第69話 第1回ダンジョンアタック〜フリージア&グランヒルト(4)〜
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中々に暴力的な中ボスバトルーー放送規制が入りそうなフルボッコをやって約1時間後……。
冷静さを取り戻した私達はサハギン王が座っていた王座に残されていた鍵を手に入れ、台座裏に現れた門を潜り抜けたわ。
潜り抜けた扉の先は、とても広い広間だった。
中央に天使像の噴水が設置されており、そこから蔦のような模様が広間中に刻まれている。広間の左右には、3本ずつ立っている真っ白な柱。
そして……中央奥には、3つの鍵穴がある巨大な扉。
つまり、ここがラスボス前の最後のセーフティエリアーー他のコースとの合流地点ってこと。
1番乗りで合流地点に到着した私とグランは、他の2チームが来るのを気長に待つことになったわ。
ーーという訳で。
「拠点構築するわよ‼︎」
「と言っても、必要なモンを出すだけだがな」
ーートスッ。
そう言った私の前で、グランが亜空間から布の袋を取り出す。
そこに入っているのはダンジョンアタック前に準備しておいた簡易野営セット(毛布、携帯食料、マグカップ)。ついでに薬缶と火の魔鉱石を出して、グランは薬缶を渡してきた。
「水汲みよろしく。俺は場所の準備しておくから」
「えぇ。分かったわ」
薬缶を受け取って《回復の泉》から直接水を掬う。
たっぷりの水が入ったそれを持って彼の下に戻ると、グランはピクニックシートの上に床冷しないようにラグを敷いていた。
「グラン」
「ん?あぁ、ありがとう。はい」
グランがポイッと〝ソレ〟を投げてくる。
パシっと受け取ったのは、赤い石ーー火の魔鉱石。
魔鉱石を薬缶の中に入れる。魔力を通して熱を発生させる。そうすると一瞬でポコポコッ……‼︎と水が沸騰した。
「リジー」
「ありがとー」
グランから差し出されたのは、ティーパックが入ったマグカップ。
溢さないように気をつけながらお湯を注げば、準備完了。
毛布を丸めて背凭れにしたグランは、それに凭れかかるように座り、マグカップの底で自身の膝を叩く。
私は彼の足の間に座るように寄りかかって、マグカップを受け取ったわ。
「んじゃあ、ひとまずお疲れ様。乾杯」
「かんぱ〜い」
カチャンとカップの縁を合わせてから、薄茶色の液体に口をつける。
喉を通る温かい感覚に、私はぐでーんっと脱力した。
「ふぁ〜……あったかい〜。美味しいわ〜……」
紅茶に生姜が入ってるのかしら?ちょっとピリッとするわね。
でも、すっごい辛い訳じゃなくて……蜂蜜の甘味もあって、程よい感じに辛さが調整されてて美味しい。
「これ、結構美味いな。後でブロッサムさんに感想言いに行こ」
「えぇ。そうしましょ」
マグカップをそこら辺に置いて、亜空間から取り出したティーパックが入った袋の裏(※成分表)をマジマジと読むグラン。
今、私達が飲んでいる紅茶。これ、ブロッサム商会(※分からない人は第34話あたりを参照してね(笑))の試作品だったりするわ。
この世界って前世ほど紅茶文化が発展してなかったっていうか……。フレーバーティーの種類がそんなになかったのよね。
だから……。
作ってもらっちゃった☆(てへぺろっ☆)
人の縁ってどこで何が役に立つか分からないと思わない?
かつて護衛したブロッサム商会の商会長であるブロッサムさんに、『こんなの作って欲しいの〜』とお願いしたらあっさりやってくれたわ。
おかげで、フレーバーティーが増えた増えた。今じゃ私達がこんなの飲みたいって言わなくても自ら開発するほどに人気商品になってるらしいわ。ブロッサム商会の主力商品とも言われているくらい。
そんな過程で出来上がったフレーバーティーの試作品は、出来上がるごとに私達にも手渡される。なんでも私達がお願いしなかったらここまで売れることも、流行らなかったから、とのことよ。
でも、あんまり無料で貰うのも悪いじゃない?
だから、お金を払おうとしたんだけど……受け取ってもらえなくて。
最終的に、私達の感想(という名の商品評価)を返す=商品開発に協力する代わりに試作品を貰うというカタチに落ち着いたわ。
閑話休題。
美味しい紅茶でぽかぽかと身体が温まって、ダンジョンの中だというのにまったりモードになる。
そんな私の座椅子になっているグランは、肌が露出している部分を撫でながら「あ〜……やっぱりな〜」と呟いた。
「ダンジョン内は温度調整がされてるっぽいけど……それでも水ん中潜ったからか。少し身体が冷えてる」
「あら。そう?」
「リジーは冷え性気味だからな。それに慣れてるから、身体が冷えてるのに気づいてなかったんだろ。とにかく温かくしろよ。お前1人の身体じゃないんだからな」
「ぶはっ⁉︎言い方‼︎い・い・か・た‼︎他人が勘違いするような言い方しないの‼︎」
そんな風に言ったら、私がにっ……妊娠、してるみたいじゃないのっ‼︎
してないからね⁉︎⁉︎
「でも、実際にその通りだろ?リジーがいなきゃ俺は生きてけないんだから……自分のこと大事にしてくれよ?」
けれど、慌てる私に反して、グランは真っ直ぐにそう告げてくる。
…………んもぅ。
グランって……いつもサラッとしてるように見えて、いきなり特大級の爆弾をブン投げてくるんだから、困ったモノだわ。
でも、心の底から本気でそう思っているのだから、仕方ない。
私はお腹に回ったグランの腕をペシペシッしながら、偉そうに告げたわ。
「なら、グランも私を大事にすることね。そうしたらもっと、私は損なわれずに貴方の側にいれるわ」
「当然。甘やかして、大切に大切に可愛がって……俺から離れられなくさせる」
「重ッ⁉︎本当にいきなり重い言葉を全力投球してくるわね⁉︎」
「そんだけ愛してるってことだぜ、リジー」
ーーにっこり。
目が笑ってないという本気が滲みながらも、どこか胡散臭い笑顔。
…………あ〜……。
その顔を見て、私はグランがどうしてこんなことを言ってきたのかを、理解してしまう。理解して、しまった。
「グラン」
「ん?」
「…………不特定多数への牽制は、ほどほどにしなさいね」
「んー?」
「しらばっくれないの‼︎ダンジョン攻略中継中でしょ⁉︎」
「…………ちぇっ。バレたか」
笑顔のままで舌打ちを零すという無駄に器用なことをするグランに、私は溜息を零す。
今、私達のダンジョン攻略はアクス王国全土に中継されている。つまり、不特定多数に見られている状況。
グランのこの言動は……その不特定多数に私は自分のモノだと見せつけているーー牽制してるの。
それが分かってしまえば呆れずにはいられない。私はもう一度溜息を零して、偉そうに彼の身体に凭れかかった。
「馬っ鹿ねぇ〜?牽制なんてしなくても、私は貴方のモノでしょうに」
「そうだけど……リジーは良い女だし、可愛いだろ?いつ、どこで誰がお前に惚れて、攫おうとするか分からないじゃん」
「攫おうとする奴が出てきたら、半殺し……いいえ、瀕死にまで追い込むつもりの癖に、何言ってんだか。呆れるわぁ」
そう易々と私を奪われるつもりもない癖に何言ってるのかしらねぇ?
実際にそんな奴が出てきたら、グランは容赦なく潰すでしょう。それぐらい……グランは私のことを愛しているもの。これは自惚れではなく純然たる事実よ。
それに……グランは私を裏切らない。必ず娶らなきゃいけない。
もし私以外を愛そうものなら。私を傷つけるようなら。死ぬっていう契約を国王陛下と私のお父様と交わしている。
だから、私達はどうしようが結婚するしかないんだから、牽制なんてしなくてもいいんじゃない?と思ってしまうわ。
「あっはは‼︎そりゃ当然、俺からリジーを奪おうとする輩なんて絶対に許さんけど。でも、最初っからそんな気を起こさせない方が楽だろ?だから、牽制はいくらしても良いんだよ」
にっこりと笑うグランはやっぱり、目が笑ってない。めちゃくちゃ黒い笑顔だったわ。
でもまぁ……その言い分には一理あるわね。
「なら、私もグランを奪われないように……牽制しなくちゃいけないかしら……?」
「…………えっ。リジーさんも牽制してくれる感じで?」
ポツリと呟いたのに、無駄に耳聡いグランは目をキラッキラさせながら私の顔を覗いてくる。
だって、そうじゃない?
グランはただでさえ女の子の憧れである王太子で。
今日、強くてカッコいいってところをいーっぱい見せちゃってんだもの。
きっと、貴方に惚れる人も出てくると思うの。
だからね?私も貴方を奪われないよう、牽制した方が無駄な労力を割かなくて済むじゃない?
「…………」
「リジー?」
「取り敢えず、グランがやろうとしてた牽制をやってみてくれる?参考にするから」
「‼︎」
ーーキラーンッ。
光った(ように見える)グランの瞳。
ニンマリと笑うその顔に、私は自分の失敗を悟った。
「あっははははは。馬鹿だなぁ〜リジーは。俺のを参考にするから牽制してみてくれだなんて……何されても文句言えないぜ?」
「ちょっと待って。待ちなさい、待つのよ⁉︎言っとくけど、人様に見せられないようなことは駄目だからね⁉︎分かってんでしょうねぇ⁉︎グランッ‼︎」
「おうおう、任せろ任せろ。リジーのかっわいいとこを他人に見せるのは嫌だからな。だから……見せ過ぎないようにしながら……でも、他人が俺らの間に割り込む気が起きなくなる程度に、イチャイチャしような?」
あぁ、本当に……私の馬鹿。
こうなったグランは、私ではどうにも出来ない。
「全然っ、任せられる気がしないのだけどっ⁉︎⁉︎」
私の心からの叫びは、無駄に響いただけだったわ……。




