第7話 どうやらお仲間らしいですぞ
今後もー、よろしくどうぞ‼︎
「まぁ、ソーデスネとは言ったが実際に抜け出さないとは言ってないからセーフだろ」
………なんて言いやがったのはグランさんです。
はい、今日も今日とて分身の魔法で冒険者ギルド(クエストボードの前でクエストを選択中)に来てます。
「………そーいうの、屁理屈って言うんじゃない?」
「そうだぞ?何を今更」
グランはサラッと肯定する。
模擬戦の後、私達には家庭教師がつくことになった。
まぁ、言動が実年齢よりも上だし……剣技や魔法がそんじょそこらの騎士よりも強いからね。
で、普通だったら剣技や魔法系の家庭教師は別々につくんだけどね?
二人揃って論外だから、二人一緒にらしいっす。
まぁ、どうせいつかは王妃教育で王宮に通わなきゃいけなかったらしいからそれが早まったと思えばね。
「てか、どうする?」
「何が?」
「俺らのステ的にここのクエスト緩くね?」
「うーん……」
腕の中のアースを撫でながら考える。
ここら辺のクエストはゲームの始まりだから、初心者向けで。
だから、既にステ的にエンディングレベルになってる私達には簡単過ぎるんだよねぇ。
「………最終手段はギルド通さずに冒険するか?」
ボソッと呟いたグランの意見も一理あるね。
ギルドランクの所為で高ランククエストは受けられないし。
「うーん……」
「君達」
「どーする?グラン」
「君達っ」
「仕方ないから取り敢えず、クエスト受け……」
「君達っっ‼︎」
………敢えてスルーしてたんだけどね。
私達は怪訝な顔で振り返る。
そこにいたのは、騎士服に身を包んだまだ若い青年。
黒髪黒瞳の、至って普通の人だった。
「何?」
グランが警戒するように私を背に庇う。
私もいつでも魔法が発動できるように、準備した。
しかし……。
「いや、君達みたいな小さな子がギルドにいるのは珍しいからね。何か困りごとかと思って」
「「…………」」
どうやらいい人らしい。
思わず気が抜けた私達は、処世術ばりのお子ちゃま仕様笑顔で答えた。
「だいじょーぶです‼︎お兄ちゃん、ありがとう」
「あ、いや……いいんだ。単に気になっただけだから…もしクエストに行こうとしてて、2人じゃ怖いって言うなら付き合うよ?」
………え、何が目的?
理由もなくクエストに同行するとか、どういうこと?
グランも目の前の青年が胡散臭くなったのか、怪訝な顔をした。
「しらない人にそんなこといわれても……」
「あ、ごめん‼︎オレの名前はマキハラ・カズト。違う大陸から来たんだ」
「「………………」」
ステイ。
ちょっと待てい。
今、こいつの名前……なんと言った?
「………ちがう大陸って?」
「第Ⅲ大陸だよ」
「お兄ちゃんみたいな名前、めずらしいね。その大陸のひとに多いの?」
「あー……それはちょっと違うかな。違う大陸から来たと言っても、オレはその大陸出身じゃなくて、日本って国……って言っても分からないか」
はい、アウトーっ‼︎
こいつ異世界転生or転移者だろっっっ‼︎
グランもなんとなく察したのか、私の耳元に口を寄せて内緒話モードになった。
「こいつ、見た感じ日本人顔だし……転移者か?」
「多分」
「どうする?俺らのこと話すか?」
「えー……」
はっきり言って面倒くさい。
つーか、乙女ゲームの世界じゃないのか。
なんで日本人の転移者がいる?
色々と要素を詰め込み過ぎだよね。
……あー…やっぱり話した方がいいのかなぁ……。
「…………はぁ…仕方ないけど、話そっか?グラン、お願いできる」
「おけ」
グランは私の手を握り、マ………マキハラさんを見上げる。
そして、いきなりブチ込んだ。
「あんたのあだ名、マッキーとか多そう」
「いや、私も思ったけどいきなり言うなよ」
「そのマッキーというあだ名をペン系と取るか、芸能系と取るかが悩みどころだよな」
「クッソどーでもいいことに悩むな」
「っ⁉︎」
マ…マッキーさんでいいや。
マッキーさんはグランの言葉にギョッとする。
そして……目を輝かせた。
「君達もしかしてっ……」
「騒ぐな。取り敢えず……ここじゃ目立つからな。行くぞ」
グランは私の手を引いて歩き出す。
マッキーさんも後からついてくるようだ。
しかし、子供の歩く歩幅なんてタカが知れてるからね。
グランは面倒になって、私をひょいっと抱き上げた。
イ・ヤ・な・よ・か・ん。
「防御魔法を」
「うぃっす」
「マッキー。本気で走るから……気合いでついてこいよ」
「え、あっ……うん‼︎」
防御魔法が発動した次の瞬間。
グランは風になった……。
*****
「うぇぇ……キーモーチーワールーイー……」
ジェットコースター並みに暴れたグラン宅急便は、いつもの魔の森に入ったら止まってくれた。
視界がぐわんぐわんする……。
アースは楽しかったのかキャッキャしているけどね……。
「ごめん、ちょっと飛ばし過ぎた」
「お前……速度のステのこと考えろよ……」
「マジでごめんってば」
グランはまた地面に胡座をかいて、私を膝の上に横抱きする。
絆されないからな、畜生‼︎
そうやって頭をなでなでされていたら……数十分遅れでマッキーさんがやってきた。
肩で息してるし、もう死に体なんだけど。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
「大丈夫か?マッキー」
「はぁ…はぁ……だ…じょ…び……」
「何言ってるか全然分からないな」
グランは怪訝な顔をするけど、マッキーさんのことを考えずに走ったグランが悪いよね。
お疲れ‼︎
地面に膝と手をついていたマッキーさんの息がやっと整ったところで、私達は話し始める。
「オレの名前は牧原数人。19歳の日本人。高校2年生のある日、この世界に勇者召喚されたんだ」
………あれ?
勇者召喚ですと?
つまり魔王を倒す感じだよね?
………もしかして、この大陸の魔王を?
「俺はグランだ。こっちはリジー。冒険者をしている」
私が考えモードに入ったからか、グランが代わりに自己紹介してくれる。
ありがと。
「え?でも……」
「俺達は異世界転生組だよ。だから、産まれた時からグランとリジーとして生きているから、もう前世の名前も思い出せない」
そうなんだよね。
この世界で生きていくためなのか……前世の個人情報が思い出せないんだよ。
マッキーさんは申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん……無粋なことを聞いて……」
「いや、大丈夫だ。で…マッキーが……」
「マッキーさんがこの大陸に来たのは、魔王を倒すため?」
グランの言葉を遮って私が聞く。
すると……マッキーさんは悔しそうな顔をした。
「………本当は…倒せたらよかったんだけど……この大陸の魔王はこの大陸の人じゃなきゃ倒せないんだ。オレが相対したところで攻撃が通らない」
「………成る程…」
つまり、マッキーさんが魔王を倒そうとしても無理ってことね。
なら、一安心だわ。
「てか、じゃあなんでマッキーはこの大陸に来たんだ?」
グランの質問に、マッキーは頬を赤くしてたじろぐ。
お?
「その……嫁さんの実家に挨拶を……」
「あ、そうなのか……おめでとさん」
「19歳で結婚とか早いね‼︎おめでとう」
「……あはは…ありがとう……」
嬉しそうにするマッキーに、ふと思う。
「あれ?でも…なんで結婚の挨拶に来たのにギルドにいたの?」
「……ん?あー……人数が多いから旅の路銀がなくなってさ……」
「人数が多い?」
「ナターシャの家に挨拶に行くだけなのに他の子達も一緒に行くことになって、8人旅なんだよ」
「「…………え〝?」」
それを聞いた私達は身体を寄せ合って、マッキーさんから距離を取る。
いや、だってさ?
こいつ、なんつった?
「………まさかとは思うけど……ハーレムとかじゃないよな……?」
「…………」
頬を赤くして目を逸らすマッキーさん。
その瞬間、私の中で外見年齢が歳上だからと敬っていた気持ちは霧散した。
「私から離れて。ハーレム、嫌い」
「えっ‼︎いや、オレから言い寄ったんじゃないぞっ⁉︎皆、向こうから……」
「そーいう言い訳は見苦しいぞ、マッキー。あ、ちなみに俺もハーレム野郎はちょっとご遠慮願いたいから離れてくれ」
「酷くねっ⁉︎ってか、女の子達に外堀埋められてて逃げられなかったんだよっ‼︎」
「「満更でもない顔して抜かすな」」
すっげぇデロデロの顔して何言ってんだ、こいつ。
ちなみに、ハーレム要員は留守番含めて10人らしいよ。
アンチハーレム派として、ドン引きした。