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五つの虚言  作者: 千鈴唄
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一つめの嘘

ある男は自己の保身のために【嘘】をつきました。


男の名は齊藤敬文(さいとう たかふみ) 27歳

彼の母が「人を敬い、感性豊かな人間になるように」と願い付けられたものであった。

そこそこ良い大学を卒業したのち入った大手IT企業で、ようやく実力が認められはじめ重要な案件も任されるようになり出世コースに乗ることができるかどうかの彼の人生に置いて重要な場面であった。

ワンルームマンションで交際2年目の藤田晴香(ふじた はるか)25歳と同棲しており、結婚を考えはじめていた。


1月28日 その日の夜は特に寒く、彼女と小さなコタツに入りながら話していた。

「やっぱ結婚したら一軒家住みたいよなー、子供が生まれた時のこと考えるとこのマンションじゃ狭すぎるし」

彼女との幸せな未来に思いを馳せる。

「もぉ〜まだ結婚してもないのに子供なんて気が早いよ」

そう言いながらも彼女は満更でもないという顔をしていた。

これが幸せというものなのだろう。本当に子供が生まれたら二人の時間は少なくなり、すれ違いも生じてしまうのかもしれない。しかし、そのすれ違いもいつかは良い思い出となっていくのだろう。そんなことを思いながら、いつの間にか眠ってしまっていた。


1月31日 彼女と喧嘩をしてしまった。きっかけは些細なことだった。

仕事で疲れていた僕は家に帰り、コタツでウトウトしていた彼女を見て

「お前は良いな、一日中好きなことができて」

そんな言葉は決して言うべきではなかった。

「どうしたの?仕事で嫌なことでもあったの?」

呑気な顔でそう聞いてくる彼女に対して、僕は余計にイライラしてしまった。

思い出すだけで胸が痛くなるような、彼女のことなど一切考えていない言葉が口を突いて止めどなく溢れてしまった。

彼女は涙を一筋だけ流し「ごめんね」とだけ言って家を出て行った。

ふとコタツの上に目をやると、僕の好物のオムライスが2人前ラップがかけられ置いてあった。

突如として、罪悪感が頭を支配し、彼女の後を追いかけることもできず、うずくまりながら自己嫌悪をした。


2月1日 AM7:00 彼女は朝になっても戻ってくることはなかった。

仕事に行く気にはなれなかったが、職場での立場を考えると行かざるをえなかった。


2月1日 PM12:30 昼休憩になったので彼女に電話をかけてみることにした。

怒っていて電話に出てくれないのではないかと不安だったが、3コール後そんな不安はあっさりと裏切られ彼女はいつもの陽気な声で電話に出た。

「もしもし?ふみ君どーしたの?」

「昨日はごめん、疲労でおかしくなっていたんだ。本当はあんなこと思っていないよ。帰ってきてくれないかな?」

恐る恐る電話越しの彼女に尋ねてみる。

少しの沈黙の後、彼女は少し悲しそうにこう言った。

「ふみ君からみて正面の窓、見ててくれる?」

僕はなんのことだかよくわからなかったが、わかったと返事をして窓の外に目をやった。

もしかして会社の近くまで来ているのだろうか、そんなことを思いながら下の方を見ていると、上から何かが落ちてきた。

窓越しに目があったソレは明らかに、彼女であった。

直後に銃声にも似た鈍く重たい音が響き渡った。


2月1日 PM15:00 僕は彼女の自殺に関する重要参考人として警察署で取り調べを受けていた。

僕は怖かった。彼女の自殺が全て僕のせいになってしまうことが、全てを失ってしまうかもしれないことが...

だから僕は、嘘をつくことにした。世間から同情してもらえる被害者になることにした。

「2月1日は晴香さんとどのような会話をしたんですか?」

と強面なおっさん刑事から尋ねられる。

僕は目に涙を浮かべながら言った。

「あの夜、彼女は僕に浮気を告白してきたんです。つい出来心だったと言っていました。僕は感情が昂ってしまい、彼女に別れたいと言ったんです。そしたら彼女は泣きながら家を出て行ってしまいました。あの時、僕が彼女を許していればこんなことには...」

強面の刑事は同情したような顔で心中お察ししますと言い。僕は解放された。

友人たちにも同じ内容で話をした。彼女の両親はこの話を信じようとしなかったが、何も証拠がないのであまり詮索されることはなかった。

しかし、ただ一人だけ、僕の話が嘘だと知っている人物がいた。

そのことをあの時の僕はまだ知らなかった。

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