第65話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(3)〜
別名・開けちゃいけない扉は開けてないけど、意図せず特殊なプレイみたいになっちゃってる回(笑)
皆様、あけましておめでとうございます。
昨年はどうもお世話になりました。
多分、今年もゆっくり更新になるかと思いますが……どうぞ気長にお付き合いくださいませ。
今年もどうぞ大・暴・走☆予定のリジー達と「悪役令嬢は乙女ゲームよりRPGがお好みです。」をよろしくお願いします!
それではいつものご挨拶〜。
今後とも〜よろしくどうぞっ٩( 'ω' )و
予想してたかな?スイレン目線だよ!
美しい景色に、美味しい魚介類。
先ほどまでのんびりとダンジョン攻略を行なっていた儂らであったが……どうやら強制的に入らなくてはならないらしい古びた沈没船に足を踏み入れた瞬間ーー。
ーー儂は、壊れずに、おられんかった。
「ぎゃぁぁぁあっ⁉︎グールゥゥゥウ⁉︎」
涙目になりながらリリィ嬢の後ろに隠れる。
儂の方が身長高いから隠れ切れてないが、そんなのどうでもいい‼︎
兎にも角にもっ……‼︎この沈没船には儂の苦手な魔物(※海賊姿)が大量におったのだぁぁぁぁっ……‼︎
『ア、ァ、アァァァァ……』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
「うわっ、ビックリした……。えっと……陛下?もしかして……あの魔物、苦手?」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
「あぁ、うん。その悲鳴が答えだね。よし……ならあたしが殺ってくるよ。ちょっと待ってて、陛下」
リリィ嬢はズルズルと近づいて来るグールに近づくと、沈没船に入った時に見つけた古びたた槌ーーそう、何故かリリィ嬢は槌を拾っていた……ーーを振り下ろし……容赦なく、グールの頭に叩きつける。
はぁぁいっ⁉︎⁉︎
「えいやっ‼︎」
ーードスドス、ゴスゴス‼︎
リリィ嬢はタコ殴りという言葉がピッタリ合うほど、グールを殴りまくる。あまりにも容赦ない殴りっぷりに、開いた方が塞がらん。
しかし、グールの動きは止まっているがリリィ嬢の攻撃は全然効いているようには見えない。
それはどうやら彼女も実感していたようで……グールの胴体を蹴って距離を取ると……。
「…………うん。戦略的撤退をしようっ、陛下っ‼︎」
そう言いながら儂の手を取り、慌てて沈没船から逃げ出すのだったーー……。
「大丈夫かい、陛下?今はグールはいないからね。泣き止むんだよ」
沈没船から少し距離を取った所で、儂はリリィ嬢からとんでもなく励まされていた。
うぅぅぅぅっ……未だに泣いとる儂が悪いんだが。あまりにも泣くモンだからリリィ嬢に心配をかけとるのは分かるんじゃが。
だが、それぐらいグールは苦手なんじゃぁぁぁぁあ……‼︎
「…………うぅぅ……‼︎す、すまんのぅ……リリィ嬢……‼︎儂の、所為で……‼︎」
「……いや、大丈夫だけど。でも、その泣きっぷり只事じゃないだろう?そんなに恐がる理由を教えてくれないかな?陛下」
心配そうに聞いてくるリリィ嬢に、儂はそっと目を逸らす。
本当はあんまり話したくない儂の黒歴史なんじゃが……流石にここまでの醜態を晒しておいて、言わないというのは不実だろう。
儂は渋々、口を開いた。
「…………自慢ではないが、儂、まぁまぁの美形じゃろう?」
「そうだね」
「それでのぅ。かなーり昔に儂に惚れたとかいう女性がおってな。生憎とその時は恋愛に興味がなかったので丁重にお断りしたんだが……相手はそれで納得してくれんくて。何をどう考えたらそうなったのか……『この世で結ばれないならあの世で結ばれましょう♡』などと言いおって、無理心中を測ろうとしたのだ」
「……………エッ」
「その時の儂はまだ魔王になる前の、弱っちい仔共での。人間の歳で換算すると13歳ぐらいか?そんな訳で簡単にその女に捕まってしまってな……それでも魔王になる素質があったからか、生命力に長けた種族であったからか。救出に来てくれた一族達の助力もあり、儂はなんとか一命を取り留めたーー…………が」
「………………ま、さ、か……」
「グールとは、強い未練を持って死んだモノ全てが成る魔物と言われておってな……死んだ女が儂を求めてグールとなって現れた訳よ……勿論、其奴は我が一族の総力を持って始末したのだが……それから儂はグールがこの世で一等苦手なんじゃ……」
「…………うわぁ……」
これはグランヒルト殿達にも話しておらん話だ。実際、彼らが生まれるよりも遥か昔の事であるし。
まさかこんなところで天敵に出会うとは思ってもおらんかったからな。
思わず死んだ魚のような気分でどこか遠くを見つめていたら、リリィ嬢がナデナデと儂の頭を撫で始めた。
…………え。
「よーしよしよし……大変だったね、陛下。そりゃあグールも苦手になって当然だ」
「リリィ、嬢……」
「大丈夫だよ。あたしが守ってあげるから。だから、安心しな。陛下」
そう言って不敵に笑うリリィ嬢はそれはもう、あまりにも格好良くて。
儂の胸がドキンッと変な鳴り方をした。
「………………とは言え。さっきのを見てたら分かるとは思うんだけど‼︎今のあたしも弱いから、守れる気はしないけどねっ‼︎」
「ふはっ‼︎」
あんなに格好良く決めたのに直ぐに前言を撤回するようなことを言ってしまうリリィ嬢の明けっぴろさに笑ってしまう。
儂は肩を震わせながら、口を開いた。
「グールは光・聖属性の魔法がよく効く。後は死んでいるからこそ回復魔法や、治療薬なんかもな。つまり、聖属性の使い手であるリリィ嬢であれば、本来ならば負けるような相手ではないはずなのだ」
「うぐっ」
「それでも勝てなかったというのは……リリィ嬢がまだ真なる意味で聖女になり得ていないからなのだろう」
「………えっ。ちょ、ちょっと待っておくれ⁉︎あたし、聖女じゃないのかい⁉︎」
リリィ嬢はギョッとした顔で叫ぶ。
…………おや??
「リリィ嬢は聖属性の魔法を取得したから聖女として〝認定〟を受けただけであろう?」
「え?は??」
「聖女の認定を授けたのはディングス王国だ。つまり、称号を与えられただけだ」
「もっと‼︎分かりやすく‼︎」
「称号としてリリィ嬢は聖女と呼ばれておるが‼︎其方は聖女になる前の卵ーー聖属性魔法の使い手だと言うことだっ‼︎」
「そうなのっ⁉︎⁉︎」
「うむ。聖属性の力を鍛え上げ、身体の欠損を治せるほどの力を得れて初めて、真の意味で聖女と呼ばれるようになるんじゃ。……………知らんかったのか?」
「知らないよっ、当然だろっ⁉︎⁉︎」
当然なのかー……。
それでは、もしかしなくても……これも知らんのか?
「では、聖属性の使い手は最終的に聖女・聖人と呼ばれるようになるが……その過程に攻撃の系統・回復の系統と覚えられる魔法が系統ごとに決まっておって、どちらかの系統しか覚えられんというのも知っておらんかったのか?」
「それも知らないよっ⁉︎⁉︎」
「おぉう……これも知らんかったか……。流石にそれはいかんのぅ。下手したら知らずに系統が決まってしまうことになる。緊急講義じゃ」
そう言って儂は、聖女の講義を始める。
聖女・聖人に至るまでに、聖属性の使い手は2つの系統のどちらかを選び、成長していかなくてはならない。
1つ目がーー聖騎士。
攻撃系の聖属性魔法を多く習得する戦闘職になる。勿論他者の回復も優れてはいるが……自己回復に長け、前線でも戦えるようになり、また長期戦になればなるほど有利になる能力を多く習得できる。
2つ目がーー聖司祭。
回復、結界魔法や味方への強化などを行う支援職となる。聖騎士よりも遥かに自己防衛能力が劣るため、誰かに守ってもらわなくてはいけなくなるが……その分だけ魔法の効果や範囲が大幅に強化される。
「系統を選ばなくてはならないとは言っておるが……実際には本人の適性と戦闘スタイルに合わせて、自然に決まることになると聞く。要は自ら仲間と共に戦っていくか、守られながら後ろで支えていくかのどちらかはリリィ嬢次第ということだ」
「あたし次第……」
「うむ。だが、直ぐに系統が決まる訳ではないからの。しっかりと自分の力に向き合うと良い」
リリィ嬢は自身の手を見つめながら考え込む。
ついでにチラリッと沈没船で拾った槌も。
…………なんとなく。リリィ嬢がどちらの系統を選ぶのか、分かってしまった気がした。
「……って、ふと思ったんだけど」
「うん?」
「陛下はなんでそんなに聖女について詳しいんだい?陛下が教えてくれた内容は、あたしの教育係?とかいう人も教えてくれなかったことばっかりだ。それも……歴代の聖女と魔王って仲が良い訳でもないんだろ?だから……」
「あぁ……確かに魔王が聖女に詳しいなんて、不思議に思って当然だな。しかし、魔王だからこそ我らの〝穢れ〟を浄化してくれる聖女・聖人の情報を正しく後継する必要があってな。そのため、代々魔王が住む屋敷には魔王や聖女に関しての文献が沢山残っているのだよ。儂はそれで学んだんじゃ」
「あぁ、成る程……それなら、陛下が詳しいのにも納得だね」
しかし、この内容をグランヒルト殿達も話していないということは、ディングス王国には聖女に関する詳しい文献が残っていないのかもしれない。
儂の屋敷にはある文献も、いつ何が起きて紛失するか分からないからな。後で情報共有しておいた方が良いかもしれん。
「それで?今はどうするんだい?」
「ん?」
「結局、今のあたしが強くないのは変わらないだろ?どうやってあの海賊船を攻略する?」
………………ハッ‼︎
言われてみればそうじゃった……。多分、またグールと対面すれば、儂は混乱して倒すどころではなくなってしまうじゃろうし。
けれど、リリィ嬢はグールを倒せるほどの強さはないし。
これは……詰んだのでは……?
……。
…………。
…………アッ、いや待て?
「確か……聖属性の使い手は人を癒すことでも経験を積めたはず。取り敢えず儂が自傷してその傷を癒やして経験をーー」
「はぁっ⁉︎そんなの却下に決まってるからねっ⁉︎」
「何故だ⁉︎」
「仲間が自傷するなんざ許せるはずないだろっ⁉︎」
「だ、だがな?リリィ嬢ーー」
「ス・イ・レ・ン・へ・い・か?」
「…………」
ーーにっこり。
リリィ嬢の笑顔に気圧された儂は、思わず黙り込む。
何故じゃろう……彼女の方が儂よりも遥かに弱いというのに。逆らえない、何かがあった。
「じゃが、実際どうするんだ……手詰まりだぞ?」
「うーん……」
儂らは唸りながら考え込む。
他の案……他の案、なぁ……。難しくないか?
やっぱり手詰まりな気がしてきた儂だったが、リリィ嬢は違ったらしい。彼女は確認するように問うてきた。
「あのさぁ……スイレン陛下ってすっごい強いよね?」
「ん?まぁ……自慢ではないが、それなりに剣技を磨いてきた自負はあるぞ」
「魔法は使えんのかい?」
「魔法?あぁ……そういえば儂の能力を教えておらんかったか。儂は《水龍》。剣ーー正確には刀術と水魔法を得意とし、種族特性として〝清浄〟の力を持つ。そのため、儂の魔法には多少の浄化の力が宿っている。流石に聖女ほどの浄化能力はないがな」
「…………ってことは、遠距離攻撃もできるってこと?」
「勿論、可能だ。しかし、グールに相対すると混乱するからな。グール相手では戦えんぞ」
「相対すると……なら、見なければ良いってことかい?」
…………うん?どういうことだ??
「グールを見るとパニックになるんだよね?なら、見なければ冷静でいられるんじゃないかな?」
「…………見なければ?」
「そう。見なければ」
「………………」
儂は考えてみる。
………グールを見なければ。まぁ、うむ……ギリギリ?本当にギリギリになるだろうが、頑張れば我慢できそうな気もしなくもない。
「…………多分、なんとかなるとは思う……が。目を瞑っててもふとした弾みで目を開けてしまうかもしれんぞ?」
「そこは大丈夫」
「え?」
「失礼するよ、陛下」
リリィ嬢は肩紐に結ばれていたピンクのリボンを解く。どうやら取り外し可能だったらしい。
いや、今はそんなことどうでもいい‼︎
〝えっ、まさか⁉︎〟と困惑している間に、リリィ嬢は儂の目をリボンで覆って隠した。
視界が真っ暗になり、儂は更に動揺する。
…………えぇぇっっ⁉︎⁉︎
「リ、リリィ嬢っ……⁉︎」
「よっし。これでオッケー」
「何がオッケーだっ⁉︎」
「大丈夫。誘導はあたしに任せな。陛下は水魔法をひたすら撃つ役ね」
そう言った彼女は儂の手を取って、ふわりと柔らかいものを包み込むように腕を回させる。勿論、儂の腕は彼女に掴まれたまま。
こ、この温かさと甘い香りと、柔らかさは……まさかっ⁉︎
「あたしの胴体に腕を回してたら、もっと安全だからね。でも擽ったいから揉んだりはしないでおくれよ?」
「ちょっ、リリィ嬢ぉっ⁉︎」
「んじゃ行くよ、陛下‼︎前に進むよー」
「えぇぇぇぇぇぇ……⁉︎⁉︎」
そう言って、てってけ歩き出すリリィ嬢。
腕を掴まれたままの儂はただただついて行くしかない。
目隠しされている男と、そんな男を自分に抱きつかせて歩く少女……その絵面のとんでもなさに、儂は冷や汗が止まらなくなる。
(な、な、なんでっ……⁉︎なんでこんなことになったんだっ……⁉︎⁉︎)
流石の儂でも……今回ばかりは心の中で、悲鳴をあげずにはいられなかった。




