それは始まりの合図として、そして終わりの始まりとして
遠目で見ていたその出来事に、見て見ぬふりをして。
近くで起きたその出来事に、知らないふりをした。
自分に起こるその出来事には、嘘を吐くだろう。
誰にも言えない言わない。
自業自得だと嘲笑うように私が誰かに言ったように、私にも誰かが自業自得だと嘲笑うように言うだろう。
高橋先輩と遊んだ日から、ずっとメッセージのやりとりを続けていた。
毎日メッセージが来ているか確認しては、部活に励み、そして返信をするというのが夏休みの1日のルーティンだった。
高橋先輩はもう部活を引退していたので、部活に来ることはほとんど無かったけど。
たまに顧問の先生に挨拶に来たと言って、顔を見せに来ては、ちらりとこっちを見て微笑んでくれるだけで嬉しかった。
高橋先輩と付き合って4日目の昼、いつも通り練習をしていると、こそこそと先輩の話が聞こえてきた。
「ねぇ、そろそろ言った方がいいよね。」
「あれは絶対付き合ってるから、言おうよ。」
そう話しているのは、2年の水島 凛先輩と同じく2年の松岡 綾乃先輩だった。
2人とも2年生の中でもリーダーと副リーダーで、よく私たち新入生を教えてくれている。
その松岡先輩と水島先輩が話している内容はだいたい分かるし、それが誰を指しているのかもわかる。
だって新入生の中でも知らない人はいないからだ。
話している内容は部内恋愛について。
そしてその部内恋愛をしているのは、新入生の徳田 唯斗と同じく新入生の川内 彩花だ。
本人たちは、していないと言っているけど、見ていたらわかる。
付き合ってないわけがない。
なにせ私は手を繋いで歩いているところを見つけてしまったし、部活が休みの日、たまたま一緒に遊んでいるところを見てしまったのだ。
それに、川内とよく話す仲なので本人から聞いていた。
徳田と付き合っているのだと。
徳田は、工業科で見た目はヤンキーだが、身長が156cmある私より低い。
優しいけど、どこかチャラい。
初めて見た時は絶対に関わりたくなかった。
一方で、川内は私と同じ総合学科で隣のクラスにいる。
可愛いが、性格が悪い。
よく愚痴っているところを見る。
そんな2人は、部活に入って2日程で仲良くなり、いつも一緒にいることが多かった。
それに、部活が終わると築城坂町のスーパーで待ち合わせをしており、ばったり私が2人に会ったところから、私と川内と徳田は知り合った。
あの時はすごく気まずかった。
見つけてしまった時、あっ、と声を出してしまい、2人は気づいてなかった私の方に向いた。
しまった、やっかいなのに関わってしまったと後悔してる。
別に2人のことが嫌いではないけど、巻き込まれたらたまったもんじゃない。
そしてある日、川内と2人で帰っている時に言われた。
「私、徳田と付き合ってるの。」
あ、はい、知ってます、ていうか、一緒にいたの見たし見られたの知ってますよねと言いたかった。
「でもね、徳田ってさ、優しいじゃん。女の子にも。でも私的に、あんまり女の子と話して欲しくないし、ほかの女の子2人で一緒にいるとかやめて欲しい。」
滝のように流れてくる徳田の悪口を聞きながら、うんうんと頷く。
「この前徳田にその事言ってさ、やめてって言ったんだけど何も変わってないの。ねぇ、どうしたらいいかな。」
いや、わからないです、はい。
心の中で思いながらも、笑顔を見せて、川内と話す。
「うーん、わかんないけど。」
私は恋愛経験が豊富なわけでもないので、答えることはできなかった。
相談された次の日、部活に行くといつも一緒にいる川内と徳田は話もしなければ相手のことを見もしなかった。
これは何かあったなと直感で気づき、様子を見ながら部活に励んだ。
川内と徳田は怒っているようだった。
多分ケンカしたんだろう。
まぁ大丈夫だろうと、部活が終わって1人でさっさと帰っていると、川内が追いかけて隣に来た。
「一緒に帰ろ。葉月。」
有無を言わせない少し刺々しい感じで川内は言った。
「いいよ。ねぇ、どうしたの?徳田と何かあった?」
聞いてみた方が早いかなと思った私は、いつもより無表情な川内に尋ねる。
「ケンカしたの。この前言ったじゃん、女の子と、あまり関わらないで欲しいってことさ、徳田に言ったら怒って。」
「なんて言われたの?」
「『彩花はいつもそう言うけど、彩花だって他の男とよく遊んでるじゃん。』って。」
そう、徳田の言うとおり。
川内も他の男の子とべったりにくっついて話したりしてる。
人のこと言えたもんじゃなかった。
「別れようかな、別に徳田じゃなくても仲良い男子いるし、もうギスギスするの嫌だから。」
「最近、天野と仲良いよね。」
天野とは、同級生で1年生の中でのリーダーである天野 龍輝という男子で、イケメン。
なんでも出来るところから、部長候補として話が上がっているとか。
徳田と同じ工業科で、運動神経が抜群ではあるけど、成績はとても低いらしい。
徳田と一緒に私たちより後に部活に入部してきて、徳田ととても仲がいい。
「そう。毎日メッセージのやりとりしてるんだ。」
楽しそうに言う川内はもう徳田の話はしなかった。
多分その次の日からだと思う。
今まで当たり前のように話していた徳田と川内は、一緒にいることはなく。
徳田から話を聞けば川内の悪口が、川内は天野と一緒にいることが多くなった。
流石にこれは後々面倒な展開になっていきそうだったので、天野と仲がいい同級生の高橋 竜也に、コソッと相談をした。
竜也は、天野と徳田とも仲が良く、コンピュータービジネス科の中でも身長がとても高い。
178cmぐらいだとか聞いたことがある。
女子に対しても男子に対しても悪ふざけで叩くことがあるが、その威力が破壊級。
私は常に怪物と呼んでいる。
その度にひどい目に遭うけど。
でも普通に良い奴なのだから何も言えない。
天野と徳田と川内の三角関係について言えば、やはり竜也も分かっていたようで深刻そうな顔で頷いた。
「川内とのことで、天野と徳田の関係が悪くなってきてる。前はめっちゃ仲良かったのに。」
「やっぱり?」
「今は黒木が仲裁に入ってるような感じかな。でもあいつも優しいから、何も言えないみたいだけどね。」
新入生の中で真面目で明るいタイプの黒木 裕馬。
徳田と天野と一緒の工業科で、いつもはその2人とともに行動している。
あまり私自身も喋ったことがなく、よく知らない。
「このままだと、多分嫌な雰囲気になると思うんだよね。あの3人だけじゃなくて、周りを巻き込んでいくタイプ。」
「先輩たちも目をつけてるし、さっさと解決してくれよって思うわ。」
解決できないような気がするなと、心の中で思う。
雰囲気というか、女の勘というか。
多分これはあの3人の関係が悪くなって、終わるか。
天野と川内がくっついて、徳田と関係が悪くなるか。
どちらを考えても多分良い方向には進まない。
「様子を見る?俺たちじゃ、何も出来ないってのが現状だし。」
「そうだね。」
見守ることしか出来ないけど、どうか穏便に解決して欲しい。
その日はしばらく様子を見ることで話が終わった。
そして、次の日。
朝からの部活の練習で登校していると、川内と電車が一緒になり、そして川内は何気ない顔で話し始めた。
「別れたんだ、徳田と。それでね、天野と付き合うことになったの。今まで持ってた徳田とお揃いのペンダント、天野に徳田へ返してきてもらった。手紙と一緒にね。」
そこで私は急に凍りついたように川内を見続けた。
今、何と言った?
別れた徳田に、付き合った天野が、徳田が川内とおそろいだったペンダントを渡した?
そして手紙まで?
なんて事だと思った。
今付き合ってる彼氏が元彼に名残を渡したということか。
多分徳田は怒ってる。
何故天野も受け取って、それを渡したのか分からない。
部活に行けば、やはり昨日よりも関係の悪くなっていた天野と徳田が見えた。
あぁ、やっぱり。
それが心の中で呟きとして消えた。
1人の女の子は仲良かった2人の仲を引き裂いているようで。
あんなに仲良かったのに、と周りの人はそう言う。
仲良かった2人を見るのが好きだった。
兄弟のように、いつも一緒にいて。
あぁ、どうしてと他の人は言って、目を伏せて。
私はそれをただ見ることしかできず。
3人が仲良くなる未来は、どうやら無かったみたいだった。
今回からは主人公の同級生の話にしてみました。
やっぱり周りの流れってのも話が進んでいく上で大事なことだし、そこからどんどん繋がっていくっていうのもいいかなって思います。
最初は2回目のデートの話をしようかなって思っていたのですが、それはまた先になりそうですね笑
どんどんアイデアが浮かんでくるので、それを忘れないように、そして本来の終わりに近づいていくように物語を進ませていきます。
今日は暖かくて晴天でとてもいい気温でした笑
また次のお話もよろしくお願いします。