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第71話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(5)〜


最初は語り風(?)でいきますよ〜。


それじゃあ今回も〜。

よろしくどうぞっヽ(・∀・)


 




 昔々、あるところに。

 《ノル海賊団》という海賊がいました。


 その海賊団は確かに、海の荒くれ者ではありましたが……決して善良な人々を襲うことはありませんでした。


 彼らが襲うのは同類ーーつまりは同じ、海賊。


 そう……この《ノル海賊団》の一味は、海賊から奪ったお宝を元の持ち主の元へ返してやったり、金品は行く先々の貧しい人々のために使うような、俗に言う〝義賊〟と呼ばれる者達だったのです。


 しかし、そんなことをしていれば他の海賊から怨まれるのは必然。

 そのため、彼らは海賊を捕まえようとする海軍のみならず……他の海賊からも狙われるという、とても危険な日々を送っていました。

 …………まぁ、彼らは1人1人がとっても強いですし?彼らの船、サンタ・ポラリス号は凄く良い船で、追われても逃げれてしまうので。

 そんな日々でも、なんとかなってしまっていたのですが。


 でも、そんな日々もある日、当然に終わってしまいます。

 彼らの船に新たに乗り込んできた新人。気さくで、お調子者で、直ぐに船に馴染んだその男が……ノルを殺して、その船を乗っ取ってしまったのです‼︎

 来るもの拒まず、という《ノル海賊団》のポリシーが悪い方向に働いてしまったようです。

 男は死んだノルから船長の衣装を奪い、その身に纏い、船員達に自分が新たなサンタ・ポラリス号の船長だと宣言しました。

 ノルを慕っていた者達はそれに逆らいましたが、男によって殺されてしまいました。

 仲間が殺された恐怖から男を受け入れた者は、船員として船に残してもらえましたが、奴隷のように扱われるようになりました。

 そして、何より変わったのは……男の方さんによって、彼らが善良な人々を襲うようになったことでしょう。


 そうしてその海賊団とサンタ・ポラリス号は悪名高き悪党へと変わってしまいました。



 けれど、新たな船長の命令で豪華な客船を襲った日ーー全てが()()()ます。

 その客船の中にあった《呪われた宝》を手に入れてしまったからです。

 それは、金剛石の装飾が施された黄金の杯でした。見た目だけで言えば、とても豪華なお宝でした。

 しかし、その杯は……所有者の願いを、()()()()()叶える《呪いの杯》。

 《呪いの杯》は男の心の底にあった〝不老不死・沢山の宝を手に入れる・最強の力〟という欲望を、〝死なずの体(グール)・倒されればダンジョンアイテムをドロップする(ドロップアイテム=お宝)・魔物として強くなる〟というカタチで叶えたのです。


 とばっちりを受けたのは、死んでいる元船員達とサンタ・ポラリス号でした。

 なんせ……もう既に死んでいるというのに。自我のないグールとして強制的に蘇させられて、本能ーー食欲ーーから人を襲うようにさせられてしまっていますし。

 サンタ・ポラリス号に至っては、魔物の棲家として相応しくなるように、大海原に沈没させられ、変わり果てた姿へと無理やり変えられてしまったのですから。

 これがとばっちりと言わずしてなんと言いましょうか。


 そんな可哀想な彼らですが、救いがない訳ではありません。

 どうしてだかグールではなく、自我がある幽霊として蘇ったノルが『ちょっと⁉︎どーゆーことよっ、コレェッ⁉︎』なんて絶叫しながら、彼らを救うべく行動しているからです。

 とは言え……所詮幽霊なので、ノル1人ではなぁんにも出来ないのですけれど。


 だから、どうか。

 もしも、このサンタ・ポラリス号に迷い込んだ人がいるならば。


 憐れな彼らをーーいや、1人だけちょっとノリが違う元船長はいますけど……ーーを救うために、どうか手を貸してあげてください。



 彼らは今も、広い広い海の底で……救われる日を待っているのですから。




 *****




「なんか流れたんだけどっっ⁉︎」



 あたしは思わず叫ぶ。だって、仕方ないだろ⁉︎

 ノルを連れて上の階に上がったら‼︎壁から声が聞こえてきてっ‼︎ついでに壁に映し出された絵が動いて、この船が沈没した由来(?)を説明し始めたんだから‼︎

 これが驚かずにいられると思うかい⁉︎無理だよっ‼︎


『ポラリスが語ってくれてんのよっ‼︎おれらの身に起きた悲劇をねっ‼︎』


 〝お〜いおいおい……〟と嘘泣き(?)するノルが朽ちた船の壁に頬をスリスリしながら、そう言う。

 あっ……一応、さっきのは実際にアンタの身に起きたことなんだ……?

 ………………いや、でも。ちょっと待っておくれ??

 ノルは、ダンジョンが造った存在で……。ダンジョン内なのに、裏切られて殺されるとか……あるのかい?

 それじゃあ……このダンジョンの中でも、あたし達みたいに生きている人がいるってことになーー……。



「そこまでだ、リリィ嬢。それ以上は、考えてはならぬよ」



 ーーふと、目元を大きな手で覆われる。

 真っ暗になった視界。普通だったらダンジョン内(こんなところ)で目隠しするなんて、自殺行為なんだろうけど。

 でも、スイレン陛下がいてくれるから不安はない。

 だからあたしは、その安心感に包まれながら……なんであたしの考えてたことを見抜いたのかな、って考えていた。


「…………スイレン陛下?」

「意志あるモノに会った時点で、教えておくべきであったな。ダンジョンにおるモノ達のことを、深く考えてはならんのだ。リリィ嬢」

「…………なんで?」


 純粋な疑問だった。

 だって、ノルが語った過去(?)は、嘘のように思えない。多分、本人ノルが本気でそんな過去があったって認識してるからだと思う。

 なら、ダンジョン内にもあたし達みたいに生きてる人がいるってことになるだろう?

 なのに……なんで。なんで、深く考えちゃいけない?


「…………確かに、ノル殿が語ったのは嘘のようには思えぬよな。ダンジョンは未だに未知の部分が多いし……儂らが認識、理解出来ぬところも多々あるであろう。彼が語ったことが真実なのか偽りなのか。それも定かではない。しかし、それでも。それ以上は駄目だ。駄目なのだよ、リリィ嬢。ダンジョン内におるモノに、感情移入し過ぎると…………()()()()()()()()()()()ぞ」

「⁉︎」


 思わずギョッとして、陛下の手を剥がす。

 あたしは驚きを隠さずに、後ろを振り向いた。


「ど、どうゆうことだい……⁉︎」

「時々おるらしい。ノル殿のような存在に感情移入をし過ぎて……ダンジョンに呑まれてしまう者がな」

「の、呑まれる……?」

「そうだ。〝彼らを置いていけない。見捨てられない。共にいてあげたい〟そんな風に一度でも考えてしまうと……ダンジョンはその者を外に帰さない。捕らえてしまうのだとよ」

「…………はぁ⁉︎そんなことが、あるのかい⁉︎」

「あぁ。実際にあったのだ、そんな事件がな」


 陛下曰く。

 とある冒険者パーティーにいた1人の男が、ノルのようなダンジョン内の攻略を助ける存在ーーここでは分かりやすいように、村娘と称するーーに恋をした。ダンジョン攻略ってのは、ダンジョンの難易度で何ヶ月もかかることがあるから……共に過ごす時間が長かったから、情が移ってしまったらしい。


 その結果、どうなったかーー?


 ダンジョンボスのキマイラーーその時は、村娘の村を滅ぼしたキマイラを倒して欲しいといった話だったらしいーーを倒した後に出現するダンジョン脱出用ゲートに、その男は()()()()しまったのだ。

 仲間達が、男がいないことに気付いたのはダンジョンに脱出した後。つまり、地上に戻った時。最後の別れを交わすために、男の脱出が最後になっていたのが仇となった。

 彼らは慌ててもう一度同じダンジョンに潜ったが……次に戻った時には村娘は、その男のことなど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。仲間達が男はどこだと募ろうが、村娘はただただ〝その人は誰?〟と困惑するだけだったらしい。

 そうして彼の仲間達はダンジョンを隅から隅まで探したが……男は遂に、見つからなかった。


「……男が消えたのには、他の要因があったのかもしれない。けれど、ダンジョンで姿を消したのは確か。そして、他の仲間達と違うのは……その男がダンジョン内の存在に想いを寄せていたこと。それが帰った冒険者一行と、帰れなかった男の違い。可能性としては捨てきれぬ。ゆえに、ダンジョンにいる存在には情を寄せてはならぬーーという不文律が出来上がったのだよ」

「…………」


 そんな話を聞かされたら、あたしは絶句するしかなかった。

 ダンジョンってのは命の危険がある恐ろしい場所だとは知ってたけど……まさか、そんな危険もあるだなんて。普通、思いもしないだろう?


「だからな、リリィ嬢。必要以上にノル殿に感情移入してはならんよ。お主はちと、感性ーー共感性が強過ぎるし、無駄に優し過ぎるからな。儂は……不安だ」


 そうなの、かな……?自分のことなのに、あたしじゃ分からない。

 でも……スイレン陛下がそう言うなら、そうなのかもしれない。


「儂は、お主と共に帰りたいのだから……だから、気をつけてくれ。儂1人で、帰らせてくれるなよ。リリィ嬢」


 掴まれた手。懇願するような声。

 触れている陛下の身体が、微かに震えている。

 つまり……それぐらい。スイレン陛下から見るあたしは、ノルに必要以上に感情移入してしまいそうだってこと。

 でも、そんなこと言われても……あたしはどうしたらいいか分からなかったから。



「…………気をつけるよ、陛下」




 今のあたしに出来るのは、ただ、そう答えることだけだった。







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