可愛いアルバイト募集!』と書かれた店に願い出るも、俺のスキルが役に立たないと知るや否や
怪訝な顔をして俺は追い出され続けた。
スキル絶対主義のこの世界では生まれながらにして天より授かるスキルこそが全て。1人一つ必ず授かる天よりの素敵な贈り物……の筈が俺のスキルだけは大外れ。皆に笑われ蔑まれ泥を啜って生きてきた。それが俺だ。
行く当てもなくフラフラと彷徨い続け疲れ果てた俺は、ゴミ捨て場の片隅で眠りに就くことにした。
──ギュルルル……
(腹減ったな…………)
何か食べられそうなゴミが無いか見渡すが、ゴミ捨て場には燃えないゴミしか無く、口に入れられそうな物は何一つ無かった。
(……ゴミすら食えねえのかよ。とことんついてねぇな)
ゴミ捨て場に転がっていたドラム缶の中に体を埋め、俺は静に眼を閉じる―――
──ドガシャァァ!!
「!?」
突如何かが崩れる音が鳴り、ドラム缶から頭を出すと街で魔物が暴れ回っており、住民が悲鳴を上げながら避難を始めていた。
「ヌフフフ! 魔王様に従わぬ者は纏めてすり潰してくれるわい!!」
人語を解する人型の魔物が街を破壊しながら人々に危害を加えている。口から炎を吐き出し辺り一面を焼き尽くしている。
「死を持って魔王様に服従を誓うのです!!」
罪の無い若者が捻り殺され、人々は我先にと逃げ惑う。
(マズい……! このままでは魔王討伐隊が来る前に被害が大きくなってしまう!!)
慌ててドラム缶から抜け出すが、今の自分は何一つ装備を着けていない事に気付き愕然とする。
(何か武器は……!!)
ゴミ捨て場を漁り、何か武器になりそうな物を探すも、鉄屑や蛍光灯しか見付からない。
(……ん? これは……!!)
目にしたのは1m四方の厚さ1mm程度の金属の板。ペナペナと曲がる頼りない板切れだが、今の俺はコイツに全てを賭けるしかなかった。
魔物は既に建物を幾つも破壊しており、俺が対峙する頃には犠牲者も多く出ていた。
「止めろ!!!!」
俺は金属板を手に持ち魔物の前に立ちはだかった!
「ムフゥ? なんですか貴様は……?」
「元魔王討伐隊……だ!!」
「ンン? 貴様の様な雑魚臭がする魔王討伐隊が居るわけがありません。嘘を吐いた罪で殺して差し上げましょう!!」
魔物が口から炎を吐き出した! 俺は咄嗟に金属板で炎をガードする!
「私の炎はあらゆる金属を溶かす灼熱の炎! そんな薄っぺらい板で……!?」
炎を受け止めた金属板は変化することも無く熱くもならず、俺は無傷で炎を凌いだ!
「な、何故です!? 何故なのです!?」
「ヤケクソで試したけど狙い通りで助かったぜ……!」
「その板は何で出来ているのです!?」
「Fe、それにCrとNiが少々……」
「!?」
「何驚いてんだよ……ただのSUS304だぜ?」
俺はしてやったりな顔で魔物の懐へと飛び掛かる。そして思い切り魔物の顔を殴り付けた!!
「グホォッ!! 小癪なぁぁ!!」
「ヨッシャァ! このままぶちのめしてやるぜ!!」
「チィッ!」
魔物が俺から距離を取り、再び炎を吐き出す。今度は青く先程よりも高熱の炎だ!
「何度やっても同じさ! スキル発動!!」
ステンレス板を手で押さえ炎へと向ける。
──ジュ……
「アッツ!! アチチチチチチ!!!!」
──ベコッ!
ステンレス板が熱で歪みベコッ!の音と共に俺は大火傷を負った。
「何故だ!? 何故防げない!?」
やはりステンレス板ではダメなのか!? シンクに流さないとダメなのだろうか!?
(やっぱり俺は追放されて当然か…………)
諦めて眼を閉じる。
(走馬灯のように今までの湯切りが目に浮かぶ…………)
「さあ、諦めて死ね!!」
魔物の足音がドシドシと耳に入る。そして俺の近くでピタリと止まった…………
「―――諦めないで!!」
「……!?」
「…………誰ですか?」
目を開けると、誰だか存じ上げない方々が立ち並んでいた。マジで誰?
「我々も追放者です!」
「クソスキル持ちです!」
「無職です!!」
思わず「何しに来たん?」と言いたくなる衝動を抑える。
「我々は一人一人ならクソの役にも立たないゴミクズだが!!」
(……自分で言うのかよ)
「皆で団結すれば戦える!!」
「いくぞ!!!!」
初対面の方々が魔物を囲み構えを取った。やる気満々なその姿勢はとてもクソスキルとは思えない。
「最強スキル『カップ焼きそばのフタを開けたときに中身がバカッ!って飛び散らない』発動!!」
…………は?
「最強スキル『カップ焼きそばにお湯を注いだ時にビチャビチャッ!って飛び散らない』発動!!」
…………はい?
「最強スキル『カップ焼きそばの湯切りの前にソースを入れてしまってクソッ!ってならない』発動!!」
…………はいぃ?
「最強スキル『カップ焼きそばの上に三分間漫画本を置いてもフニャ!っとならない』発動!!」
…………はいぃぃ?
「さあ! 次は君の番だ!!」
見知らぬ方々が並々ならぬ期待感で俺を見つめる。待て待て、マジで何をしてるんだコイツらは?
「早くしないと麺が伸びてしまうぞ!!」
「…………さ、最強スキル『カップ焼きそばの湯切りでシンクがベコッ!って鳴らない』……は、発動!!」
やべぇ、クソ恥ずかしいんだけど……
「良いスキル発動だったぞブラザー!」
誰がブラザーだ。誰が……。
「ブラザーに続け! 最強スキル『カップ焼きそばのフタを開けたときにキャベツがベタッ!っと張り付かない』発動!!」
…………帰りてぇ
「仕上げだ!! 最強スキル『カップ焼きそばのソースが万遍なく麺に絡まってウマイッ!ってなる』発動!!」
…………
「「さあ召し上がれ!!」」
魔物の前に置かれた出来たてのカップ焼きそば。それは完璧に仕上がっており見た目からして既に美味しそうだ。
──ゲシッ!
魔物はカップ焼きそばを蹴飛ばしポキポキと指と首を鳴らし殺る気満々だ。
「…………撤収ーーーー!!!!」
「おい! 待て!」
俺を置いて去って行く見知らぬ方々。
「……(#^ω^)フフ」
怒りを通り越して薄ら笑いを浮かべる魔物。
「待って! 置いてかないでよー!!!!」
俺はなり振り構わず見知らぬブラザー達を追い掛けた。
読んで頂きましてありがとうございました!!
(*´д`*)